2010年11月27日17時0分
エサ場で持ちきれないほどのイモを拾って帰る「婦人会長」ネピア=大分市高崎
ネピアの息子「オウジ」。「親の七光り王子」と呼ばれている=大分市高崎
大分市の高崎山自然動物園のサルの群れ「C群」696匹に強い力を持つメスザルがいる。メス順位1位「婦人会長」の座を長年保つ29歳のネピア。エサ場の中心に陣取り、他を寄せつけない雰囲気を漂わせる。「親の威光」で、3匹の息子たちは10代半ばの若さでオスの5〜7位に出世した。
今月初めの午後。C群がエサ場に来た。ネピアのそばには息子や、孫を連れた娘が散らばっている。「いつもいい場所にいる」と高崎山の案内人リーダー木本智さん(42)。エサのサツマイモがリヤカーから大量にまかれる場所で、エサやりが始まるとネピアは大小三つを手や口で確保して素早く走り去った。
オスザルはふつう、3歳にもなれば母親から離れて群れを出るか、群れの周縁部にいてエサも満足に取れない下積み生活を送る。
ところが、ネピアの息子たちは母の周りに居座り続け、トラブルがあると母の介入を受ける。自分より上位のサルが近づいても、場所を譲ったり、しっぽを下げたりして礼を尽くす「常識」もない。息子のうちC群のオスで順位5位のオウジ(15)のあだ名は「親の七光り王子」だ。3匹の娘も、群れの中で我が物顔に振る舞うという。
若い頃は案内人に跳びげりを連発する暴れ者だったというネピアは、群れのαオス(いわゆる「ボス」)につかず離れず生きてきた。
約12年間、C群のαオスを務める29歳のゾロもネピアにぞっこんだが、ネピアがその愛を受け入れた形跡はない。ネピアは自分が好かれているのを知っていながら素っ気なく振る舞い、ゾロを手玉に取っている模様だ。先代αオスのゲンタも、ネピアと一緒に行動することが多かったという。ネピアはゲンタの代から婦人会長の座を占めている。
そんなネピアも、人間なら90歳を超える年齢になった。死んでしまったら、息子や娘の立場はどうなるのか。オウジの名付け親でもある木本さんは「3兄弟より順位が上のサルはみな高齢。ネピアの死後に反乱が起きなければ『ネピア一族』の天下もあり得る」と推測する。
京大霊長類研究所出身で、高崎山のサルの調査・研究を長く続けている大分市教委文化財課の栗田博之主査(41)は「これほど長くメス1位の座を保つサルは珍しい。順位の高いメスの子どもは他のサルより体が大きい傾向があり、それも息子の出世の背景ではないか」と話している。(原篤司)