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ナマハゲ草食化 片手間の新世代、騒がず脅さず

2010年2月12日15時0分

写真冬休みの宿題をやっているか調べるアマノハギ。親の要望に応え、今年から始めた=秋田県にかほ市

 国の重要無形民俗文化財に指定されている秋田県男鹿市の伝統行事「ナマハゲ」が揺らいでいる。鬼のような面をつけ、「泣く子はいねが(いないか)〜」と、子どもを追い回す荒々しさが持ち味だが、地域社会の変化もあり、近年は、黙って動かない「草食系」の新世代が目立つようになった。同県にかほ市のナマハゲに似た「アマノハギ」は、子どもの宿題をみるサービスまで始めた。

 昨年の大みそかの夜。鬼のような面をつけ、全身にわらを羽織ったナマハゲが現れた。手には包丁。だが、静かに居間に入り、猫背気味に座った。迎えた高齢夫婦から「どこから来たっすか」と聞かれ、遠慮がちに「えっと……。山の方から……」。

 男鹿市では10年ほど前から、こんな光景がみられ始め、今では珍しくなくなった。玄関先で見ていた付添人の吉田公生さん(59)はナマハゲ役の若手に発破をかける。「おとなしいぞぉ。もっと声上げれ!」。玄関戸をガタガタ揺すり、代わりに「ウオー」と声を上げた。

 40年前、吉田さんが扮していたころのナマハゲは怖かった。腹から大声を出し、戸を揺らし、かかとを踏みならす。いたずらっ子を吹雪の屋外に放り出し、新妻のお尻をつねる。住民は、厄払いや戒めの意味があると理解しており、快く迎えた。

 草食化の原因のひとつはナマハゲに扮する男性の変化だ。地区に20代の独身が多かった時期は、伝統を引き継ぐ青年会のメンバーが担った。今はあまり経験のない高校生や里帰りの会社員らが地区会長らに頼まれ、片手間に扮する。10代の学生は、けがに備え、全員が傷害保険に入っている。2007年、旅館の大浴場に入り、女性数人の体を触った問題も響いた。

 子どもが減り、お年寄りだけの家が多くなったのも影響している。ナマハゲ役の学生(19)は「相手が年配の方ばかりで気を使う。怖がる子どもがいないから、やる気が出ない」と肩を落とす。迎える側の意識も変わった。正装でお膳(ぜん)やお酒を出すのは煩わしい、家を荒らされるのは嫌だと断る家が増えた。

 1月9日夜、秋田県にかほ市。「ウオー。冬休みの宿題やったか。見せれ」。髪を振り乱した鬼面姿のアマノハギが子どもに近づくが、迫るのは算数のノートの提出だ。「2+9はわかるか」。家庭教師さながらに足し算の説明が始まった。

 「テレビゲームばかりしているので注意してほしい」「美容院に行きたがらないので言い聞かせて」。事前に親から要望を聞く。冬休みの宿題点検は今年からだ。30年前に一度、途絶えた歴史を繰り返したくなくて新しいアマノハギ像を探ってきた。演じる兼松雄助さん(24)は「今の子どもに合わせて臨機応変にやるのが難しい」と話す。

 東北芸術工科大学の赤坂憲雄・大学院長=民俗学=はこうした変化の理由について「古くからの祭りは、日常生活で制御されているパワーを解放する意味があった。現代人は、祭りのパワーを上手に使いこなす知恵を失いつつある。何かトラブルがあればすぐに責任問題にして、共同体との濃密なかかわりを嫌がる。豊かな人間性への許容範囲が狭まっているのではないか」と分析している。

 ナマハゲは大みそかの行事だが、観光行事「なまはげ柴灯(せど)まつり」は男鹿市で12日から3日間行われる。(矢島大輔)

     ◇

 〈ナマハゲ〉 秋田県男鹿半島に古くから伝わる風習。大みそかの夜、鬼のような面をつけ、木製の包丁を手に、大声を上げて練り歩く。邪気を払い、福をもたらす神とされる。起源は不明。1978年に国の重要無形民俗文化財に登録された。沖縄や鹿児島など全国各地に似た行事がある。日本海側にも多く、秋田県にかほ市のアマノハギは、その一つ。1月上旬に家々を訪ね歩く。

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