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秋に映画を楽しむ〈スポーツの秋編〉2006年11月03日
トリノ冬季五輪、米国でのワールド・ベースボール・クラシック(WBC)、サッカーW杯ドイツ大会と大きなスポーツイベントの続いた今年、国内でも佑ちゃんブームに沸いた夏の甲子園や日本ハムが44年ぶりの日本一に輝いた日本シリーズが盛り上がりました。華やかな見せ場と人間ドラマが交錯するスポーツは、映画にとっても魅惑的なテーマのひとつです。誰もが知っているメジャーな競技からマイナーな競技まで、思わず体を動かしたくなるようなスポーツ映画を紹介します。(アサヒ・コム編集部)
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メジャーリーグの試合を観戦すると、米国では野球は国民的娯楽なんだなあと、あらためて実感させられます。試合前、球場近くの駐車場では多くの観客がバーベキューを楽しみ、それぞれマイ・グラブを手にした親子連れがおもむろに球場入りします。試合中のスタンドは、まさにお祭り騒ぎ。顔や体中にペイントをほどこしたファンがひいきのチームを夢中になって応援する姿が、あちこちで見られます。 ロバート・レッドフォード主演の「ナチュラル」(1984年、バリー・レビンソン監督)とケビン・コスナー主演の「フィールド・オブ・ドリームス」(1989年、フィル・アルデン・ロビンソン監督)の2作は、米国人の精神の原風景のひとつといってもよい「ベースボール」の魅力に迫ります。前者は35歳にしてメジャー・デビューした遅咲きの新人を描き、後者は「天啓」に導かれた農民が自らの農場をつぶしてつくった野球場に起こる奇跡を描いています。ともに主演俳優のさわやかな演技と、詩情豊かな映像がうまく溶けあい、野球を愛する人の心の琴線にふれる作品となりました。 「プリティ・リーグ」(1992年、ペニー・マーシャル監督)は、1940〜50年代に実在した全米女子プロ野球リーグの内幕を描いたドラマ。酒浸りの監督役のトム・ハンクスをはじめ、ジーナ・デイビス、マドンナら個性的な出演者たちが、「男たちが戦争に駆り出された時代」の女性スポーツ史のひとこまを再現しています。 日本の野球映画(?)の名作として名高い「瀬戸内少年野球団」(1984年、篠田正浩監督)は、終戦直後の淡路島を舞台にした作詞家・阿久悠の自伝的小説が原作。民主主義教育の理想に燃える若い女性教師と、野球に夢中になってゆく島の子どもたちとの交流を、名カメラマンの宮川一夫が美しい映像でとらえました。これが遺作映画となった夏目雅子の鮮やかな存在感も忘れられません。 ◇ ◇ 世界中の人々を熱狂させたW杯、その決勝で予想もしなかった「頭突き退場」で現役生活を終えることになったフランス代表のジダン。ピッチ上での華麗な動きを本人の視点から追ったドキュメンタリー「ジダン 神が愛した男」(2006年、ダグラス・ゴードン 、フィリップ・パレーノ監督)は、カンヌ国際映画祭にも出品されて話題を呼びました。スコットランドとフランスのアーティスト2人が監督し、2005年のスペイン・リーグの試合でのジダンの動きを高解像度カメラで追ったこの映画は、「芸術的」といわれたジダンのプレーを、まさに芸術そのものとして切り取った作品といえます。全編に配されたグラスゴー発のギターバンド「モグワイ」の音楽も、単なるスポーツ・ドキュメンタリーと一線を画する効果をあげています。 世界中から才能が集まるW杯をなんとか見たいというのは、サッカーファンなら万国共通の思い。「ザ・カップ 夢のアンテナ」(1999年、ケンツェ・ノルブ監督)は、ヒマラヤ山麓(さんろく)の僧院で修行する少年僧たちが、W杯の中継を見ようと悪戦苦闘するコメディー。撮影地のブータンとオーストラリアとの共同製作で、高名な僧侶である監督(脚本も担当)のもと、本物の僧が多数出演したリアルな僧院の描写は評判を呼び、世界各地の映画祭に招かれました。 ◇ ◇ 己の肉体だけを頼りに成功をつかもうとするボクシングは、その劇的さゆえに、もっとも映画向きなスポーツといえるかもしれません。シルベスター・スタローンがトップスターの座に駆け上がった「ロッキー」シリーズをはじめ、古今東西、さまざまなボクシング映画がつくられています。 肉体と精神の限界に挑むボクサーは、俳優にとっても演じがいがある役柄なのでしょう。