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物理学の予言者、半世紀前にアイディア提唱 南部氏

2008年10月8日3時2分

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写真渡米直後の南部陽一郎さん(前列右)。後列左端は02年にノーベル物理学賞を受けた小柴昌俊さん、その隣は65年に故・朝永振一郎博士らと物理学賞を受賞した故・リチャード・ファインマン博士=1953年ごろ、ニューヨーク州ロチェスター

図拡大「対称性の自発的破れ」の概念図

 米シカゴ大学の南部陽一郎・名誉教授(87)は「物理学の予言者」と呼ばれる。

 70年代後半、シカゴ大で師事した江口徹・京都大基礎物理学研究所長は「だれかが言い出す4、5年前に言い出しっぺになる。とても難解で、すぐには注目されないが、そのうち真価がわかってきて、広まる。流れが来る前に見通す能力は世界一だ」という。

 南部さんは常々、「素粒子にはなぜ質量があるのか。生涯の研究テーマです」と語っていた。この「質量の起源」を解き明かすため、50年近く前に「対称性の自発的破れ」というアイデアを提唱した。

 このアイデアは素粒子理論の世界にとどまらず、超伝導や磁石などの物理にも大きな影響を及ぼした。

 質量の起源を探る壮大な実験も、この9月から、ジュネーブにある欧州合同原子核研究機関(CERN)の新しい加速器LHCで始まった。

 「対称性の自発的破れ」とは、たとえば底が盛り上がったワインの瓶は上から見ると左右対称なのに、そこに小さな玉を入れると、玉は瓶底の中央ではなく、へりに近いくぼみに落ち込むようなものだ。瓶そのものは左右対称でも、玉まで含めた場合は「対称性」が失われている。

 日常感覚では、このような現象は当たり前で、人間の心臓が常に左側にあるように、左右の対称性がそもそも失われている。だが、素粒子はすべての物質の最も基本となる構成要素だ。どこから見ても同じであるべきで、どんな状況でも「対称性」が成り立っていると信じられてきた。

 しかし、南部さんは「素粒子の世界でも対称性が自然に破綻(はたん)するケースがありうる」と考えた。破綻するのは、対称性が失われた方がエネルギー的に安定する場合だ。一見、常識破りのこの考え方が、「質量の起源」を解き明かす研究の端緒となった。

 素粒子の崩壊にかかわる「ゲージ粒子」は、物理法則から導かれる質量はゼロ。なのに、現実には、陽子の100倍近い重さがある。こうした理論と現実とのギャップを埋める役割を、南部さんのアイデアが担った。

 いまの素粒子理論では、対称性が失われると、質量がゼロの粒子でも質量をもったかのように振る舞えると考えられている。また、電気抵抗がゼロになる超伝導のような性質も、対称性が破れたために生まれると説明されている。

 南部さんは65年には、物質を形づくっている基本粒子「クォーク」に三つの異なった状態(色)があるとする理論を提唱。3個のクォークが強く結びついて1個の陽子や中性子になる理由を説明する「量子色力学」という新たな研究分野を切り開いた。クォークはその前年に「仮説」として登場したばかりだった。

 70年には、クォークを「粒」ではなく「ひも」と考えるアイデアを発表した。これは、現在確立している「標準理論」を超え、より統一的に物質や力の根源を説明する究極の理論「超弦理論」の先駆けとなった。

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