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すぐそこにある宝 (地球最北に生きる8)

2006年06月09日

 猟から戻ると、イクオの5人目の孫が生まれていた。

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犬ぞりに乗って夏のキャンプ地へ。イクオの孫イサムは、ご機嫌でそりに飛び乗った=グリーンランド北部のシオラパルクで

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イクオの一家。イクオ(中央)の向かって左は妻のアンナ

 4女アヤ(18)の長男だ。どうやらシングルマザーになりそうだが、イニューイ(エスキモー)では珍しいことではない。イクオの亡父の名をとり、ウシゴローと名付ける、という。

 25歳でイクオがシオラパルク村に足を踏み入れてから、34年が過ぎた。妻のアンナ(54)との間に1男4女をもうけ、5人の孫に恵まれた。

 村の長老タッチャングア(64)は、イクオとナオミが来た時のことを、よくおぼえている。

 南極単独横断を目指すナオミこと故・植村直己は1972年、厳寒生活の体験のため、村を訪れた。6歳年下のイクオは日大山岳部OBとして、極地登山の準備で3カ月遅れて住み込んだ。

 ナオミが村に現れた時、変な酔っぱらいが来た、と思ったという。村人そっくりの顔なのに言葉が通じない。「村に住みたいらしい、ってことは伝わったがね」

 冒険を志した2人は対照的な道を歩む。ナオミは10カ月後に村を離れ、6年後、北極点単独行を成功させる。イクオは村の娘と結婚し、この地で人生を送る道を選んだ。

 日本での生活を捨て、なぜ極北の地を――。狩猟行を終えた日、イクオに聞いた。

 「冒険に来て、また帰る。それは何か違うと感じた。すぐそこにある宝に目を向けず、通り過ぎていく気がしたんだよ」

 人を圧倒する自然のなかで、狩りをして、自給自足で家族を養う生活。そこに自分だけの宝物を見つけたのだ。

 村の高台にあるイクオの家に、孫たちが毎日のように遊びに来る。

 4歳のイサムは、犬ぞりに乗るのが楽しみで仕方がない。大きくなったら、おじいちゃんの鉄砲と船をもらうんだ、と今から宣言している。

 温暖化、狩猟制限、貨幣経済……。極北の狩猟民は今、激変にさらされている。孫たちが大人になった時、地球最北の村は、その姿を保ち続けているだろうか。

 6月上旬、村のそばまで氷が割れた。私たちは犬ぞりと船を乗り継ぎ、帰路についた。

 極北の盛夏はすぐそこまで来ていた。

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