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2012年12月26日03時00分
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日韓インタビュー(2)「一度占領された国の心配事」

【武田肇】日韓インタビュー〜どうする竹島、歴史認識問題(2)

●韓国のIT系大手企業役員のSさん(43)

=ツイッターで知り合った韓国人ビジネスマンです。取材を申し込んだ翌日、ソウル市内の高級ホテルの喫茶室で会って頂きました。取材は12月中旬(大統領選挙前)です。

−−お仕事中なのにありがとうございました。最初の質問ですが、私のツイッターのフォロワーになっていただいたのはなぜですか。

 大統領選がきっかけです。19日の投票が近づいてきましたが、(与党セヌリ党)朴槿恵候補に投票するか、(野党、民主統合党)文在寅候補にするか、まだ迷っているんです。もともと(無所属で立候補を表明していた)安哲秀・ソウル大教授を支持していたのですが、辞退してしまった。朴か文か、どちらかに投票するしか現実的な選択肢がなくなってしまったのですが、決め手がない。そこでツイッターで無差別に1000人をフォローし、選挙に関する「つぶやき」を集めてみたんです。そうしたら、誰かがリツイートした、武田記者の「つぶやき」に出会った。本当に偶然です。

−−ちょうど、私が日本の留学生2人と一緒に独立記念館に行ったときの「つぶやき」ですね。

 「独立記念館を見て、気持ちが複雑になった」という「つぶやき」(韓国語)を読んで、日本の若い人らしい、率直な考えだと思ったんです。日本人の若者は韓国の歴史(日本による植民地時代)にまったく関心がないと思っていたので、なんだか不思議な気もしました。この問題で悩む姿も新鮮でした。それで、ほかの人も読んでほしいと思って、リツイートしたんです。読んだ人がどれだけいたか、わかりませんが。最近、選挙のせいでツイッターがこんがらがっていますからね。

−−もともと日本に関心がおありなのでしょうか。

 実は父が大阪生まれなんですよ。(1945年の)解放後、家族と一緒に韓国に帰ってきたので、在日朝鮮人ではありませんが。父が韓国に帰ったのは小学2年なので、日本語は全部忘れてしまっています。父の兄たちは日本の大学を卒業しました。父の父、祖父は日帝時代(植民地時代)、日本の炭坑に働きに行ったと伝え聞いています。そこでけがをして、大阪に行ったそうです。

 そうした家族の物語とは関係ない形で、私は1年前からビジネスで役立つだろうと、日本語の勉強を始めました。まだ道を尋ねることくらいしかできないレベルですが。

 今年夏、試しに3泊4日、初めて日本を一人旅してみたんですよ。新宿に泊まって、明治神宮、築地市場を回り、東京ドームで野球を見て。日本の漫画が好きだから、同人誌を探しに池袋にも立ち寄りました。

 日本を旅行していると、修学旅行をしているような懐かしい気持ちになるのですよ。幼いころに慣れ親しんだ日本漫画、たとえば「銀河鉄道999」に出てくるような風景にも出会いました。ああ、私は日本のいろんな文化の影響を受けているんだな、と再認識した。韓日は文化的に非常に近い。日本語、韓国語もよく似ているでしょ。まるで韓国語の方言のように感じるときもあります。

−−現在の韓日関係については、どうお考えですか。

 民間交流はものすごく活発ですよね。私の周りでも、韓国と日本を行き来する人はかなり多いです。会社で隣の席にいる人は日本に留学経験があり、日本の取引を担当しています。いま韓国では日本語が上手な人は「特別な存在」ではないのです。日本語に加えて中国語くらいできないと、会社でも特別扱いされないんです(笑)

 一方で、政治関係は非常に難しい状態ですよね。きょう、インターネットで時事雑誌の日本関係の記事を検索したのですが、今回の日本の総選挙で、民主党が消費税で苦労し、保守傾向が急速に高まるだろうと伝えていました。こういう記事がいま韓国でたくさん出ています。

 日本人は個人的に会えば、韓国人を嫌っているとは感じられません。でも、韓国のニュースで伝えられる日本の政治家の姿は、支持を受けるために、あえて日本人が韓国人を嫌うように感情を挑発し、対外的に日本の強さを見せようと扇動しているように見えます。

 こういうことは韓国でもあると思うんです。夏に李大統領が独島に行きましたよね。人気が低迷していた大統領が支持率を上げるというねらいを持っていたことは明らかです。政治家は自分の支持率のために国民の感情を故意に利用したがるんです。

 でも、極端な考え方は、多くの支持を得ていないとも考えています。たとえば、この夏東京に行ったとき、池袋で右翼がマイクを握ってなにやら訴えている姿を見ました。李明博大統領が独島(竹島)を訪問してまもないころです。印象的だったのは周囲の日本人がほとんど無視していたことでした。集会というものではなく、ただ、一方的に訴えているだけに見えました。韓国でもそういう極端な活動はわずかなんですよ。

