報道陣が渡した市橋容疑者の写真に、一緒に働いた建設会社の関係者がメガネやひげを書き加え「井上康介」の顔を再現してみせた=9日夜、大阪府茨木市、諫山卓弥撮影
市橋容疑者が暮らしていたのと同タイプの部屋=9日夜、大阪府茨木市、小玉重隆撮影
市橋容疑者とみられる男が住み込んでいた建設会社で、インタビューに応じる関係者=9日午後6時32分、大阪府茨木市、諫山卓弥撮影
市橋達也容疑者(30)が10月中旬まで約1年間住み込んで働いていた建設会社の寮は、マンションや事業所が立ち並ぶ地域の一角にある。
同社の男性従業員らによると、昨年8月19日、日雇い労働者らが集まる大阪市西成区で作業員を募集していたとき、市橋容疑者が声をかけてきた。「助けてくれ。お金が必要なので使ってほしい」
黒縁メガネに黒い野球帽。長靴や下着などが入った白い紙袋を一つだけ持っていた。イントネーションなどから、従業員は「西成であまり見かけないタイプ」と思ったという。書類には名前を「井上康介」と書き、緊急連絡先には「父親」として大阪市港区の電話番号を記した。身長は実際より少し低い「175センチ」。
月曜から土曜まで寮で朝夕の食事を取り、車で工事現場との間を往復。どんな時も野球帽を目深にかぶり、社員が「食事時くらい脱いでくれ」と言うと、「すみません」と謝るだけだったという。
夕食時は酒を飲まず、食べ終わるとすぐ部屋に戻っていった。社内で宴会を開いても参加せず、料理だけ自室に持ち込んで食べていたという。従業員仲間も「誰もいない時間を選んで風呂に入っていたようだ」「眼鏡を外したところを見たことがない」と話す。近くのコンビニエンスストアに行くのを除くと外出する気配はあまりなく、「休日前、たまに(大阪市内の歓楽街の)飛田新地に行く」と聞いた同僚がいるという。
仕事ぶりはまじめで、「休みでも夜でも働きたい」と話していたという。同社の関連会社幹部の男性(22)は、市橋容疑者がいつもメモ帳を持ち歩いて作業方法を書き込み、重い資材も自ら進んで持とうとする姿が印象に残っているという。
「今まで何してたの?」と尋ねると、「引きこもりで両親に迷惑をかけたから、お金をためて温泉旅行に連れて行きたい」「恩返ししたい」と話した。建設会社関係者によると、1カ月の手取りは10万〜15万円。同僚には「ずっと引きこもっていたから、全国いろんなところを旅行したい」「100万円ためたい」と話していた。
背が高いため、仕事仲間からは「大ちゃん」と呼ばれていた。声をかけられると「はい! 仕事あるんですか」と元気な声で答え、休み時間の雑談には笑顔で応じ、誰に対しても敬語で話した。
ただ、写真を撮られることは「嫌いなんですよ」と拒んだ。今年4月、社員十数人で近くのボウリング場に行った時は、渋々ついてきた。その時に写真を撮影されたが、前の人と重なって顔がほとんど隠れる位置に立っていた。その後に行ったカラオケボックスでは、酒を少し飲み、英語の歌を歌ったという。
今夏ごろ、市橋容疑者は同僚と仕事のやり方をめぐる言い合いの末、会社の前でつかみ合いになった。別の同僚に引き離された後、「殴って当たりどころが悪ければ、相手は死ぬんやぞ」と注意されると、号泣したという。
「用事があるので出かけるが、また戻るので(自分を)使ってください」。市橋容疑者が同僚にそう話したのは10月8日。給料日翌日の同11日朝、「(連休明けの)13日に戻ります」とリュックを背負って出かけたまま、帰ってこなかった。
同僚がテレビニュースで、「井上」が市橋容疑者と気づいたのは今月5日夜。この日公開された写真にパソコンのソフトを使ってひげなどを書き込むと、「井上」の顔になった。
市橋容疑者が寝泊まりした部屋は4畳半ほどの広さ。7日、大阪、千葉両府県警の捜査員が駆けつけたとき、英和辞典や英語の参考書、横浜の情報誌、漫画本などが残されていた。指紋を採取していた捜査員は「当たった」と声を上げたという。