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秋に映画を楽しむ〈芸術の秋〜シェークスピア編〉2006年11月11日
初演から400年の時を隔てて、いまもなお世界中の劇場で上演されつづけているシェークスピア作品。英国の劇作家がつむぎだした生き生きとした人間ドラマは、舞台上のみならず、銀幕でも色あせぬ輝きを放っています。多くの監督、俳優たちが挑戦してきたシェークスピア映画の中から、注目の作品を紹介します。
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世界でもっとも有名なシェークスピア作品に、希代のシェークスピア役者が挑んだら――。そんな最高の組み合わせで知られる名画が、英国の名優ローレンス・オリビエ監督・主演の「ハムレット」(1948年、製作・脚本も担当)です。父の王を叔父に暗殺され、復讐(ふくしゅう)に燃えるデンマーク王子を演じたオリビエは、撮影当時30代にさしかかったばかり(ハムレットも30歳前後と推定されています!)。10代のころからシェークスピア役者として舞台で活躍してきた彼は前作「ヘンリー五世」(1945年)で映画初監督と主演、製作を兼ね、続くこの「ハムレット」の2作で、シェークスピア映画の第一人者としての地位も揺るぎないものにしました。 「ヘンリー五世」がシェークスピア映画初のカラー作品だったのに対し、「ハムレット」は一転して陰影豊かなモノクロ映画。立体的なエルシノア城のセットで繰り広げられるドラマは、カメラワークも手伝って、劇場での芝居とはまた違った角度から王子の苦悩を浮き彫りにしています。オフィーリア役のジーン・シモンズの新鮮な演技も印象的。2時間半にわたる作品ですが、終始緊迫感の途切れることのない映像は、数あるシェークスピア映画の代表格といえます。アカデミー賞作品賞と主演男優賞の二冠、ベネチア映画祭グランプリなど数々の賞に輝いたオリビエは、その後も「リチャード三世」(1955年、監督・共同脚本・主演)、「オセロ」(1965年、主演)と、記憶に残るシェークスピア映画を残しています。 近年では、オリビエと同じく本場英国で活躍するシェークスピア役者、ケネス・ブラナーが監督・主演した「ハムレット」(1996年)がよく知られています。脚本も担当したブラナーが戯曲のせりふを一切カットしなかったため、4時間の大作に。若々しいブラナーのハムレットに華やかなケイト・ウィンスレットのオフィーリア、19世紀とおぼしき時代に舞台を移した絢爛(けんらん)な歴史絵巻は、見ごたえ十分です。 ブラナーも「から騒ぎ」(1993年、監督・製作・脚本・主演)、「恋の骨折り損」(2000年、監督・製作・脚色・主演)など、次々とシェークスピア映画に取り組んでいます。「ハムレット」の直前に撮った「世にも憂鬱(ゆううつ)なハムレットたち」(1995年、監督・脚本)では、「ハムレット」を演じる三文役者たちをユーモラスに描き、映画作家としての確かな腕を披露しています。 ブラナー監督が劇中の時代設定を移したように、多くの演出家や監督が、さまざまな時代を生きる「ハムレット」をつくりだしてきました。 マイケル・アルメレイダ監督の「ハムレット」(2000年)は、現代のニューヨークを舞台に、デンマーク王室をマルチメディア企業に置き換えた意欲作。イーサン・ホーク演じるハムレットは、映画監督をめざして英国留学していた御曹司として登場します。情熱的で多感なハムレットが現代に生きたらどうなるのか? 巨大な街に放り出された青年ハムレットの孤独が強調され、シェークスピア戯曲の持つ普遍性・現代性があらためて実感できます。 こうした脚色や表現の自由度の高さは、シェークスピア作品の特徴であり、魅力でもあります。多彩で個性的な登場人物が骨太なドラマを繰り広げるシェークスピアの戯曲は、つくり手の想像力を刺激し、さまざまな解釈を可能にするのです。 