【ロサンゼルス17日=水本和実】十七日(日本時間十八日)、野茂が米大リーグで記録した無安打無得点試合は、このところ3連勝だったとはいえ、投手に不利と言われる球場での大記録。大リーガーはもちろん、米国ファンの度肝を抜き、再び「トルネード」の存在感を強烈にアピールした。
○高地=飛ぶ打球、低温にめげず110球
ピアザのサインに、野茂が珍しく首を振った。九回二死。記録達成まであと一人の場面だ。ロッキーズファンまでが立ち上がって、声援を送る。三番バークスのカウントは2―2。「フォークボールで決めたかったから」と野茂。緊張をほぐすようにフーと息を吐き、投げ込んだ110球目は外角にすっと落ちた。バットが空を切る。あっけないほどの記録達成だった。
標高約千六百メートルの高地にあるクアーズ・フィールド。気圧が低いため、平地の球場に比べて、打球がよく飛ぶことで知られる。野茂も、過去二回は大量失点でKOされた苦い経験を持っている。おまけにこの日は、雨で試合開始が二時間遅れ、気温が一〇度まで下がる悪コンディション。だが、野茂は考えた投球で、勝利どころか「大リーグ史上でも最高ランクの快投」(ラッセル監督)をやってのけた。
立ち上がりは決してよくなかった。四球と盗塁で一回二死三塁、二回一死二塁とピンチを迎える。だが、得意のフォークで後続を断った。考えたのは、その後だ。「足元が滑ってバランスが悪い」と三回から、セットポジションに変えた。ピンチの際に感じた「セットの方がフォームが安定している」をすぐに実践するあたりが、大リーグ二年目の経験だろう。それがピタリと当たった。後はピアザの好リードもあって、危なげない投球。バックの好守、大量得点にも支えられ、チーム本塁打二百本を超える強力打線をきりきり舞いさせた。
昨年はトルネード投法と奪三振で、「NOMO」ブームを巻き起こし、ナ・リーグの新人王に輝いた野茂。今度は「投手の勲章」である大記録で、大リーグ史上に名前を刻んだ。
(水本和実)
○「Wシリーズでの完全試合に匹敵」 ラッセル監督
打者有利と言われる球場での無安打無得点試合。大リーグの常識をひっくり返した快投は、両チーム関係者に強い衝撃を与えた。
ドジャースのラッセル監督は一九五六年のワールドシリーズでヤンキースのドン・ラーセンが達成した完全試合を引き合いに出した。「野茂がやったことはワールドシリーズでの完全試合に匹敵する。大リーグ史上で最高の部類にランクされるべき快投だ」と米国人記者に語りかけた。
ロッキーズのロッカールームでは「信じられない」という意味の「インクレディブル」「アンビリーバブル」が飛び交った。ベイラー監督は「この球場でノーヒットは不可能だと思っていた。素晴らしいというしかない」と脱帽し「野茂は昨季より確実に進歩した。それは経験から多くを学んだからだ」とたたえた。(共同)
<現地で試合をみていた野球解説者の村上雅則氏の話> こんな記録まで達成するとは。今日は制球、キレともよかった。直球にまぜたボール球のフォークも効果的で、三振を取れた。走者を出しても後続を凡退させたり、けん制で刺すなど、よく危機を切り抜けた。
<巨人・長嶋監督の話> メジャー二年目にして、あの強力打線を相手にすごいですね。日本の野球のレベルの高さを実証してくれました。特に日本の投手たちの感動はひとしおでしょう。
<ヤクルト・野村監督の話> メジャーのレベルが一時ほど高くないということだと思うが、素直に拍手をしたい。一世一代の投球じゃなければいいがな。
<オリックス・仰木監督の話> 最近の投球を見ていると、無安打無得点をやっておかしくないなという感じだ。日本時代より制球がよくなった上、体もスリムになった。米国野球の方が、彼の攻めていく投球に合っていたということだろう。
<ドジャース・ピアザ捕手の話> いつもよりボールがよく切れていたし、フォークボールの落ちもよかった。ぼくは科学者じゃないから断言できないが、雨による湿り気がよかったのかもしれない。(共同)
<ドジャース・ウォーレス投手コーチの話> われわれは、ロッキーズのあの強打線を、打者有利の球場でノーヒットに封じるという歴史的な出来事を目撃した。野茂は偉大な競技者で真のプロだ。ピアザも素晴らしい配球をした。(共同)
●「9回だけ記録意識」 一問一答
試合終了は十八日に日付が変わる三分前。快記録を達成したヒーローの記者会見は真夜中だった。
――率直な気持ちを。
「個人的にもすごくうれしいけど、(優勝争いしている)この時期に勝てるのはすごくうれしい」
――記録を意識したのは。
「九回だけです」
――三回からセットポジションで投げていたが。
