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〈選択のとき5〉量刑 あなたの判断基準は

2007年5月13日

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図   ※写真をクリックすると拡大します

■これまで―広い刑の幅、「勘と経験」頼りに

 裁判員になると、悩むことになりそうなのが、被告人の刑の重さを決める「量刑」だ。刑務所で服役する実刑か、社会で更生させる執行猶予か。死刑か、無期懲役か。

 裁判員はどう判断すればいいのか。支える環境はどう作るべきか。「裁判員時代」最終回は、それを考える。

 まず、そもそも刑罰とは何か。刑罰は罪を犯した、非難されるべき人への制裁であり、同様の犯罪が行われないようにするのが目的だ。犯罪で傷ついた法秩序を回復するという考えも有力だ。

 それでは、これまでプロの裁判官は刑の重さを具体的にどうやって決めてきたのだろうか。

 罪を犯した人に科すことができる刑の重さの原則は、刑法などの法律に規定がある。ただ、規定は「人を殺した者は、死刑または無期もしくは5年以上の懲役に処する」など、幅はかなり広い。その範囲でどう決めるか、明確な決め方や「方程式」はない。

 例えば、米国には「量刑表」がある。犯罪の重大さを縦軸に、被告人の犯罪歴を横軸にとり、交わるマス目ごとに言い渡すことができる刑の範囲を細かく決めている。刑の上限は、下限の1.25倍以内が原則だ。

 規定の幅が広い日本で裁判官がよりどころにしてきたのが、「量刑相場」だ。過去に似たような事件ではどれくらいの重さの刑だったのかに注目し、ほかの裁判官ならどう判断するかを考える。相場は、いわば「勘と経験」で身につけるものだ。裁判官たちはある意味で、刑罰権を勝手に発動しないように、自らを縛る歯止めとして、量刑相場を使ってきた。

 もう一つの有力な参考資料が、検察側が刑の重さについて示した意見、「求刑」だ。俗に「量刑は求刑の8がけ」とも言われる。また、一審の判決が求刑に沿ったものでなくても、検察側が控訴すれば、高裁では8割方、主張が認められる。量刑と求刑は密接な関係にあるのだ。

■評議では―悪質か?動機は?様々な視点で

 では、裁判員になったら、量刑をめぐってほかの裁判員や裁判官とどのように話し合うことになるのか。ある模擬裁判を下敷きにシミュレーションしたのが図だ。焦点は「実刑か執行猶予か」。

 法廷で証人や検察側・弁護側の話などを聞いた後、別室で評議に入る。まず、起訴状に書かれた罪を被告人が間違いなく犯したのか、判断する。

 次に決めるのが量刑だ。まず、裁判官が参考資料を示す。「似たような過去の例は18件です。今回のように強盗罪と傷害罪が認められたのは2件で、うち1件は懲役3年執行猶予5年。被告人が20歳、300万円で示談した例です。もう1件は、懲役3年の実刑でした。被告人は24歳、傷害の前科2犯でした」

 参考例も実刑かどうかで割れるというのだ。

 判断のための要素はいくつかある=図下。(1)犯行は悪質か(2)動機や方法は(3)結果は重大か(4)被告人の年齢は(5)前科はあるか(6)犯行後の態度は(7)被害の程度や被害感情は重いか(8)刑が犯罪の抑制や被告人の更生に役立つか――など様々な角度から考え、できるだけ多くの材料を集めて議論を尽くすことになる。

 例えばこんな感じだ。

 「あまりにも身勝手な犯行です。刑務所で教育する必要がある」

 「実刑だと最短で2年半。そんなに社会から隔離することが、20歳の人にとっていいのかなあ」

 「やっぱり前歴も無視できないと思います」

 「ただ執行猶予にするのではなく、保護観察をつけてはどうでしょう」

 議論するうえで重要なのは、刑務所の現状や受刑者の出所後の実情、保護観察制度の運用状況など、罪を犯した人を立ち直らせるシステムがどう機能しているかについて、裁判員が正確な認識を持てるようにすることだ。必要最低限の情報は裁判所が提供すべきだ。希望者に刑務所を見学してもらうのも一案だ。

■課題は―進む改革、ルールの明確化必要

 2年後の裁判員制度スタートに向けて、今後必要になるのが、量刑判断の合理化と透明化だ。ルールを明確にして体系づけ、裁判員にきちんと説明できるようにしたい。

 量刑相場が今、「ぐちゃぐちゃになっている」と話す裁判官もいる。

 背景には、刑法の頻繁な改正がある。有期懲役刑の上限は20年から30年に引き上げられた。従来は懲役5年が上限だった交通死亡事故に、最高で懲役15年(現在は懲役20年)を科せる危険運転致死罪が新設された。また、検察側は被害者の声に敏感になり、求刑も以前より厳しくなった。

 逆に言えば、こうした状況は、量刑ルールを明確にする好機でもある。

 課題はまだある。一つは、裁判員制度導入の直前に始まる見通しの被害者参加制度との関係だ。

 被害者や遺族が法廷で直接被告人に質問したり、独自に求刑したりできるため、「裁判員は被害者の声に影響されすぎるのではないか」との懸念もある。被害者団体側は「影響があるというなら、被害者参加をまず根付かせ、その後で裁判員制度を導入してもいい」と反論する。

 「重く罰してほしいという被害者の感情を重視し過ぎ、報復的な色彩の強い刑を言い渡すと、被告人が出所後に報復を企てるおそれもある。被害状況を極力客観的に考えるよう努めるべきだ」と警告する裁判官もいる。

 裁判員になったら、被害者の意見はあくまで量刑判断の一要素だ、ということを確認したい。

 もう一つの重要な問題が死刑制度だ。死刑とはどのように執行されているのか、裁判員はきちんと知る必要がある。

 法務省は死刑執行の情報をほとんど開示しない。現状をオープンにし、それに基づいて量刑を議論すべきだ。同様の事件で死刑と無期に分かれることも少なくない。量刑ルールの明確化が最も求められる領域だ。

 以上のような条件が整って初めて、市民が量刑を考える基礎ができる。

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