フランスから届く“初物”のワイン、ボージョレ・ヌーヴォー! 解禁日の11月第3木曜日が近付いてきました。日本のことわざ、『初物七十五日(はつものしちじゅうごにち)』には、初収穫した食物を食べると75日寿命が延びるという意味がありますが、長寿を願い、その季節の取れ立てを好む日本人気質は昔も今も変わっていないようです。秋特集の最終回はワインを飲む楽しみがさらに深まるように、ボージョレやヌーヴォーにまつわる話題をたっぷり盛り込んでみたいと思います。
ボージョレのぶどう品種はガメイ!
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ボージョレワイン勢揃い |
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第1回の「ヴァラエタル編」でお伝えしたように、旧世界のワインは「土地の名前=ワインの名前」が基本です。ですから「ボージョレ」は産地名であり、ワイン名。この地区の個性を反映しているぶどう品種がガメイ、ということになります。ボージョレ地区で産出されるワインは四つのランクに分けられています。下から順に、おなじみの「ボージョレ」、「ボージョレ・シュぺリュール」、格上の「ボージョレ・ヴィラージュ」、そして最上級クラスの「10のクリュ・ボージョレ」です。
「クリュ・ボージョレ」は、村名をラベルに表示できるワインで「サン・タムール」、「ジュリエナ」、「シエナ」、「ムーラン・ナ・ヴァン」、「フルーリー」、「シルーブル」、「モルゴン」、「レニエ」、「ブルイイ」、「コート・ド・ブルイイ」があり、それぞれ個性にあふれています。中でも「サン・タムール」は“聖なる愛”と訳されることから、バレンタインのプレゼントに良く使われていますし、「モルゴン」や「ムーラン・ナ・ヴァン」は長熟タイプなのでワイン通に好まれています。
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2005年のボージョレ称号受章者 |
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ボージョレワイン委員会とフランス食品振興会(SOPEXA)では、毎年、桜満開の八芳園の庭園で、「ボージョレ」から「10のクリュ・ボージョレ」までのすべてワインが“無料試飲”できる『ボージョレ桜キャンぺーン』を展開しています。夜桜の下で、春の浮かれ気分をより高揚させてくれるこのイヴェントは、本当に綺麗(きれい)で素敵(すてき)です。ボージョレを究めるには絶好のチャンスなので、来春の開催を楽しみにしていてください。ボージョレワイン普及のための大使役には毎回著名人が任命されています。2005年の称号受章者は神田うのさん、舞の海さん、林家正蔵さんという顔ぶれでした。
「ひと足お先に」の新酒はドイツのデア・ノイエ、イタリアのヴィーノ・ノヴェッロ
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左から日本産シャトー・メルシャンの新酒 イタリアのノヴェッロ、ドイツのデア・ノイエ |
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11月1日に解禁日を迎えた新酒にドイツの「デア・ノイエ」があります。『日本におけるドイツ年』ということもあり、「伏見ワインビジネスコンサルティング」が輸入しました。10月26日に瓶詰めされたばかりの新酒は、空輸便で届いた超フレッシュな中辛口タイプ。白ワインは「リヴァーナー種」、赤ワインは近年評価の高い「レゲント種」が使われています。
11月6日にはイタリアから「ヴィーノ・ノヴェッロ」が到着しました! レストランでも人気の「ノヴェッロ」はイタリア語で“新しい”を意味しています。綺麗なルビー色で軽い口当たりの飲みやすいワインなので、パスタやリゾット、旬のキノコなどと合わせて大いに楽しめます。
モンテ物産ではイタリア全土20州のうち、7州9種類の「ノヴェッロ」を輸入しています。画像中央左側のワインはトスカーナ州で定評あるバンフィ社の「サンタ・コスタンツァ」で、サンジョヴェーゼ、シラー、ガメイの3種類のぶどうをブレンドしています。そのお隣はサントリーが扱うボッラ社のワインで、ヴェネト州ヴェローナのメルロー種とカベルネ・ソーヴィニヨン種をブレンドしたライトタイプです。ヴェローナは『ロミオとジュリエット』の舞台としても良く知られていますので、ロマンティックな気分で飲みたい方にお薦めです。
雑学ボージョレ・ヌーヴォー
第2次世界大戦下、ドイツ軍のパリ侵攻を嫌い、パリに住んでいた文化人やジャーナリストの多くは自由都市リヨンに移り住みました。大戦後、リヨンでボージョレを楽しんでいた彼らはパリに戻り、リヨンの地酒的存在だったボージョレを広めました。
この10月、『キリンお酒と生活文化研究所』が全国20歳以上の男女を対象にしてインターネットで「ボージョレ・ヌーヴォー」に関する意識調査を行ったのですが、「今年ヌーヴォーを飲みたいと思いますか」という問いに対して、「是非飲みたい(34%)」、「機会があれば飲みたい(54%)」だけで全体の88%を占め、特に20代の女性の93%が「飲みたい」という回答を示していました。
調査項目の中で特に興味をひかれたのは、「飲みながら見るのにぴったりの映画は」の質問で、第1位は妖精オードリー・へプバーンの『ローマの休日』でした。第4位に『カサブランカ』が登場していましたが、第2次世界大戦の真っただ中に作られたこの名画の中にも侵攻するドイツによって陥落するパリが描かれています。大戦下、リヨンに逃げたジャーナリストへの思いが重なることから、私も「大好きな『カサブランカ』を見ながらヌーヴォーを飲みたいなぁ」と思ってしまいました。
