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2012年12月23日05時00分
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〈新年取材班日誌〉会見中、質問をツイッターで集めたら

写真:中日本高速の本社で行われた会見には多数の記者が詰めかけた=13日、名古屋市中区、鈴木彩子撮影拡大中日本高速の本社で行われた会見には多数の記者が詰めかけた=13日、名古屋市中区、鈴木彩子撮影

 【神田大介】12月2日午後4時6分にした私のツイート。「中日本高速会見中。何か質問があったらリプライ(返信)ください」。会見開始から約1時間後のことだ。

〈特集〉新年取材班「ビリオメディア」

 この日の朝、山梨県の中央道笹子トンネル上り線で天井が崩落した。1枚1トン以上あるコンクリートの板が約330枚、110メートルにわたって落ちるという、悪夢のような大事故。後に9人の死亡が明らかになった。管理する中日本高速道路は午後3時すぎから名古屋市の本社で会見を開き、私も参加していた。

 私は2010年8月から、記者として新聞社名と実名を明かしてツイートをしている。調査報道のための情報収集、取材現場からの実況、紙面に掲載された記事の裏話の披露など、あれこれ使い方を考えてきた。読者から質問を募り、会見で代わりに尋ねるというのは、ずっと温めていたアイデアだった。

 記者会見は記者のために開かれているのではない。記者を通じて情報を知る読者、市民のためにある。会場の広さや質問の時間におのずと制限があるから、代表として会見に出ているだけのことだ。だが、重要な会見の多くは突発的に開かれる。事前に質問を募集するのは難しいが、ツイッターを使えばリアルタイムに集められる。

 とは言え、会見ではまず記者として必要な質問をするのが先だ。回答を聞きながらメモをとり、配布された資料に目を通して、どんな記事が書けるのかを判断する。その場で原稿を書き始めることも少なくない。ネットを見る余裕はなかなか持てない。

 今回は事故の規模が大きく、朝日新聞社からは2人以上の記者が出席するケースが多かった。役割分担をすることで、構想の実現にこぎ着けた。

 2日は154件のリプライが寄せられた。感想や「こういう試みをしている記者がいる」と紹介するツイートも含むが、大半は質問。重複する内容も少なくなかった。

 私からの回答ツイートは48件。ただ、既に記者が聞いていた内容で答えることができた質問もかなり多かった。この日2回あった会見の中で、新規に尋ねたのは4件。

 (1)トンネル内の監視カメラで、閉じ込められている車両のナンバーや台数を確認できないか。(当時は事故に巻き込まれた人の数がわかっていなかった)

 (2)天井の耐震性を視野に入れた検査はされていたか。

 (3)高速道路の利用者に対する心理面へのケアはあるか。

 (4)笹子トンネルの通行が再開するまでの間、代替路はできるのか。

 特に印象に残ったのは、(3)の質問だ。

 記者の質問は、まずトンネルの構造、続いて原因の追及に集中した。天井板で仕切られた空間で排ガスを換気するということ自体、多くの人が初耳だろう。記者も同じことだ。各部の寸法や重さ、形状や材質といった事実の確認にもかなりの時間が費やされた。ツイッターを通じて寄せられた質問も、この2点に関するものが多かった。

 だが、高速道路は全国で毎日約900万台が通行するという、生活に密着したインフラ。国土交通省によると、笹子と同じ構造のトンネルは中日本高速の管内だけで4カ所、全国には48カ所ある。必要に迫られて使わなければならない人は少なくない。どんな心持ちで走ればいいのか。この視点は、私にも、30人ほどいた他の記者の質問にもなかった。

 中日本高速は「あすから緊急点検を行い、できるだけ早く結果を報告したい。異常が見つかればすぐに補修する。見つからなければ安心してもらえる」と回答した。他のトンネルは通行止めにしなくて良いのか、あすにも天井板が落ちてこない保証はないのではないかと質問を重ねたが、納得のいく答えはなかった。

 (4)の代替路に関する質問もまた、利用者としての立場からの質問だ。会見で見落としがちな視点かもしれない。(2)は雑誌記者からの質問で、逆に専門性が高い。これもまた私にはなかった視座だ。

 ちなみに、私がこの日、ツイートと関係なくした質問は「トンネルはたくさんあるはずだが、なぜ笹子と同じ構造は4カ所だけなのか。最近は造っていないのか」「(金づちでボルトやコンクリートをたたいて音を調べる)打音点検を行ったのは具体的にトンネル内のどの部分か」「(天井板を支える)つり金具はモルタルで埋められているとのことだが、ボルトなどは目視可能なのか」など。

 翌3日も同様に質問を集め、54件のリプライがあった。私からの回答ツイートは19件、会見で質問したのは4件。

 (1)天井板に1トンを超える重さが必要なのはなぜか。

 (2)開通から30年以上ボルトを交換していないというが、「そういうもの」なのか。

 (3)笹子トンネル内の監視カメラ、事故時の動画は録画されているのか。公開できないか。

 (4)アンカーボルトの埋め込み、固定方法は他の横流換気方式のトンネルでも同様なのか。

 この日、印象に残ったのは(1)と(2)の質問だ。そもそも天井板はなぜそんなに重いのか。排ガスを通すだけならもっと軽くてもいいのではないか。ボルトを交換しないのは普通なのか。身の回りのもの、たとえば家具や乗用車で考えたとき、30年も部品を何一つ交換しないということは考えられない。トンネルのような巨大な構造物の場合は違うのか。

 どちらも、しごく一般的な感覚に基づく、いわばシロウト的な質問。だが、これは物事の理解にとても重要だ。たとえば1トンが重いのか軽いのかは、比較対象や「その業界の常識」によって異なる。

 3日夜までに中日本高速の会見は4回開かれ、毎回2時間以上に及んだ。この間に私は笹子トンネルを巡る事情について半可通になってしまい、感覚がまひしていた。ツイートが思い出させてくれた。

 中日本高速の回答は、(1)「換気で生じる風圧などを考慮して設計している」、(2)「耐用年数の設定はない。点検、補修をして使い続けるのが基本的な考え方」。だが、設計自体が間違っていたか、点検に不備がなければ、今回のような事故は起きない。

 その後も中日本高速の会見は12月5日、8日、13日にあり、それぞれ同様に質問を募集した。リプライ数はそれぞれ14、11、36。

 今回の手法は、記者が見落としがちな質問ができるという他に、効用がもう一つあった。

 会見には流れがある。1人の記者が質問した内容が、次の記者の質問につながる、ということがよくある。3日夜の会見では、事故原因と、会社としての責任をどう考えるのかという点に質問が集中した。

 ところが、ユーストリームで中継でもされていない限り、ネットでそんな流れはわからない。私がツイートをもとにした質問は、少なからず流れを遮った。だが、それがむしろ良かった。回数を重ね、細かい事実の確認に終始しがちだったやりとりに、新しい風を吹き込む効果があったように思う。

 今回は多分に実験的な試みだったが、ソーシャルメディアを活用した会見の取材手法は、利点が多いと実感できた。おそらく、今後は珍しくなくなっていくだろう。自分に代わって記者が会見で質問をする。誰もがメディアになる世界とは、きっとそんな意味でもある。

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