現在位置:
  1. asahi.com
  2. ニュース
  3. 特集
  4. 働けど貧困
  5. 記事

「コメだけでは食えぬ」自動車不況、青森出稼ぎ農家直撃

2008年12月28日12時3分

印刷

ソーシャルブックマーク このエントリをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

写真ハローワークであった県外企業の現地選考会。以前はキャンセル待ちが出るほどだったが、企業側の空席が目立つ=18日、青森県五所川原市、兼田写す

写真ハローワークであった県外企業の現地選考会。愛知県の派遣会社などが撤退し、参加企業は激減している=18日、青森県五所川原市、兼田写す

地図

 トヨタ自動車を中心とする愛知県内の自動車関連企業の不況が、青森県の出稼ぎに大きな影を落としている。求人する企業がほとんど消えた。見込んでいた収入を閉ざされてしまった農家が、厳しい年の瀬を迎えている。

 「米だげだば、食ってげねーのにさ。どすべ」

 青森県五所川原市のハローワークに求人情報を探しに来ていたコメ農家の男性(39)は、製造業の県外求人のチラシ棚がほとんど空なのを横目で見ると、部屋を出て軽トラックに乗り込んだ。

 昨年まで、11月から翌年の3月にかけては出稼ぎに出ていた。4年続けて愛知県の工場で働いた。5カ月の稼ぎは例年、約100万円になった。米価の下落で農家の収入は減る一方で、貴重な生活費だった。

 だが、今年はまだ見つからない。以前契約した愛知県の派遣会社に頼み込んでもいるが、最近は折り返しの電話すらもらえない。

 「田植えもあるがら3月には帰って来ねーばねえ。時期も中途半端になってしまったし……」

 地吹雪と、太宰治の出身地(旧金木町)で有名な、津軽半島の中央にある人口約6万2千人の市。雪に閉ざされる冬が迫ったいま、今シーズンの仕事先はもう見つからないと男性は覚悟している。

 今月下旬のこの日、ハローワークの会議室では、派遣会社などによる「採用選考会」が開かれていた。仕事先の22社のうち、愛知県は1社だけ。ほかは、土木作業やリゾート地の賄いなどの仕事が大半だった。

 自動車関連の求人がないのを知った男性(40)は、重い足取りで引き返した。近くの町から車で1時間ほどかけ、毎日のように情報を探しに来ている。

 2年間働いた愛知の自動車部品工場を雇い止めになって仕事を失ったのは10月だった。月収は約25万円だった。

 実家はコメ農家だった。だが、コメでは食えず、農家をやめた年金暮らしの父母と3人で暮らしている。

 「愛知の会社は非正規社員でも待遇がよかった。もちろん正社員として働きたいが、食いつなぐためには、自動車関連の仕事なら何でもいい」

 男性は求人情報誌をめくる日々が続いている。

 派遣会社などが雇っていた地元の駐在員の多くも失職したり、自宅待機になったりしているという。

■送り出し先、東京から愛知へ

 青森労働局によると、青森県の出稼ぎ者数は07年度は約7800人いた。愛知に出稼ぎ労働者を送り出している県としては、沖縄が圧倒的に多く、次いで北海道、青森の順とみられている。

 青森の出稼ぎ先と言えばこれまでは東京周辺だったが、トヨタの好調のころには愛知県に移り、「元気な東海」経済を下支えした。

 五所川原市のハローワークが把握している出稼ぎ者の行き先をみると、周辺の1市5町も含めた07年度は愛知が478人と最も多く、神奈川の435人、東京の421人を抜いた。

 昔の出稼ぎは「農閑期の建設業」という例が多かったが、04年に製造業への派遣が解禁され、愛知への流入を加速させた。東海地方の人材会社に雇われた現地駐在員の一人は「年齢は多少ごまかしても、どんどん送り出した」と振り返る。「手を挙げれば健康診断に引っかからない限り、1週間後には働けた。現地選考会に求人企業が殺到し、先着や抽選で制限していたので、あぶれた企業から苦情が来るほどだった」と話す関係者もいる。

 ただ、一気に膨らんだ「人材補給」がもたらす問題も少なくない。

 青森県の弘前大学の学生グループ「青森雇用・社会問題研究所」が、現地選考会の会場で20、30代の若者に聞き取り調査をした結果、不安定な雇用形態をよく理解しないまま、高い賃金に引かれて応募する人が多かった。

 現地選考を担当する駐在員の多くも地元採用の非正規社員で、派遣先の実情を知らないまま、いつでも働ける「ストック要員」として送り出す例も目立った。調査にあたった学生は「結局、単純労働で、青森に戻っても就業体験が生きない。人材が消耗されている」と指摘する。(兼田徳幸)

PR情報
検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内