樽とコルクとスクリューキャップの飲み比べ
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ジョセフ・ドルーアン・ボージョレ・ヴィラージュ15Lの樽 |
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フランス語で“新しい”はヌーヴォーですが、ラベル表記上、“真新しさ”や“(野菜・果実の)はしり”を意味する「プリムール」も、新酒を表す時に使われます。
ボージョレ・ヌーヴォーはマセラシオン・カルボニク(MC)法で造ります。ぶどうを破砕(はさい)しないままステンレスタンクの中に入れると、ぶどう自体の重さで果房がつぶれ、この時に果皮に付着していた酵母が働き、発酵が起こります。エチルアルコールと炭素ガスが発生しますが、タンク内には炭酸ガスが充満し、この状態のまま数日間閉じ込めておくと、タンニン(渋み)がごくわずかで、きれいな色素のフレッシュで軽快なワインができあがります。
ヌーヴォーは瓶詰と樽詰めの2通りで出荷されますが、両方を飲み比べた時に、明らかに木樽のほうにうまみが出ています。これは木樽に含まれる「タンニン」によって色調は若干濃くなり、タンニンによって若干の渋みが加わるので、軽いイメージのヌーヴォーがしっかりするのです。今年はスクリューキャップで打栓したヌーヴォーも登場しますので、「樽仕込み」と「コルク栓」と「スクリューキャップ」の飲み比べも体験できます。
年に一度のお祭り気分を盛り上げて
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ボージョレ・ヌーヴォー祭り |
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昨年のボージョレの輸入数量は過去最高でした。『酒販ニュース』の最新データでは主要輸入業者50社の今年の輸入予定数量は前年をさらに上回る90万ケース規模とのこと。2005年ヴィンテージも特筆できる作柄ということなので、いやがうえにもお祭りムードは高まっています。
前述の大手各社のサイトも、「ヌーヴォーが飲めるお店」や「ヌーヴォーに合う料理」など、コンテンツも充実しているので、インターネットをフル活用すれば、かなりの情報が得られると思います。
『アルベール・ビショーのヌーヴォー』のラベルはここ数年、ジミー大西氏が描いており、カラフルな色彩が特徴で人気があります。輸入元メルシャンでは解禁日17日の12:00から13:00までの間、大手町サンケイビル・メトロスクエアで「ボージョレ・ヌーヴォーのふるまい酒」を実施します。トークセッションやサイン入りのボトル抽選会も予定されています。
冷たい風をほおに受けながら、到着したてのフレッシュな新酒を味わう気分はなかなか良いものです。まずはそこからお祭りムードを盛り上げてみませんか。
〈2005年の新酒、ノヴェッロ、ヌーヴォーを試してみよう〉
★イタリア
ボッラ・ノヴェッロ
ウマニ・ロンキ“ジェンマート”ノヴェッロ
ファレスコ“ボルガレ”ノヴェッロ
バンフィ“サンタ・コスタンツァ”ノヴェッロ
ドゥーカ・ディ・サラバルータ“コルボォ”ノヴェッロ
“フェウド・モナチ”プリミティーヴォ・ノヴェッロ
ヴァルフィエリ・ノヴェッロ・モンフェラート
★フランス(2005年11月17日解禁)
ジョルジュ・デュブッフ・ボージョレ・ヌーヴォー
ジョルジュ・デュブッフ・ボージョレ・ヴィラージュ・ヌーヴォー
マルセル・ラピエール・ボージョレ・ヌーヴォー
ジョセフ・ドルーアン・ボージョレ・ヴィラージュ・ヌーヴォー
ピエール・アンドレ・ボージョレ・ヌーヴォー
ドミニク・ローラン・ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーヴォー
フィリップ・パカレ・ボジョレー・ヴァン・ド・プリムール
ルイ・ジャド・プリムール
ルロワ・ボージョレ・ヴィラージュ・プリムール
アルベール・ビショー・ボージョレ・ヌーヴォー
★日本
2005おたる初しぼりデラウェア(北海道ワイン)
グレイス デラウェア ヴィンテージ2005ヌーヴォー(中央葡萄酒)
プロフィール
青木冨美子(あおき ふみこ)
慶応義塾大学卒業
(社)日本ソムリエ協会理事・同機関誌編集長。
NHK、大手洋酒メーカーを経て、現在、フリーランス・ワインジャーナリスト。
1990年(社)日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー資格取得。
著書に『おいしい映画でワイン・レッスン(講談社刊)』、協力執筆『ワインの事典(柴田書店)』、監修『今日にぴったりのワイン(ナツメ社)』など。
女性誌への執筆、各種企業向けワイン講師のほか、現在、昭和女子大学オープンカレッジの講師として活躍中。
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おいしい映画でワイン・レッスン
- 著者:青木冨美子
- 出版社:講談社
- ISBN:4062101351
- 価格:¥ 1,680
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今日にぴったりのワイン
- 著者:青木富美子
- 出版社:ナツメ社
- ISBN:4816338136
- 価格:¥ 1,680
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ワインの事典
- 著者:大塚謙一・戸塚昭・福西英三・山本博・東條一元
- 出版社:柴田書店
- ISBN:4388353140
- 価格:¥ 3,150
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