大型車1台がやっと通れる幅しかない岩手県・胆沢ダム近くの林道をゆっくりと走っていたバスの前に突然、土砂が押し寄せた。突き上げるような揺れもあった。
地震発生直後の14日午前8時43分すぎ。
「揺れがおさまるまで待て」。だれかの大声で、みんなが手すりなどにつかまったが、車体は脱輪したような状態でがけ側に傾いていた。窓ガラスごしに迫ってきた土砂が、みるみるうちに窓までせり上がると、バリンと割れ始めた。
車内には、周辺の山中にある史跡に向かっていた「胆沢ダム水資源のブナ原生林を守る会」会員ら約20人がいた。
揺れがおさまると、誰かが叫んだ。
「今のうちだ。窓をあけろ」「開かない」
山側の窓で土砂に埋まっていなかったのは二つしかなかった。
「早く出ろ」
割れた窓や開いた窓から次々に脱出した。山がよく見える右側の席に座っていた税理士の蜂谷義昭さん(74)も、他の乗客が残したリュックを窓の外にいくつか放り投げた後、窓からバスの外に出た。
その直後。蜂谷さんが振り向くと、バスは回転しながら滑り落ちていった。まだ、車内には9人がいた。
一番後ろの席の右側に座っていた奥州市水沢区の阿部博敏さん(52)もその一人だった。2回転か3回転したように思えた。木に引っかかるように止まったのは、林道から数十メートルも下だった。
「後部座席の下で踏ん張っていた。そのまま落ちるんじゃないかと思った」
バスの窓ガラスはすべて割れ、車内は血だらけに。
助けに下りてきてくれたのは、林道で先に降りていた会の事務局長の小野寺正英さん(64)たちだった。上着を脱ぎ、けが人を抱え、その傷口を押さえてくれた。
自力で歩けたのは3人しかおらず、比較的けがの軽かった阿部さんも、他の乗客の手をとり、車外に連れ出した。
そのころ、最初にバスから脱出した人たちは、「携帯電話の通じる場所」を求めて、ところどころ崩れた林道を1キロほど歩いた。電話が通じてしばらくすると、ヘリコプターの音が聞こえてきた。小野寺さんは「『寒い』と震える人もいた。ヘリの音が聞こえてからとても長く感じたが、待つしかなかった」。
骨が折れるなどした7人がヘリコプターで県立胆沢病院に運ばれた。