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野茂英雄、常識破りの快投 米大リーグでノーヒット・ノーラン(1996年9月19日)

1996年9月19日

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 【ロサンゼルス17日=水本和実】十七日(日本時間十八日)、野茂が米大リーグで記録した無安打無得点試合は、このところ3連勝だったとはいえ、投手に不利と言われる球場での大記録。大リーガーはもちろん、米国ファンの度肝を抜き、再び「トルネード」の存在感を強烈にアピールした。

  

 ○高地=飛ぶ打球、低温にめげず110球

 ピアザのサインに、野茂が珍しく首を振った。九回二死。記録達成まであと一人の場面だ。ロッキーズファンまでが立ち上がって、声援を送る。三番バークスのカウントは2―2。「フォークボールで決めたかったから」と野茂。緊張をほぐすようにフーと息を吐き、投げ込んだ110球目は外角にすっと落ちた。バットが空を切る。あっけないほどの記録達成だった。

 標高約千六百メートルの高地にあるクアーズ・フィールド。気圧が低いため、平地の球場に比べて、打球がよく飛ぶことで知られる。野茂も、過去二回は大量失点でKOされた苦い経験を持っている。おまけにこの日は、雨で試合開始が二時間遅れ、気温が一〇度まで下がる悪コンディション。だが、野茂は考えた投球で、勝利どころか「大リーグ史上でも最高ランクの快投」(ラッセル監督)をやってのけた。

 立ち上がりは決してよくなかった。四球と盗塁で一回二死三塁、二回一死二塁とピンチを迎える。だが、得意のフォークで後続を断った。考えたのは、その後だ。「足元が滑ってバランスが悪い」と三回から、セットポジションに変えた。ピンチの際に感じた「セットの方がフォームが安定している」をすぐに実践するあたりが、大リーグ二年目の経験だろう。それがピタリと当たった。後はピアザの好リードもあって、危なげない投球。バックの好守、大量得点にも支えられ、チーム本塁打二百本を超える強力打線をきりきり舞いさせた。

 昨年はトルネード投法と奪三振で、「NOMO」ブームを巻き起こし、ナ・リーグの新人王に輝いた野茂。今度は「投手の勲章」である大記録で、大リーグ史上に名前を刻んだ。

 (水本和実)

  

 ○「Wシリーズでの完全試合に匹敵」 ラッセル監督

 打者有利と言われる球場での無安打無得点試合。大リーグの常識をひっくり返した快投は、両チーム関係者に強い衝撃を与えた。

 ドジャースのラッセル監督は一九五六年のワールドシリーズでヤンキースのドン・ラーセンが達成した完全試合を引き合いに出した。「野茂がやったことはワールドシリーズでの完全試合に匹敵する。大リーグ史上で最高の部類にランクされるべき快投だ」と米国人記者に語りかけた。

 ロッキーズのロッカールームでは「信じられない」という意味の「インクレディブル」「アンビリーバブル」が飛び交った。ベイラー監督は「この球場でノーヒットは不可能だと思っていた。素晴らしいというしかない」と脱帽し「野茂は昨季より確実に進歩した。それは経験から多くを学んだからだ」とたたえた。(共同)

  

 <現地で試合をみていた野球解説者の村上雅則氏の話> こんな記録まで達成するとは。今日は制球、キレともよかった。直球にまぜたボール球のフォークも効果的で、三振を取れた。走者を出しても後続を凡退させたり、けん制で刺すなど、よく危機を切り抜けた。

 <巨人・長嶋監督の話> メジャー二年目にして、あの強力打線を相手にすごいですね。日本の野球のレベルの高さを実証してくれました。特に日本の投手たちの感動はひとしおでしょう。

 <ヤクルト・野村監督の話> メジャーのレベルが一時ほど高くないということだと思うが、素直に拍手をしたい。一世一代の投球じゃなければいいがな。

 <オリックス・仰木監督の話> 最近の投球を見ていると、無安打無得点をやっておかしくないなという感じだ。日本時代より制球がよくなった上、体もスリムになった。米国野球の方が、彼の攻めていく投球に合っていたということだろう。

 <ドジャース・ピアザ捕手の話> いつもよりボールがよく切れていたし、フォークボールの落ちもよかった。ぼくは科学者じゃないから断言できないが、雨による湿り気がよかったのかもしれない。(共同)

 <ドジャース・ウォーレス投手コーチの話> われわれは、ロッキーズのあの強打線を、打者有利の球場でノーヒットに封じるという歴史的な出来事を目撃した。野茂は偉大な競技者で真のプロだ。ピアザも素晴らしい配球をした。(共同)

  

 ●「9回だけ記録意識」 一問一答

 試合終了は十八日に日付が変わる三分前。快記録を達成したヒーローの記者会見は真夜中だった。

 ――率直な気持ちを。

 「個人的にもすごくうれしいけど、(優勝争いしている)この時期に勝てるのはすごくうれしい」

 ――記録を意識したのは。

 「九回だけです」

 ――三回からセットポジションで投げていたが。

 「足元が滑り、セットの方がバランス良く投げられたので、自分の判断でセットに変えた」

 ――開始が二時間遅れたが。

 「音楽を聴いたり、ボーッとしたりして、すごくリラックスしていた」

 ――快挙をどう思うか。

 「信じてもらえないかもしれないが、試合に勝つことだけを考えていたから、ノーヒットより勝てたことがうれしい」

 ――相手のベイラー監督もほめていた。

 「自分のボールが良かったこともあるが、ボールがコントロールしにくいことを分かった上で、捕手がうまくリードしてくれた」(共同)