「レイジング・ブル」(1980年、マーティン・スコセッシ監督)で、複雑な内面を持つ実在のミドル級ボクサー、ジェイク・ラモッタに扮したロバート・デ・ニーロは、鍛えあげた現役時代と凋落(ちょうらく)した引退後の双方を演じるため、25キロを超える体重増を短期間に達成。鬼気迫る役作りを見せた彼は、「ゴッドファーザー2」でのアカデミー助演男優賞に続き、この作品で主演男優賞に輝きました。アクション映画やコメディーで頭角をあらわした黒人俳優のホープ、ウィル・スミスは「アリ」(2001年、マイケル・マン監督)で伝説のヘビー級チャンピオン、モハメド・アリ役に挑み、シリアスな演技に新境地を見せています。 名伯楽クリント・イーストウッド監督の「ミリオンダラー・ベイビー」(2004年)は、さびれたボクシング・ジムを舞台に、30歳をこえてボクシングに夢を託そうと挑む女性ウエートレス(ヒラリー・スワンク)と老トレーナー(イーストウッド)との交流をあたたかく、そして切なく描きます。激しいトレーニングでボクサーになりきり、2度目のアカデミー主演女優賞を受けたスワンク、渋いたたずまいと人間味あふれるやわらかい演技で助演男優賞に輝いたモーガン・フリーマン、作品賞・監督賞を得たうえに主演男優賞にもノミネートされたイーストウッドらの演技の応酬も見どころですが、もっとも注目したいのは監督の演出のさえ。ボクシングという題材を通して、生きることの意味、名もなき庶民にとってのアメリカン・ドリーム、孤独や家族愛をめぐるドラマを、決して声高になることなく、丹念にフィルムに焼きつけています。年を経るごとに、ずしりと重い手ごたえを増してゆくイーストウッド映画の真骨頂が発揮された名作です。 ◇ ◇ ちょっと風変わりな競技や、ふだんは見られそうもないスポーツ界の内幕も見られるのが映画のよいところ。米国映画「クール・ランニング」(1993年、ジョン・タートルトーブ監督)は、ジャマイカから1988年のカルガリー冬季五輪に出場したボブスレー選手の実話を映画化。雪や氷と無縁だった選手たちがボブスレーにのめり込んでいく様子が、軽快なレゲエに乗せてつづられます。ドラマ自体は「スポ根」ものなのですが、陽気で前向きな主人公やあたたかい師弟関係が、カラリとした南国のムードとあいまって、さわやかな感動を誘います。 邦画では、男子のシンクロナイズドスイミングという「盲点」のような競技をテーマにした「ウォーターボーイズ」(2001年、矢口史靖監督)が、さわやかな青春スポーツ映画として記憶に新しいところです。モデルとなった埼玉県立川越高校(男子校!)の水泳部が文化祭で披露するシンクロが大評判となったり、映画に続いてテレビドラマ化もされたりと、にぎやかに話題を振りまき、昨今の「邦画復活」の一翼をにないました。いまや日本映画に欠かせない若手俳優のひとり、妻夫木聡の映画初主演作でもあります。 誰もが知っている相撲をとりあげながら、廃部寸前の弱小大学相撲部という巧みな設定をしつらえ、ユニークなコメディーに仕立てたのは周防正行監督。「シコふんじゃった。」(1992年)は、監督の前作「ファンシイダンス」(1989年)でスキンヘッドになって修行僧を演じた本木雅弘と再び組み、旬の二枚目俳優がまわし一丁で大奮闘する姿が話題を呼びました。着想の妙はもちろん、竹中直人や田口浩正、清水美砂ら周防映画の常連俳優の魅力を引き立たせるキャラクターを描き分けた監督自身の脚本と、観客をあれよあれよという間にドラマに引き込んでゆく構成力も素晴らしく、この年の日本映画界の主な賞をほぼ独占しています。 長年、「もっとも次作が待たれる映画人」といわれてきた周防監督は今年、ほぼ10年ぶりの新作「それでもボクはやってない」(2007年公開予定)を撮りました。痴漢冤罪事件という意表をつくテーマへの挑戦でしたが、禅寺や大学相撲部、街の社交ダンス教室(「Shall we ダンス?」)を舞台に人間のおかしさや不可思議さを丁寧に描いてきた監督だけに、どんな世界が銀幕上に繰り広げられるのか、いまから楽しみでなりません。新作のニュースが届いたばかりなのに気の早い話なのですが、熱烈な野球ファンとして知られ、ヤクルト・スワローズの古田敦也監督との共著もある周防監督の「野球映画」を、いつかぜひ見てみたいものです。(敬称略)
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