■候補者は―くじ引きで「人材バンク」に登録
裁判員制度のスタートが2年後に迫ってきた。
有権者から選ばれた市民が裁判官と一緒に刑事裁判の審理に参加し、市民の社会常識を裁判に反映しようとする制度だ。
20歳以上のほとんどが対象だ。選ばれれば、社会正義に貢献できる権利を得るが、仕事や育児を休まなければならない人にとっては負担でもある。原則として公判は平日に開かれ、普通は2日以上かかるからだ。
そこで気になるのは、裁判員になるかどうかがいつ、どうやってわかるのか。そして、どんな場合なら辞退できるかだ。
まず決まるのが候補者だ。翌年に自分が裁判員に選ばれる可能性があるかどうかは、年末までにわかる。可能性のある人たちはあらかじめ、裁判所からの「お知らせ」を郵便で受け取る。
全国の各地裁は毎年末までに、裁判員制度の対象になる重大事件(殺人、放火、強盗致傷、強姦(ごうかん)致傷、傷害致死など)が年間どのくらい起きるかを見積もり、市町村の選挙管理委員会の協力を得て、くじで次の年の「裁判員候補者名簿」を作る。いわば裁判員候補者の「人材バンク」だ。
人材バンクに登録された人に届くのが、登録(名簿登載)を告げるお知らせだ。「調査票」も同封され、そこには次のような質問が並ぶ。
(1)裁判員になれない類型にあたる人かどうか(裁判官・検察官・弁護士やそのOB、警察官、自衛官などは裁判員になれない)。
(2)裁判員を辞退できる類型にあたる人(70歳以上の人、学生や生徒、過去5年以内の裁判員、検察審査員などの経験者)については、1年を通じて辞退の希望があるかどうか。その理由は何か。
(3)1年のうち、特に参加が難しくなる時期があるか。その時期については辞退を希望する意向があるか。
(2)にあたる人で辞退を希望する人は、調査票に書いて返送すれば、それ以降、地裁から呼び出しがくることはない。
■辞退は―育児や仕事への影響を申告
人材バンクに登録された後はどうなるのか。
架空の一家を例に、シミュレーションをしてみよう。家族全員が同じ事件で裁判員に選ばれることはまずあり得ないが、「それぞれに裁判所から呼び出しが来たら」という想定で考えた。
事件が起きて裁判日程が決まると、初公判の約6週間前に人材バンクからくじで選ばれた50〜100人程度に、「初公判の日に裁判所に来て下さい」という呼び出し状が来る。今回、「裁判は連続3日間で終わる予定」とも記されていた。
同封された「質問票」には(1)あなたが介護や養育をしないと日常生活を営むのに支障がある同居の親族がいるか(2)重要な仕事があり、あなたが処理しなければ著しい損害が生じるおそれがあるか――などの質問が並ぶ。これらに当てはまり、辞退を希望する場合は、裏付けになる資料を添えて質問票を返送する。
父(54)は会社の部長。「この会社は、なぜこんなに会議が多いのか」。そう思いつつ初公判がある週の手帳を繰ると、すでに日程が埋まっている。質問票には「一年中忙しいため辞退を希望します」と書いた。母(52)は小児科医。病院のシフトをやりくりすれば、参加できそうだ。
次男(25)はプロ棋士養成機関「奨励会」の三段。上位2人だけが四段(プロ)になれるリーグ戦の対局日が初公判とぶつかる。「不戦敗したらプロへの望みが断たれます」と訴えた。
次男と、育児休業中で1歳の娘にかかりきりの長男(27)は、辞退が認められる公算が大きい。このほか、例えば「ちょうどこの時期には重要な商談で海外出張が入っており、ほかの人では対応不可能」といった場合も辞退が認められそうだ。
一方、父のように「一年中忙しい」とか、単に「忙しい」というだけの回答では、辞退は認められない可能性が高い。
■線引きは―「勤務代われるか」「損害重大か」
初公判の4月×日朝、呼び出しを受けたうち、事前に辞退が認められた人を除く数十人が裁判所の大部屋に集まった。
「当日用質問票」が配られた。長女(24)は「事件の関係者ではありませんか」との質問に手を止めた。「関係者ではありませんが、被告人と知り合いです」と書いた。
面接(質問手続き)が始まった。1人ずつ、小部屋に呼ばれ、裁判官と検察官、弁護人の質問を受ける。第三者は傍聴できない。長女は裁判官に「被告人と知り合いというのは?」と聞かれ、「以前、数カ月間交際していました」と答えた。「不公平な裁判をするおそれがある」と、裁判員には選ばれなかった。
父は3日間で20以上になる会議に代役を立てた。母は担当する患者の手術が急に2日後に入ったため、辞退が認められた。日当と旅費を受け取り、仕事に戻った。
この段階の辞退が認められそうな場合として、最高裁は「アルバイトで生計を立てている俳優が大役に抜擢(ばってき)され、公演が初公判の翌日からになった」という例も挙げる。
キーワードは「代替可能性」と「重大な損害」だ。だれでも日常の仕事を外れれば、戦力ダウンになるのは間違いない。問題はその程度だ。代わりを頼める人はいないのか。重大な損害が生じるか――。裁判所が個別に判断することになる。「一律の基準は作れない。事例を重ねながら、共通認識を作っていきたい」と最高裁の担当者。
こうした手続きの後、必要ならくじも交え、裁判員6人が選ばれる。
多くの人が選ばれる可能性があるのに、参加意欲は高くない。世論調査では、裁判員制度を知っている割合は高いのに、参加に消極的な人は8割近く。市民が裁判に加わることの意義をどう共有していくかが、課題だ。
企業の協力も重要だ。裁判員になったら有給の特別休暇を認める例が出始め、社会的責任を重視する企業は増えているが、まだ少数だ。