政府は8日、北朝鮮による日本人拉致問題をめぐる先月の日朝実務者協議で、北朝鮮側が「横田めぐみさんのもの」と説明して渡した遺骨についてDNAを鑑定した結果、別人のものだったと発表した。政府は同日、北朝鮮に鑑定結果を伝え、厳重に抗議した。小泉首相は与党などで高まっている経済制裁措置について、「対話と圧力だから、両面を考えて交渉を続けないといけない」と述べ、直ちには制裁に踏み切らない考えを示した。だが、今回の鑑定結果は北朝鮮側の説明の信憑(しんぴょう)性を根本から崩すもので、首相がめざす拉致問題の解決と国交正常化はいっそう厳しい情勢となった。
細田官房長官と新潟県警がそれぞれ発表した。
細田長官は記者会見で「主として帝京大法医学研究室でのDNA鑑定の結果だが、横田めぐみさんのものではないという結論が出た。どのようにサンプルをとっても横田さんとみられるものはなかった。他人のものだ」と述べた。
北朝鮮から提供された遺骨は、新潟県警が11月下旬、帝京大法医学研究室と警察庁科学警察研究所、東京歯科大の橋本正次・助教授に鑑定を依頼していた。DNA鑑定は帝京大と警察庁で遺骨を分けて担当。照合にはめぐみさん本人のDNA情報が使われたという。
県警外事課によると、このうち帝京大の鑑定でめぐみさんのへその緒から得られたDNAとは塩基配列が異なり、「別の2人の人間の骨」と判断された。男女別や年齢など詳細は不明という。警察庁と橋本助教授の鑑定は結果が出ていない。県警の三木邦彦警備部長は「(DNA鑑定で)国内最高レベルの研究機関の鑑定なので、めぐみさんとは別人とみて間違いない」と述べた。政府関係者によると、遺骨は五つあり、うち四つが同一のDNA、一つが別人のDNAだったという。
細田長官は記者会見で「先方の調査が真実ではなかったと断じざるを得ない。極めて遺憾だ。厳重に抗議するとともに、真相究明を迫りたい」と語った。また、小泉首相と金正日(キム・ジョンイル)総書記が02年9月に署名した日朝平壌宣言に「双方が相互の信頼関係に基づき、諸問題に誠意をもって取り組む」という記述がある点を指摘したうえで、「この精神に反するのはかなり明らかだ」と批判した。
北京の日本大使館は同地の北朝鮮大使館に電話で抗議し、説明を求めた。北朝鮮側は本国に伝達すると伝えた。日本側は担当者との面会を求めたが、担当者は本国からの指示がないので面会できないと述べたという。
遺骨は11月9日から14日まで平壌で開かれた実務者協議で、横田さんの夫とされるキム・チョルジュン氏が提供した。北朝鮮側はそれまで、横田さんは93年3月に平壌市内の病院でうつ病で自殺したと説明していたが、この協議では「94年3月に入院し、4月に死亡した」と死亡時期を訂正。遺骨については、キム氏が埋葬されていた遺体を96年秋に掘り起こし、焼いて骨つぼに入れた、と説明していた。
(12/08 20:16)
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