レオナルド・ディカプリオがロミオ、クレア・デーンズがジュリエットを演じた「ロミオ&ジュリエット」(1996年、バズ・ラーマン監督)も、現代を舞台に、恋人同士を引き裂く両家の抗争をギャング映画ばりに描いています。原作の剣は、もちろん銃に置き換えられています。また、ミュージカル映画の金字塔「ウエスト・サイド物語」(1961年、ロバート・ワイズ、ジェローム・ロビンス監督)が、物語の骨格を「ロミオとジュリエット」に借りているというエピソードも有名です。 「ライオンキング」「プロデューサーズ」などのミュージカルで知られる米国の舞台演出家、ジュリー・テイモアが監督した「タイタス」(1999年)は、シェークスピアの全作品中、もっとも陰惨な戯曲「タイタス・アンドロニカス」を、本来のローマ時代から時代を特定できない設定で映画化。奇抜な衣装やメークに加え、戦闘車両が走り回る場面や、ファシズムを連想させる描写などで観客の想像力を刺激しています。 また、アカデミー作品賞を受賞した「恋に落ちたシェイクスピア」(1998年、ジョン・マッデン監督)は、「ロミオとジュリエット」の創作秘話をまじえた架空のシェークスピア伝を歴史コメディー・タッチで映画化しています。この作品は、シェークスピアの恋人を演じた若手演技派グウィネス・パルトロウと、貫禄(かんろく)たっぷりのエリザベス女王に扮した英国を代表する大女優ジュディ・デンチの、2人のオスカー女優が輩出したことでも話題になりました。 オリビエやブラナーといった生粋のシェークスピア役者の例を持ち出すまでもなく、多くの俳優がシェークスピアの世界に魅せられてきました。アル・パチーノもそのひとり。初めての監督作「リチャードを探して」(1996年、製作・共同脚本も)は、「リチャード三世」の上演をめぐるドキュメンタリーという形でシェークスピアへのこだわりをいかんなく発揮しています。監督をはじめ、アレック・ボールドウィンやケビン・スペイシー、ウィノナ・ライダーらが役を演じる俳優本人として登場する一方、「リチャード三世」上演へ向けて、ジョン・ギールグッドやケネス・ブラナーらシェークスピアの達人に行ったインタビューも織り込まれます。舞台上で数々のシェークスピア劇を演じてきたアル・パチーノによる、シェークスピア探求の旅ともいえる秀作です。 その8年後、「ヴェニスの商人」(マイケル・ラドフォード監督・脚本、2004年)でパチーノはシャイロックを演じ、欲深なユダヤ人高利貸として演じ継がれてきた役に新たな光をあてました。パチーノのシャイロックは、長年差別に耐えてきたユダヤ人、娘に去られた父親という二重の悲しみをたたえ、憎々しい老人というこれまでのイメージをくつがえす存在感で観客に迫ってきます。長いキャリアを誇る彼の、代表的名演といっていい作品です。ベネチアで大がかりなロケを敢行し、16世紀の世界をよみがえらせた美しい映像からは、イタリア系のパチーノの「里帰り」を歓迎する地元の人々の思いが伝わってくるようです。 シェークスピア映画は欧米、とりわけ英語圏で多くつくられていますが、日本にもシェークスピア映画の傑作があります。黒澤明監督の「蜘蛛巣城」(1957年)は、「マクベス」を日本の戦国時代に移した翻案作品。マクベスにあたる戦国武将を三船敏郎、マクベス夫人にあたるその妻を山田五十鈴が演じています。能舞台のようにシンプルな城内で繰り広げられる策謀のドラマは、疾走感のあるドラマの運びと日本的な様式美がうまくとけあい、スケールの大きな悲劇に仕上がっています。黒澤監督はその後も、「リア王」を下敷きにした「乱」(1985年)を撮りました。 シェークスピアの言葉の力は時代や国境を軽々と飛び越え、人々をワクワク、ドキドキさせつづけているのです。
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