東京・秋葉原で誕生し、アイドルの頂点にまで立った「AKB48」。次のシングル曲を歌うメンバーを決める「総選挙」が6日、日本武道館で「開票」された。さながら国民的行事のような趣を見せたこのイベントを、地元・秋葉原はどう見つめたのか。
この日、AKB公認の「カフェ&ショップ秋葉原」は開票前の昼間から、ふだんの平日の2倍のファンでにぎわっていた。
東京都武蔵野市の男性会社員(32)は「秋葉原に来たときは必ずここに立ち寄ります。AKBがこれほど人気があるのは、劇場公演や握手会でファンに身近に接するからでは」と話した。
一方、いつもの本拠「AKB48劇場」は休館日。劇場のある雑居ビル8階へ通じるエスカレーターは7階止まりで、劇場フロアは照明を落として真っ暗だ。
だが、劇場のグッズ売り場は制服姿の中高生や大学生、若者のグループなどで「ふだんより多い」(売り場の担当者)客でにぎわった。買うでもなく、飾ってある写真やグッズを眺めて帰る人が多い。
友人と訪れた都内の大学生、服部悟さん(21)は「本当は武道館に行きたかったんだけれど、外れちゃって。『負け組』は今日はこっちに集まるんです」。
好きなメンバーは「りっちゃん」こと川栄李奈さん(17)。数日前に20枚CDを購入し、投票券20票はすべて彼女に投じた。「なんとか50位に入ってほしい」というのが願いだ。「20票なんて、少ない方ですよ。なんたって『愛』ですから」
劇場には1度来たが「すごく狭くて、すぐ近くで歌って踊って、まるで文化祭みたいだった」。歌より、メンバーの顔ばかり見ていた。りっちゃんをとても身近に感じたという。
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このビルの中に、AKB48劇場がオープンしたのは2005年12月。「グループアイドル進化論」などの共著があるライターの岡島紳士さん(32)は翌年の4月からここに通い、公演を見てきた。岡島さんは、「総選挙」の原点はこの劇場にある、とみている。
「客席の最前列とステージとの間は2メートルくらいしかなく、メンバーの汗や息づかいも感じられる。ファンの声を企画に取り込んでいった。総選挙は、現場で培ってきたことをスケールアップさせたイベントです」
AKBは総選挙という名のファン投票で、従来の女性アイドルグループのタブーを打ち破ったと考える。「従来のアイドルグループにはファンの意思が反映されていなかった。順位付けの過程を透明化したからこそ、総選挙はファンから注目されるんです」
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AKBは、秋葉原の全国的な知名度を底上げしたと言えるだろう。
その秋葉原や武道館のある千代田区の石川雅己区長(71)も、今年の総選挙を楽しみにしていた一人だ。
「メンバーの顔と名前が一致しない」と言うが、昨年1位だった前田敦子さん(20)の「卒業」は知っている。「オープンでヘルシー。経済も社会も閉塞(へいそく)感に満ちているなかで、さわやかな、風のような印象がある」とAKBを語る。
08年に秋葉原で起きた無差別殺傷事件の後、「まちの安全・安心」の復活に心を砕いてきた。「最近は家族連れや女性が増えている。安全、安心で健全な街という『アキバ』のイメージアップに、AKBは貢献していると思います」
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夜の開票。大方の予想通り、大島優子さん(23)が「センター」の座を勝ち取った。AKBはこれからも、どんな風を秋葉原に吹かせるのだろうか。(斎藤智子、大室一也)