「足元が滑り、セットの方がバランス良く投げられたので、自分の判断でセットに変えた」
――開始が二時間遅れたが。
「音楽を聴いたり、ボーッとしたりして、すごくリラックスしていた」
――快挙をどう思うか。
「信じてもらえないかもしれないが、試合に勝つことだけを考えていたから、ノーヒットより勝てたことがうれしい」
――相手のベイラー監督もほめていた。
「自分のボールが良かったこともあるが、ボールがコントロールしにくいことを分かった上で、捕手がうまくリードしてくれた」(共同)
◇野茂の投球内容
【ロッキーズ】
<二> ヤング (1)中飛 中飛 (6)四球 (9)二ゴロ
<中> マクラッケン 四球 二ゴロ 投ゴロ 二ゴロ
<左> バークス 右飛 (4)四球 投ゴロ 三振
<右> ビシェット 三振 三振 (7)三振
<一> ガララーガ (2)四球 遊ゴロ 右直
<三> カスティーヤ 三振 右飛 中飛
<捕> デッカー 三振 (5)右飛 (8)三振
<遊> ペレス 遊邪飛 三飛 二ゴロ
<投> スウィフト (3)二ゴロ 三振 三飛
※カッコ内数字は回数。上記以外に6選手の出場あり。8回の三振は代打ジョーンズ、三飛は代打バンダウォール(日刊スポーツ提供)
【野茂の投球内訳】
▽三振8▽内野ゴロ8▽内野飛球3▽外野飛球7▽盗塁死1▽四球4▽投球数110
ドジャース 021 002 013│9
ロッキーズ 000 000 000│0
(ド)野茂―ピアザ (ロ)スウィフト、S・リード、リーカー、ベケット―デッカー、J・リード
▽勝 野茂16勝10敗
▽敗 スウィフト1勝1敗
▽本塁打 ウォーラック4号(ド)(共同)
◆野茂の今季成績 (17日現在、◎は完封) (共同)
月日 相手 勝敗 回数 打 安 三 四 失 自
者 打 振 死 点 責
4/3 アストロズ ● 4 23 7 2 5 4 4
8 ブレーブス ◎ 9 34 3 6 5 0 0
13 マーリンズ ○ 9 31 3 17 3 1 1
20 マーリンズ ● 4 1/3 23 7 6 2 6 4
25 アストロズ ○ 7 30 6 4 3 4 4
30 ロッキーズ ○ 8 29 5 6 1 2 2
5/6 パイレーツ ○ 7 31 8 5 2 4 4
12 カージナルス ● 5 24 9 6 2 4 4
17 フィリーズ ○ 7 29 8 9 1 3 3
22 メッツ ● 6 24 6 8 2 3 3
29 フィリーズ 6 23 4 7 2 1 1
6/4 パイレーツ ● 6 25 7 7 1 3 3
9 レッズ ○ 8 31 5 9 2 2 2
15 ブレーブス ○ 6 1/3 23 5 6 1 1 1
20 アストロズ ● 7 29 6 8 2 4 4
25 カブス ● 8 28 4 9 0 2 1
30 ロッキーズ 5 29 9 9 4 9 5
7/5 ロッキーズ ○ 8 30 5 9 1 1 1
13 ジャイアンツ ● 7 31 7 10 3 5 2
18 ジャイアンツ ○ 8 35 4 8 5 3 3
24 マーリンズ ● 7 24 3 5 1 3 3
30 マーリンズ 7 28 5 5 3 3 3
8/4 ブレーブス 7 33 9 7 4 3 3
10 レッズ ○ 5 2/3 25 3 5 7 4 4
15 カージナルス ○ 8 29 4 10 0 2 2
21 フィリーズ ● 6 2/3 29 7 6 1 5 3
27 エクスポズ ○ 7 28 6 6 4 1 1
9/1 フィリーズ 7 27 5 6 2 1 1
7 パイレーツ ○ 8 2/3 32 4 9 3 3 3
12 カージナルス ○ 8 29 2 6 4 1 1
17 ロッキーズ ◎ 9 30 0 8 4 0 0
回数 打者 安打 三振 四死 失点 自責
計 216 2/3 876 166 224 80 88 76
〈野茂の略歴〉大阪の成城工高から社会人野球の新日鉄堺を経て、一九九〇年にドラフト一位で近鉄に入団。一年目に18勝をあげ、最多勝利、防御率一位、最多奪三振などでMVP、最優秀新人、沢村賞を受賞。入団以来、四年連続で最多勝利、最多奪三振のタイトルを獲得した。
右肩痛に悩まされ8勝7敗で終わった九四年のプレーを最後に近鉄を退団。近鉄での78勝46敗1セーブの通算成績をひっさげ九五年、ドジャース入り。オールスター戦の先発投手も務め、13勝6敗で地区優勝に貢献、新人王に輝いた。全米の注目を集め、労使紛争でファン離れが心配された大リーグの救世主とも言われた。
今季は、奪三振は昨年よりペースダウンしているが、昨年の勝利数を超え、ナ・リーグ西地区首位のドジャースを引っ張る。