 ただ、韓国人の国民感情の土台になっている「事実」というのは存在します。日本が過去に韓国を植民地にしたこと、そして日本が独島を自分たちのものだと主張を続けていることです。

−−日本人の歴史認識についてはどうお考えですか。

 私、きょう、記者に会うにあたって、日本によく出張している同僚に「日本人と韓国人で歴史認識に差があるようだが、どんな問題があるのか」と聞いてみたのですよ。その同僚はこれまで多くの日本人に会ってきたのですが、「日本人が歴史的なことについて知らないのが問題だ」と言っていました。

 彼によると、慰安婦問題とか具体的な話に入るより、そもそも日本が韓国を植民地支配し、悪いことをしたことについて知らない日本人が多いと言うのです。韓国人は歴史をよく知っているのに、日本人は全然知らない−−。これでは対話が成り立たないのは当然ではないでしょうか。

 たとえば北朝鮮のミサイル発射で大騒ぎになった日、韓国では元慰安婦のハルモニが死去したニュースが流れました。生存する元慰安婦のハルモニは59人にまで減りました。これは私たち韓国人にとって大きな関心事です。

 でも、日本人でこのニュースに気にとめた人はおそらくほとんどいないでしょう。それどころか、慰安婦問題自体を認めない人もいます。これだけ前提が違っていると、対話は困難です。

 もう一つ例を挙げたいんですが、尹東柱(ユン・ドンジュ)をご存じですか。韓国では知らない人がいない詩人です。彼は日帝時代に逮捕され、福岡で生体実験されて亡くなりました。日本で彼の名前を知る人はどれだけいるでしょうか。(※ちなみに記者は知っていました)

−−対話を成立させるにはどうすれば?

 東京の大学にいる韓国人教授が雑誌に寄稿した記事を読んで、私もなるほどと思いました。日本人は記録にこだわるので、感情で訴えるよりも、記録によって事実を納得してもらうべきだという主張でした。歴史認識問題を解くとき、感情的に接近してはいけない、記録に基づいて過去史を整理することが大事という戒めです。そのうえで、日本人が歴史的事実について認識を深めれば、対話という次の段階に行けるのと、その先生は書いておられました。

−−日本人の中には、韓国は子どもたちに「反日教育をしている」と指摘する人もいます。

 韓国の子どもたちは小学校から高校まで日帝時代の歴史について学びます。意識的に「反日」にするのが目的でないと思いますが、歴史的事実、たとえば明成皇后暗殺などを学ぶと、自然に嫌いになるということはあるとは思います。私は行ったことがないけど、独立記念館にも行くようです。

 そのほか、ドラマでも日帝時代を舞台にした作品も放送されています。知る機会が多いというのは確かでしょう。

 でも、一方で子どもたちは日本の漫画やアニメを見て育っている。日本人がみんな悪いとは思っていません。両面性があるんです。

 日本語の学習熱もいまも強いです。日本人のビジネスマンはふつう、韓国に長く暮らしていても韓国語を勉強しませんよ。

−−韓国に長くいながら韓国語を学ばない日本人をどう見ていますか。

 理解しています。私がたとえば東南アジアに駐在したとしても、その国の言葉を学ばず、英語で済ませるはずですから。韓国の経済力が、日本のビジネスマンが韓国語を学ぶ必要があると思うまでに達していないということだと思います。もし、日本人のビジネスマンが米国に行ったら英語を一生懸命学ぶでしょう。韓国人も同じです。

 もし私が日本に仕事で駐在することになったら?もちろん一生懸命勉強しますよ。中国に行っても中国語を勉強するでしょう。たとえ忙しくても、仕事で必要性を感じるなら勉強するもの。この問題は経済的な力によるものだと整理しています。

−−日本の歴史教育については

 教科書から自国にとって都合の悪い事実の記述が消えつつあると聞きました。学校教育の問題が、若者らが歴史を知らない大きな原因ではないでしょうか。

 たとえば、韓国併合についてはどうでしょう。韓国では「強制合併」と言っていますが、日本ではそう教えていますか?安重根についてまで知らなくていいと思いますが、植民地化を進める過程で、拷問があったこととか教えているでしょうか。

 韓国では軍事政権時代、多くの学生らが拷問されたのですが、その拷問は日帝時代に警察官だった韓国人が習ったものと伝えられています。歴史を連続のものとして捉えているのです。

 私は日本人は個人的には「善」だと思っています。でも、韓国の強制合併時、そうでない人もいた。そのことは知っていてほしい。

−−歴史を知らない日本人と親しい友達になれますか。

 なれると思います。先日、ロータリークラブの会合に日本人が来て「(大統領の竹島上陸で悪化した日韓関係は)個人的な友好関係に基づいて直すことができる」とおっしゃったのですが、私も賛成です。個人的な友好関係は国家の対立を解く一歩になると思います。

