現在位置:
  1. 朝日新聞デジタル
  2. ニュース特集
  3. ビリオメディア
  4. 記事
2013年1月9日03時00分
このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

情報の送り手と受け手、ともに解探る時代に 岩田崇さん

写真:岩田崇さん拡大岩田崇さん

 ビリオメディア特集ページに、慶大SFC研究所の岩田崇・上席訪問研究員が原稿を寄せてくれた。岩田さんは、赤田康和記者が立ち上げた日本の将来を考えるフェイスブックページ「オルタナティブ・ニッポン」の運営を担った。

ご意見・感想はフェイスブックの特設ページヘ特集:ビリオメディア

     ◇

 情報の送り手と受け手が意見交換しながら、解を探し出す時代が来た――。朝日新聞の新年企画に協力するなかで私が実感したことです。

 「何かソーシャルメディアを使って新しい紙面づくりに挑戦したい。ぜひとも力を貸してください」。赤田康和記者から突然の依頼が来たのは、昨年11月下旬でした。仕事に対する姿勢に共感するところもあり、半ば激流に巻き込まれるようなかたちで、企画にかかわることになりました。

 日本の将来について議論する場としてフェイスブックに特設ページ「オルタナティブ・ニッポン」をつくり、そこでの議論を盛り上げていく。いまもページでの議論は続いていますが、このページをデザインしたり、赤田記者から届いた素材を加工して投稿したり、ページの立ち上げと運営の実務を私が担いました。

 もともと、私は、政治における合意形成のプロセスを研究しており、政治家と有権者がネット上で対話できる仕組み「ポリネコ」(Political Needs Coordinatorの頭文字。試作版はwww.polineco.jp)をつくり、政治家と有権者間の関係を変え得る新規性が認められ特許も取得しました。

 ソーシャルメディアで一般の人の意見を取り込みながら、スタジオで専門家らが討論するテレビ番組『ザ・コンパス』(BSフジ 毎週土曜日午後9時から生放送)の事務局を担当しています。番組では、100人を超す有識者に毎週テーマと質問を送り、意見を集約すると同時に、フェイスブックの特設ページやツイッターから一般の人にも意見を募り、スタジオで紹介しています。世の中で関心を集めた出来事について、いわゆるニュース番組とは異なる切り口を提示することに成功していると思っています。しかし、当然、台本はあり、議論の内容が小さくまとまってしまうことや、ソーシャルメディアから寄せられた一般の人の意見を、スタジオでの議論の流れの中心におくほどには活用し切れていないといった課題もあります。

 今回の朝日新聞の企画では、フェイスブックの特設ページ「オルタナティブ・ニッポン」で、一般の人たちと赤田記者が「少子化問題」というテーマを共有し、専門家らのユニークなアイデアも紹介していくことでテーマを深く掘り下げることができたと思います。これは大きな成果といってよいと思っています。

 議論を通じて見えてきたのは、少子化というテーマは既にさまざまなメディアで取り上げられてきたにもかかわらず、この問題の根本原因が何なのか、といったことへの共通見解が確立されていないことです。その結果、それぞれの立場から「子育て世帯の負担を減らすべきだ」とか「非婚や晩婚を解消しよう」といった主張をすることになり、議論は拡散していきます。

 しかし、どこからでも文脈を無視しても意見がいえるからこそ議論が活発化するのであって、議論を整理しすぎてしまえば、予定調和になってしまいます。これは、議論の調整役(ファシリテーター)として感じたジレンマです。

 おそらく、対立したり、違う方向に向かったりする複数の意見について、事実に基づいてデータを分析・提示するなど、ページの運営者が調整役(ファシリテーター)として橋渡しをしていくことが必要なのだと思います。ただ、今回の企画はお正月の連載紙面の記事をまずつくるという目的があり、そのための時間的制約もありました。

 テレビも新聞も、番組や記事には「型」があり、いわば着地点を最初から予想しながら、調査や取材をしている面があります。それはマスメディアが持つ限界ともいえます。そのため、マスメディアは、この社会が抱える問題を紹介することは得意だけれども、その問題への解決策や処方箋(せん)を見つける機能はまだ開発しきれていないと思います。

 しかし、オルタナティブ・ニッポンの1カ月間を通じて、難題に対する処方箋(しょほうせん)をマスメディアが追求できる可能性があり、読者やユーザー側にもメディアへの期待感があることがよくわかりました。情報の送り手と受け手の関係も、従来の一方通行ではなく、新しい協同(協働)的なものになったことを、このページでは見せることができたと思っています。

 成熟した社会において価値のあるニュースとは、ただ新しい事実というだけではないと思います。むしろ、既に多くの人がなんとなく知ってはいるが、何が問題なのか、なぜそうなっているのかがわからないことについて、掘り下げた考察や調査を通じて、答えを探し出し新たな視野を読者がもてるようにすることこそがニュースなのではないでしょうか。その際に、情報の送り手も受け手も「正解」がわからない中で手探りしながら考え、意見交換し「正解」に近づいていく。それをコンテンツとして届けることが、マスメディアの将来の姿だと考えます。さまざまな意見や事象、そして人々をつなぐハブとしてマスメディアは真価を発揮するはずです。単に記事を書くのでなく、読者との対話をうまく進める能力が求められるなど、記者の職能も変わるでしょう。

 今回の企画で何より驚いたのは、1面に記事が掲載されたことで「いいね!」をした人が2倍の2千人に達するなど、「オルタナティブ・ニッポン」のユーザーの数が爆発的に増えたことです。経験的に新聞とネットの間には小さくない隔たりがあると考えていましたが、新聞が持つ潜在的な力と、ネットユーザーにおいても新聞への期待値が小さくないことを示すものでした。

 「オルタナティブ・ニッポン」では、これまでに取り上げたテーマ「少子化」や「新しい政治のしくみ」について、より深い議論もしていきたいと思っています。より多くの人たちに、マスメディアがまさに変わろうとしている最前線を目撃し、参加いただければ、うれしく思います。

     ◇

 いわた・たかし 1973年生まれ、慶応大学SFC研究所の上席訪問研究員で、ソーシャルメディアを活用したメディアデザインや行政の政策サポートを提供するコンサルティング会社「ハンマーバード」を経営。3歳の男児の父。

PR情報
検索フォーム

ビリオメディア 最新記事


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内事業・サービス紹介

アンケート・特典情報