一昨年末、鹿児島県奄美大島沖で銃撃戦の末に沈没した北朝鮮の工作船の「行く末」がはっきりしない。海上保安庁は「事件を風化させないために」と保存策を探るが、数億円の費用をひねり出す妙案はない。工作船を31日から展示している東京・お台場の船の科学館で募金を呼びかけるが、自治体や博物館などから支援がなければ、廃棄される可能性もある。
沈没した工作船(全長約30メートル、55トン)の引き揚げや保管などに、海保は約60億円の予算を組んだ。事件は殺人未遂容疑などで書類送検された乗員10人が被疑者死亡で不起訴処分となった。法務省は自爆によって工作船の所有権は放棄されたと判断。現在、海上保安協会が保管している。
韓国では北朝鮮の潜水艇を展示して一般公開していることから、海保も「初めて押収した工作船を公開し、領海侵入事件への理解に役立てたい」と考えた。
横浜市の横浜海上防災基地や広島県呉市の海上保安大学校など、保存する場所はあるが、問題は資金だ。鉄製の工作船は海底に沈んでいたため腐食が激しく、屋外で長期にわたって展示するのは難しい。しかし専用の展示室建設には数億円の費用が必要だという。
海保幹部は「国の財政事情を考えると、不審船対策など装備充実に必要な費用を確保するので精いっぱいだ」と語る。
49年前に米ビキニ環礁の水爆実験で被曝(ひばく)した第五福竜丸は、文部省(当時)が買い上げた後、東京水産大学の練習船になったが、民間業者に払い下げられた上、東京・夢の島に廃棄された。この後、保存を求める声が募金活動につながり、東京都の資金提供もあって展示館ができた。
海保では、31日からの一般公開で募金を呼びかけ、保存に対する市民の関心の高さを測るとともに、引き取り先を求めて自治体や博物館に働きかける。だが、「万策尽きれば廃棄しかない」と悩みは深い。
(05/31 12:14)
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