東京電力福島第一原発の事故原因を民間の立場で調べる「福島原発事故独立検証委員会」(北澤宏一委員長)が27日、東電の責任感の欠如や組織的な怠慢で準備が不十分だったとする報告書をまとめた。国の原子力安全規制が海外の知見を取り入れない「ガラパゴス化」していたと結論。過酷な災害や事故に対応する組織の創設や、科学技術について首相に助言する機能の強化などを提言した。
昨年9月以降、菅直人・前首相、海江田万里・前経済産業相、班目(まだらめ)春樹・原子力安全委員長ら約20人へ詳細に聞き取りするなど約300人から協力を得た。東電経営陣の聴取も求めたが、東電に拒まれたという。
報告書は事故が悪化した要因として、3月11日夜に1号機の非常用復水器が動いていたとの東電の誤認を挙げた。炉への注水や内部の圧力を逃がすベント(排気)が遅れたことや、12日午前10時まで会長、社長が不在で迅速な意思決定ができなかった点を指摘した。
東電の備えが欠けていたのは「組織的怠慢」として人災の性格が色濃く、「原子力の安全文化を軽視してきた」と批判した。
国の安全規制の不備も挙げた。国際原子力機関(IAEA)が2007年に原子力安全・保安院と安全委員会の役割の明確化を指摘したが、安全委は「国際基準に照らしても非常に優れており、高い評価を得ている」と応じなかった。過酷事故対策は義務化されずテロ対策で国際協調も進まなかった。国際的にみても取り組みが遅れたのは「安全規制のガラパゴス化」の結果だとした。
事故直後に試算結果が公表されなかった放射性物質の拡散を予測するSPEEDI(スピーディ)や、今回、機能しなかった「オフサイトセンター」は「住民の安心を買うための『見せ玉』にすぎなかったように見える」と断じた。
報告書は、政府事故調査・検証委員会による中間報告書の事実認定とは大筋一致したが違う点もあった。
東電の清水正孝社長(当時)が3月14日深夜から15日にかけ、第一原発の作業員を退避させると政府に伝えた。政府事故調の報告書は、清水社長は原子炉の制御に必要な人員は残すことを当然の前提として言及せず、官邸側が全面撤退と受け取ったとした。一方、今回の報告書は東電が必要な人員数などを具体的に示しておらず、東電の主張は根拠が薄いとした。
このほか、米原子力規制委員会が保安院に、テロ攻撃などがあっても原子炉の冷却を確保する対策を示したが、米側の証言として保安院が進言を受け取らなかったし、「重大な不作為」とした。菅前首相の要請で近藤駿介・原子力委員会委員長が3月下旬に作成した「最悪シナリオ」も全文を盛り込んだ。
同原発の吉田昌郎所長(当時)は本店から1号機への海水注入の停止を求められ、独自の判断で注水を継続させた。報告書は「本店はただただ迷走していた」と指摘。ただ、結果的に吉田所長の判断は正しかったが、事故の規模が拡大する場合の責任は本店や政府が負うとして、危機管理の観点からも問題だとした。
昨年12月に始動した国会の事故調査委員会も民間委員による調査を進めており、6月までに報告書をまとめる。(西川迅)
■民間事故調による提言の骨子
・原子力推進行政から独立した原子力安全規制機関の設置
・過酷な災害や事故に対応する本格的実行部隊の創設
・首相への科学技術の助言機能の強化
・常に危機に備え防災計画の見直しを図ること
・日本が原子力安全、核セキュリティー、核不拡散で国際協調できる体制の構築