 しかし・・・慰安婦問題、独島問題の二つについては、国家的な解決が必要でしょう。この問題で国同士がぶつかると、個人的に親しくなっても、対立を超えるのが非常に難しくなります。慰安婦問題については、一方は強制的に慰安婦にさせられたと言い、もう一方は自発的行為と言っていますよね。認識を共通化させれば、解く方法もあるものですが、いまの状況では、対話が成り立ちません。

−−1960年代生まれのいわゆる「386世代」(※)ですが、どんな日本観を持っていますか

(※)「386世代」=韓国で1990年代に30代で、民主化運動が盛んだった80年代に大学時代を過ごし、60年代生まれの若手世代。現代韓国社会で文化、経済、政治などをリードしてきた。

 日本は、政治については停滞が続いてると思いますが、経済的には大国と思っていますよ。今もすごい経済大国ですよ。政治が右傾化しているというのも、周辺国がだんだん経済力を増していくのに対し、焦りを感じているのかなと受け止めています。

 私たちの世代は、日本がほかの国と比べても特別嫌いというわけじゃないと思います。日本が嫌いな人もいれば、米国嫌いもいる。

 でも、日本が持っている実力は認めているんですよ。経済だけでなく、いろんな分野で日本の実力を認めています。だから韓国人は日本に留学し、日本の技術を研究するのです。今では携帯電話など少しの分野で、韓国が日本を追い越しているところがあるかもしてませんが、日本は本当に実力のある国です。そのことを、韓国人が認めたがらない感情があるというのも事実ですが。

 結局、韓国人が日本を嫌いになる瞬間というのは、たとえば慰安婦問題について、歴史的事実であるから認めればいいのに、かたくなに認めないときですよ。だから感情的になってしまう。

 でも、嫌いなところも一部あるけど、日本人とは交流したいというのが多くの韓国人だと思います。「モルジマンカカウンナラ」(遠くて近い国)という題名の本がありますが、まさにそういう存在だと思います。えっ?日本にもそんな言葉があるのですか。やはり近い国ではないですか。

−−韓日関係の未来はどう考えますか?

 文化的、経済的な交流はずっと続くでしょうが、政治的な面ではぶつかり続けるでしょうね。政治のぶつかりが、文化交流を阻害することを防がないといけません。

 たとえが正しいかわかりませんが、最近「カンナムスタイル」のPSY(サイ)が、米国のオバマ大統領のパーティーで公演することになった直前、過去に反米ソングを作っていたことが米メディアに暴露され、問題になりました。

 でも、その後、サイが「あれは過激すぎました」と謝罪をし、予定通り公演は行われました。今では何の問題にもなっていません。政治が文化交流を防いではいけないという米国式のクールで、断固とした考えを、日本も韓国も学ぶべきではないでしょうか。

 私は過去史の問題については、日本人と韓国人がそもそも発想が違うということも考えるべきだとだとも思っています。たとえば、李明博大統領の「天皇謝罪発言」について、日本社会では大変な問題になり、韓国を非難しました。でも、韓国には王政がないから、多くの韓国人は、大統領と天皇は対等だと思っているんですよ。あの発言は、目上の人に対する発言でなく、対等な相手に対する発言だと認識している。だから韓国人は日本人がなぜ怒るのか、理解できないんです。

 歴史問題では韓国人はよく、ドイツと日本を比較して考えます。ドイツはアウシュビッツなどについて後世代に教育し、謝罪を続けている。その姿を見ると、たしかにここまでやれば2度と同じ過ちはしないと思うのです。でも、日本の場合はどうでしょう。「もう昔は関係ない」と思い始めているのではないでしょうか。そのことが韓国はじめ、周辺国を恐れさせています。

 いま一番の心配は、過去の歴史を知らなかったり、否定する人たちが政権につくことです。日本は、経済大国の次に、軍事的大国を目指すのではという心配を、韓国人はずっと持ってきました。日本人にとってそういう感覚はわかりにくいかもしれませんが、一度占領された国は、同じことがまたありえるという懸念を持つものです。だからこそ、日本の政治家は歴史問題に取り組む必要があると思うのです。

 望むのは、若い世代にきちんと歴史教育をしていただき、周辺国が「日本がもう二度と戦争はすることはない」と安心させてもらうことです。逆に日本の記者に聞きたいのですが、日本は総選挙後、軍隊を正式に持つのでしょうか?

 私はこれまで日本人に会って「歴史は何も知りません」と言われても、何も言ってきませんでした。でもその人たちが「そういう事実はなかった」と否定し始めたら・・・そうならないことを願います。

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