東京電力福島第一原発事故による放射線の影響を見守る福島県の健康調査で、18歳までの子ども全員を対象にした甲状腺検査が9日、福島県立医科大(福島市)で始まった。2年半で36万人の検査を一巡させる。その後も定期的な検査を生涯続ける。
対象は震災当日に0〜18歳だった全県民で、県外に避難した人も含まれる。
初日に検査を受けたのは、事故直後から高い放射線量が測定されている飯舘村、浪江町、川俣町にいた子どもたちのうち、144人。ベッドで横になった子どもの首に医師が超音波検査装置をあて、甲状腺の大きさやがんにつながるしこりの有無を確認。1人5分ほどで検査を終えた。結果は1カ月後に通知される。
食品や空気中のちりから取り込まれた放射性ヨウ素は甲状腺に集まり、子どもの場合、甲状腺がんの原因になりやすいとされている。一方で、放射性ヨウ素は半減期が短く、早期に体内からなくなるため、被曝(ひばく)量の評価が難しい。
チェルノブイリ原発事故では4、5年後から甲状腺がんが子どもに増えたため福島県は当初、3年後の検査開始を予定していた。しかし、不安を訴える親たちの声に応じるため、検査を前倒し。2014年3月までにすべての子どもで1度目の検査を終え、現時点での異常の有無を把握する。
検査にあたる県立医科大の鈴木真一教授は「今の時点で甲状腺への放射線の影響は全く考えられないが、現在の状態を知ってもらい、安心につなげたい」と話した。
■保護者、募る憤り
この日、検査を受けた子どもの親たちは、不安を抑えきれないでいる。
飯舘村の母親(43)は、5歳から11歳の男の子4人と検査に来た。4〜6月の約2カ月を、放射線量が高い村で過ごした。
8月に受けた内部被曝検査では、4人とも体に取り込まれた放射性セシウムの推計値から「健康への影響は心配ない」と説明され、安心していた。ところが、放射性ヨウ素はすぐに消え、甲状腺の被曝量はわからないと後で知った。「大丈夫と言ったのに、甲状腺の検査は生涯続けるという。矛盾してませんか。いつになれば安心できるのか、いまだにわからない」と訴えた。
5月末から福島市に避難する飯舘村の父親(28)は長女(6)と長男(3)を連れて来た。「4、5年後、子どもに異常が現れてきたら、東京電力を絶対に許さない。直接本社に乗り込んで、この悔しさを伝えたい心境だ」と憤る。
浪江町の女性(38)は、長男(9)と長女(7)の検査を終えた。原発事故後、放射性物質が風に乗って流れた同町津島地区に家族で避難していた。8月の内部被曝検査では、長女は「検出限界以下」だったが、長男は「1ミリシーベルト未満の被曝」とされた。「子どもがかわいそうで、悔やみきれない」と涙を流す。「今回の甲状腺検査だけでは安心できない。継続して検査を受けさせたい」(林義則、斉藤寛子)