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2012年12月21日16時32分
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「社会全体で子育てを」岡山の男性が育児保険構想

写真:田辺泰之さん田辺泰之さん

 【赤田康和】少子化の解決策を広く募っている朝日新聞のフェイスブックページ「オルタナティブ・ニッポン」に、岡山県倉敷市の会社経営、田辺泰之さん(41)が「育児保険構想」という案を寄せた。国民のほぼ全員がお金を出しあって、子育て家庭を支えるというもの。どんな思いでつくったのか。話を聞きたくて、岡山まで会いに行った。

ご意見・感想はフェイスブックの特設ページヘ

 田辺さんはフェイスブックの「オルタナ…」ページに「マジ提案」と冒頭につけて育児保険の案を投稿してくださった。その概要は「20歳からの加入を義務づける保険制度を創設。子どもが生まれたり、養子を受け入れたりするまで、支払いが続く。子育てをしている世帯は逆に、保険料を受け取ることができる」というものだ。

 育児保険というアイデア自体は新しいものではない。佐賀県は2006年、独自につくった育児保険構想の試案を発表し、国に提案している。佐賀案は、20歳以上の国民から毎月2100円を集めて保険料2兆6千億円を確保。税金からも同額を出して、総額5兆2千億円を財源にし、月額5万円(0歳児)などの現金給付や、保育サービスの利用料の8割を肩代わりなどをする、というものだ。07年に政府が閣議決定した規制改革推進のための3カ年計画にも、「育児保険(仮称)」の創設を検討する、と書かれている。

 田辺さんの案は、佐賀県案より先鋭的な内容だ。まず、税金は使わず全額、徴収した保険料でまかなう。しかも、月額の保険料は20代は5千円、30代は1万5千円、40代は4万5千円、50代は5万円と、年を重ねるにつれて増額される。田辺さんの概算では、年間7兆円程度の財源を確保でき、これを18歳までの子どもに分配すると、1人あたり年間約33万円を支給できる、というのだ。

 「基本的な考え方は、子どもをつくらない選択をした人に、子育て費用と同規模の経済的負担をしてもらう、というもの。子育てを支援するだけでなく、保険料負担から逃れようと、婚活をして子どもをつくろうという動機を高める目的があります」

 もちろん、健康上の事情などから子どもをつくれない人からは保険料を徴収しないなど、制度をつくる上で細部に気をつかう必要がある、と話す。

 子どもをつくった人だけが直接の受益者になるため「不平等」にもみえるが、「40歳以上の国民から徴収する介護保険も、健康な人からすれば『不平等』だが介護を必要とする人を社会全体で支えるもの。それと同じ」と話す。子どもたちが働き手として将来、社会を支える、という意味では国民全員が間接的な受益者になるという思いもある。

 ただ、それでも、子づくりという私的な領域に国家が踏み込むものだとして、反発する人は少なくなさそうだ。田辺さんはなぜこんな構想を考えたのか。

 田辺さんは長男(13)と長女(11)の2児の父。長男が生まれた頃は国内の有名IT企業に勤める会社員だった。しかも、会社と提携事業を進めていた外資系企業の日本法人に出向中だった。

 出向先では新しい部門の立ち上げを任され、「恥ずかしい仕事はできないと必死だった」。長女誕生の頃も部下がたくさんいる立場で、仕事は厳しかった。機嫌が悪くなりがちな妻をもっと支えなくてはいけなかったと悔いている。「今でも妻に申し訳ないと思う」

 育児保険のアイデアを思いついたのは、その頃だ。子育てをする家庭を応援するしくみがあってもいい、のに、と。たとえば、育児保険で給付された現金を使ってベビーシッターに来てもらい、妻を休ませる。

 もともと、数学的に思考するのが好きだった。混沌(こんとん)とした世界に論理の枠で囲まれた空間を用意し、その中で因果の鎖をつなげていって最適解をはじき出す。

 まず考えたのは少子化がさらに進み、高齢者があふれる国になった近未来の日本だ。生産力は下がり、経済は悪化。警察官も消防士も高齢者が多くなり、社会の安全も心もとない。食料の生産もおぼつかなく、海外から買うカネもなく、世界から捨て去られた国――。

 「日本の少子高齢化は人類史上未知の領域。自分と妻の老後だけを考えれば、それなりの蓄えをもって生き延びる自信はある。でも、次世代のためには手を打たないといけない。日本人はもっと危機感をもつべきです」

 日本が沈没したら、海外に移住すればいいと思う人もいるのではないか。国という枠組みはそれほど大事ですか――。そう尋ねると意外な答えが返ってきた。

 「人間は、科学の力で、社会を発展させ、より多くの人間が食べていける社会をつくってきた。民主主義や資本主義もその過程で生まれた一つのシステム。自分が死んだ後の未来には、戦争や貧困という災厄をも取り除き、よりましな社会が生まれている。人間はそれができるはずだし、そう信じたいのです」

 ここまで原稿を書いて、私はふと不安になった。この記事をネット配信し、要約をフェイスブックに投稿したとき、田辺さんへの批判が集中しないか、と。そこで、フェイスブックのチャット(会話)機能を使って、問いかけた。「批判が寄せられることへの不安はありませんか」「金額はここまで増額していく形でよいですか」と。

 「フェイスブックの炎上は気にしていません。『ペンは剣よりも強し』です」「金額はあくまで案ですから、それくらい刺激的な方がよいのではないでしょうか。一石を投じるインパクトが必要だと思います。言葉のチカラを信じているので、中途半端な発言や、誰かの顔色をうかがった発言は意味をなさないと思っています」

 田辺さんは取材時にこう話していた。リベラルな主張で知られたニュースキャスターがかつて、ある場所で、「中道左派が一番安全なんです」と発言したのを耳にしてしまい、とてもがっかりした、と。田辺さんはチャットで、その経験に触れつつ、こうつづった。

 「広く言葉を発するということは、ある程度の危険を覚悟しないとできない。『正義を行えば世界の半分を怒らせる』といった作家もいましたが、まさにその通りだと思います」

 朝日新聞の、この無謀なる新年企画。10億人以上の人が自ら発信をする社会のいまを、その発信や対話がなされているソーシャルメディアの中に記者が飛び込んで描きだすのが、狙いの一つ。だが、気がつけば、記者の私がその発信のエネルギーに驚き、圧倒されている。ソーシャルメディアはやっぱり面白い。

   ◇

 田辺さんは、裕福な高齢者の資産に課税し、同時に生前贈与の税率を優遇することで、高齢者から若い世代への資産の移行を促し、結婚・出産へのハードルを下げるという案も寄せてくださいました。フェイスブックページ「オルタナティブ・ニッポン」(https://www.facebook.com/Anippon2013)には田辺さんのレジュメも掲載予定です。育児保険構想など田辺さんのアイデアへの感想やご意見をお寄せください。

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