  

 ◇野茂の投球内容

 【ロッキーズ】

 <二> ヤング   (1)中飛    中飛 (6)四球  (9)二ゴロ

 <中> マクラッケン   四球    二ゴロ   投ゴロ    二ゴロ

 <左> バークス     右飛 (4)四球    投ゴロ    三振

 <右> ビシェット    三振    三振 (7)三振

 <一> ガララーガ (2)四球    遊ゴロ   右直

 <三> カスティーヤ   三振    右飛    中飛

 <捕> デッカー     三振 (5)右飛 (8)三振

 <遊> ペレス      遊邪飛   三飛    二ゴロ

 <投> スウィフト (3)二ゴロ   三振    三飛

 ※カッコ内数字は回数。上記以外に6選手の出場あり。8回の三振は代打ジョーンズ、三飛は代打バンダウォール(日刊スポーツ提供)

  

 【野茂の投球内訳】

 ▽三振8▽内野ゴロ8▽内野飛球3▽外野飛球7▽盗塁死1▽四球4▽投球数110

  

 ドジャース 021 002 013│9

 ロッキーズ 000 000 000│0

 (ド)野茂―ピアザ     (ロ)スウィフト、S・リード、リーカー、ベケット―デッカー、J・リード

 ▽勝 野茂16勝10敗

 ▽敗 スウィフト1勝1敗

 ▽本塁打 ウォーラック4号(ド)(共同)

  

 ◆野茂の今季成績 (17日現在、◎は完封) (共同)

 月日  相手    勝敗 回数    打  安  三 四 失 自

                    者  打  振 死 点 責

 4/3 アストロズ  ● 4     23 7  2 5 4 4

   8 ブレーブス  ◎ 9     34 3  6 5 0 0

  13 マーリンズ  ○ 9     31 3 17 3 1 1

  20 マーリンズ  ● 4 1/3 23 7  6 2 6 4

  25 アストロズ  ○ 7     30 6  4 3 4 4

  30 ロッキーズ  ○ 8     29 5  6 1 2 2

 5/6 パイレーツ  ○ 7     31 8  5 2 4 4

  12 カージナルス ● 5     24 9  6 2 4 4

  17 フィリーズ  ○ 7     29 8  9 1 3 3

  22 メッツ    ● 6     24 6  8 2 3 3

  29 フィリーズ    6     23 4  7 2 1 1

 6/4 パイレーツ  ● 6     25 7  7 1 3 3

   9 レッズ    ○ 8     31 5  9 2 2 2

  15 ブレーブス  ○ 6 1/3 23 5  6 1 1 1

  20 アストロズ  ● 7     29 6  8 2 4 4

  25 カブス    ● 8     28 4  9 0 2 1

  30 ロッキーズ    5     29 9  9 4 9 5

 7/5 ロッキーズ  ○ 8     30 5  9 1 1 1

  13 ジャイアンツ ● 7     31 7 10 3 5 2

  18 ジャイアンツ ○ 8     35 4  8 5 3 3

  24 マーリンズ  ● 7     24 3  5 1 3 3

  30 マーリンズ    7     28 5  5 3 3 3

 8/4 ブレーブス    7     33 9  7 4 3 3

  10 レッズ    ○ 5 2/3 25 3  5 7 4 4

  15 カージナルス ○ 8     29 4 10 0 2 2

  21 フィリーズ  ● 6 2/3 29 7  6 1 5 3

  27 エクスポズ  ○ 7     28 6  6 4 1 1

 9/1 フィリーズ    7     27 5  6 2 1 1

   7 パイレーツ  ○ 8 2/3 32 4  9 3 3 3

  12 カージナルス ○ 8     29 2  6 4 1 1

  17 ロッキーズ  ◎ 9     30 0  8 4 0 0

  

      回数      打者  安打  三振  四死 失点 自責

 計    216 2/3 876 166 224 80 88 76

  

 〈野茂の略歴〉大阪の成城工高から社会人野球の新日鉄堺を経て、一九九〇年にドラフト一位で近鉄に入団。一年目に18勝をあげ、最多勝利、防御率一位、最多奪三振などでMVP、最優秀新人、沢村賞を受賞。入団以来、四年連続で最多勝利、最多奪三振のタイトルを獲得した。

 右肩痛に悩まされ8勝7敗で終わった九四年のプレーを最後に近鉄を退団。近鉄での78勝46敗1セーブの通算成績をひっさげ九五年、ドジャース入り。オールスター戦の先発投手も務め、13勝6敗で地区優勝に貢献、新人王に輝いた。全米の注目を集め、労使紛争でファン離れが心配された大リーグの救世主とも言われた。

 今季は、奪三振は昨年よりペースダウンしているが、昨年の勝利数を超え、ナ・リーグ西地区首位のドジャースを引っ張る。

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