13日、米ウィスコンシン州ジェーンズビルのGMの工場。12月23日、予定より早く閉鎖されることになった=AP
ビッグ3と日本メーカーの米市場シェア
米国の北東部、五大湖にほど近いウィスコンシン州ジェーンズビル。人口6万人のこぢんまりした街を走ると、「GM」と書かれた灰色の煙突が見えてくる。ゼネラル・モーターズ(GM)にとって、1919年から操業を続けた最古の工場だ。敷地には古ぼけた線路が走る。
今月13日、予定より2年ほど早く、12月下旬の閉鎖が決まった。全従業員1300人が解雇される。7月にやはり同じ人数が解雇されたばかり。大恐慌の10年前、第1次世界大戦後の好況のなかで開業した工場は、「100年に1度」の危機とともに消える。
GMは日本車との競争やガソリンの高騰で、大型車を中心とした販売不振が続いていた。そこへ、金融危機で資金繰りが急速に悪化。リストラを余儀なくされた。この工場でも大型SUV(スポーツ用多目的車)を生産してきた。
部品会社の工場も相次いで閉鎖が決まった。市内の部品工場で働くクリスさん(41)は16日、職場で上司から12月下旬の解雇を告げられた。中国製品との競争におされる家具業界から転じて、3年。「こんなに早く首を切られるなんて」
市によると、GMの工場閉鎖で市内の就業者の6%に当たる2千人以上が職を失う見通しだ。工場の閉鎖は地域に大きな影響を及ぼす。米自動車工業会によれば、自動車産業には米国の労働者の10人に1人が関係する。米政府は9月末、総額250億ドル(約2.5兆円)の低利融資の保証を決め、救済に乗り出した。
だが、資金繰りをしのげても、見通しは明るくない。米調査会社JDパワーによると、08年の米国の新車販売が前年より16%減の1360万台の見通し。92年以来16年ぶりの低水準で、09年にはさらに40万台減ると予想。2年で、世界5位の自動車大国である英国一国分を上回る販売台数が消えてしまう。
ミシガン大交通研究所のブルース・ベルゾウスキ副所長は「米国市場の回復が遅れれば、(このままでは)ビッグ3のいずれかは2年以内に資金が足らずに経営破綻(はたん)する可能性が高い」と指摘する。
大規模なリストラを繰り返すGMは6月末時点で570億ドル(約5.7兆円)の債務超過。社債の格付けは「投資適格」とされる水準を下回る。それでも何とか持ちこたえてきたのは、「カネ余り」に沸く米金融市場の恩恵に負うところが大きかった。リスクは高いが「高リターン」を狙う投資家の購入意欲が旺盛で、カネが回った。その循環がほころび始めた。
金融危機と市場の縮小が、ビッグ3を業界再編へと駆り立てる。GMとクライスラーとの合併交渉は、近く結論を迎えるとみられている。フォードも保有するマツダ株の一部の売却を取引先などに打診し始め、金融危機の余波は業界構図を変える勢いだ。
世界の自動車業界をリードした「ビッグ3」は80年代以降、日本車の台頭など国際化の荒波にもまれ、米国という一地域の代表にすぎない「デトロイト3」と揶揄(やゆ)されるまで地位を下げた。今回、大手2社の「デトロイト2」まで追いつめられつつある。
「『デトロイト病』は、製造業が疫病にかかっていることを示している」と、今月10日の米紙ワシントン・ポストは警告した。すでに金融とITなどソフト事業中心に移った米経済だが、ビッグ3の落日は米国の伝統的な製造業の「終焉(しゅうえん)」を示唆している。(ウィスコンシン州ジェーンズビル=寺西和男、ニューヨーク=丸石伸一)
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23日付け朝日新聞2面にも関連記事を掲載しています。