アスベスト(石綿)による健康被害問題で、大手機械メーカー「クボタ」(本社・大阪市)が従業員向けに定めている補償制度の詳細が14日、明らかになった。労災補償に同社独自の補償を上積みするもので、在職中に死亡した場合、従業員側に計3200万円を支払い、健康被害で退職した場合には65歳まで給与を出す。一方で同社は工場周辺住民の被害には1人200万円の見舞金を支払ったものの、因果関係は認めておらず、住民の支援団体は「社員補償の手厚さと落差が大きい。早急に住民も救済すべきだ」としている。
制度は、90年につくった「石綿疾病者特別対策取扱い基準」。従業員が労災認定された場合、疾病補償として1500万円出すほか、健診費や月10万円以内の看護料、労災でカバーされない休業補償(20%)も会社が出す。さらに死亡した場合は遺族に1700万円を補償、葬儀代も出す。
労災申請を却下された人にも、療養費の自己負担分を会社が出し、休業中の給与も補償する。
92年からは石綿被害で退職した人にも補償。65歳まで給与を出し、労災認定者には最大1500万円を支払う。
石綿を吸った時期の規定はなく、作業環境の基準ができた後も対象。労災申請に至らなくても、「病状、生活状況を勘案し必要な費用をクボタが負担する場合がある」としている。
同社によると、石綿被害で労災を認められた従業員は退職者を含め84人で、独自補償で約20億円を支出したという。このうち76人が死亡した。
一方、同社は旧神崎工場(兵庫県尼崎市)周辺で相次いだ住民の健康被害については「工場との因果関係は不明」とし、これまで10人に支払った200万円の見舞金(弔慰金)も、工場が石綿を扱った54〜95年の間に周辺に居住・勤務し、指定の病院で中皮腫(ちゅうひしゅ)と診断された人に限定している。
このため、旧神崎工場周辺で住民の支援活動に取り組む関西労働者安全センターの片岡明彦・事務局次長は「原因企業としての責任を認め、せめて社員並みの補償を住民にするべきだ」と話している。