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2012年8月30日2時14分
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県内死者最悪11万人 津波、下田で33m 静岡

図:想定される最大震度と津波の高さ想定される最大震度と津波の高さ

 最大33メートルの津波が押し寄せ、死者は11万人――。国の有識者会議が29日にまとめた南海トラフ沿いで起きるとされる巨大地震の被害想定で、県内は全国でも最悪のシナリオとなった。中部電力浜岡原発(御前崎市)の周辺では最大9メートルも浸水する恐れがあり、防波壁など津波対策の必要性が改めて示された。

 今回の想定は、3月末に発表した津波の高さを、50メートルから10メートルメッシュに細分化して分析。そのほか、新たに浸水域や死者数、建物被害数をまとめた。

 想定される揺れの大きさは3月発表と変わらず、県内全域が震度6弱以上の揺れに襲われる。静岡市や浜松市など県中部から西部の15市町は、最大震度7の揺れになる見込みだ。

 地震によって発生する津波は、下田市で最大33メートルに達する。3月発表時の25.3メートルより大きくなったのは、10メートルメッシュで細かく推計したため、海底や地形の影響が出ている。

 33メートルの津波に襲われるとされたのは、下田湾の外の狼煙(のろし)崎付近。下田港内は12〜15メートル程度という。港内へは地震発生から約20分後に到達するとみられる。

 南伊豆町では、駿河湾に面した入間富戸ノ浜付近に26メートルの津波が想定される。夏場に約3万人が訪れる弓ケ浜海水浴場付近は12〜13メートルという。弓ケ浜には地震発生から約10分で津波が押し寄せるとみられる。

 このほか、松崎町は雲見地区の南西側の海岸で、16メートルの津波が想定された。ただ、ここは集落の外側。松崎海水浴場は13〜15メートル程度だ。

 市区町別の津波の高さの平均値では、「10メートル以上」となったのは下田市や南伊豆町など10市町。全国では21市町あり、その約半分を県内で占めたことになる。

■全国死者の3分の1 県内

 一方、県内で想定される死者は、冬の深夜に地震が発生した場合、最悪で10万9千人とした。水門や堤防が機能しなかった場合は、11万4300人になる。全国で想定される死者32万3千人の3分の1を占める。津波の死者が最も多く約10万人。建物倒壊による死者は1万3千人だ。

 負傷者数は、冬の深夜に地震が発生した場合、最悪で9万2千人。夏の正午の発生の場合は最悪で8万1600人になる。建物の倒壊で自力脱出ができない人は、冬の深夜の地震では5万7千人、夏の昼だと3万8千人になるとみられる。

 建物被害は県全体で約32万棟。揺れによる被害が最も多く、20万8千棟を占める。津波による被害は約3万棟になる。

■すぐに避難で死者3万人減 冬の深夜

 被害想定では、いくつかのケースも試算している。冬の深夜の地震発生でも、すぐに避難が行われ、近所への避難呼びかけなどが行われた場合は、津波による死者は約3万人減り、全体の死者数は8万人になる。

 夏の昼間に発生した場合には夜より避難が進むため、早期の避難率が高い場合には死者は4万9千人で、最悪のケースの半分になる。

 仮に、すべての住宅が耐震化され、地震発生とともに全員が避難するなど最大限の防災対策が取れたとすると、県内の死者は2万9千人まで減ることになる。

■浜松・磐田・湖西

 津波による浸水が大きく広がるのが、遠州灘(なだ)沿いの浜松、磐田、湖西各市だ。

 浜松市には最大16メートルの津波が押し寄せ、約5キロ内陸部の中区まで浸水する。最も被害が甚大な南区は、区の半分が浸水し、10メートル以上の海水につかる地域は80ヘクタールに及ぶ。さらに津波は、天竜川を5キロほど遡上(そじょう)する。

 浜名湖に流れ込んだ津波も湖の北部まで押し寄せる。北区役所周辺も約1メートルの海水につかるという。

 浜松市の浸水面積は4千ヘクタールに達し、県全体の浸水域の3割近くを占める。浸水する沿岸部には10万人以上が暮らす。市の担当者は「一帯には234の避難ビルが指定されている。高さが足りるのか検討したい」と話した。

 磐田市では、国道150号沿いまで津波は押し寄せ、福田(ふくで)中学校が想定浸水域に入った。湖西市では約2キロ内陸部まで津波は達し、新居高校や湖西署、JR東海道線の新居町駅などが浸水するとみられる。

■清水区・焼津

 中心市街地への浸水が想定された静岡市清水区と焼津市。静岡市の中山貴裕・防災対策課長と、焼津市の小長谷宏二・危機管理課参事はともに「想定内の発表で、ほっとしている」と口をそろえた。浸水域が、ほぼ安政東海地震(1854年)並みにとどまると想定されたからだ。

 清水区では、11メートルの最大津波が襲うのは「久能海岸沿いの増(ぞう)付近」とされたが、清水港内は3〜4メートルとされた。東日本大震災後、津波対策ラインとして設定された県道駒越―富士見線を越えず、「現対策をさらに精査していく」とした。

 焼津市では、東名高速や国道150号は浸水しないとされた。ただ、旧焼津市に比べ、旧大井川町の地域で浸水域がより内陸部に広がる。小長谷参事は「防波堤の高さが旧焼津市は8メートルだが、旧大井川町は6メートルなのが影響しているのでは」とみる。市は各地に津波避難タワーを建設する計画を進めており、想定を踏まえて計画を充実させるという。

■沼津

 沼津市の最大津波は同市西浦古宇地区の10メートル。3月の発表より3.2メートル低くなった。一方で、浸水域は県の第3次被害想定の289ヘクタールから620ヘクタールに拡大した。県の被害想定で「水門等開放時」の浸水域にほぼ匹敵する広さになった。

 市は東日本大震災を受け、昨年11月に「津波避難訓練対象区域」を拡大。今回の想定浸水域を上回る約1140ヘクタールを指定し、避難訓練や津波避難ビルの整備を進めた。古谷繁・市危機管理監は「自然災害はどのような被害が出るか想定できない。最大限の地震・津波対策を粛々と進めていくことにつきる」と話す。

 津波被害に備えるため集落での高台移転を模索している同市内浦重須地区は、津波高が県の第3次被害想定の10.4メートルから9メートル程度に下がった。同地区では現在、専門家を招く勉強会を定期的に開催中。地区での意思統一を模索している。

■下田

 「下田港内の津波高は12〜15メートル」とされた下田市。3月発表の25.3メートルでは全滅だった旧町内の避難ビル13棟のうち半数程度は機能できそうといい、「明るい部分も出てきた」と峯岸勉市民課長兼防災監。

 津波は、市中心部では稲生沢川河口から約2キロ上流の本郷地区まで達する。市役所や伊豆急下田駅、下田小学校、下田メディカルセンター、消防署は浸水域に入ったが、下田幼稚園や警察署は浸水を免れそうだ。

 一方、最大津波高が33メートルとされた狼煙(のろし)崎付近は、民家などはないが、周辺地区には影響が出そうだ。海水浴場でみると、鍋田浜や多々戸浜、入田浜、吉佐美大浜では20メートル以上の津波が襲う。朝日小学校や吉佐美幼稚園が浸水域に入ったが、大賀茂保育所や大賀茂小学校は浸水を免れそうだ。

 楠山俊介市長は「市役所の高台移転は計画通り進める。津波高の平均が15メートルということで、3月の数値に比べて防災計画や災害への対応の可能性が広がった」と話した。

■減災への道筋示す

 〈解説〉千年に1度起こるかもしれない南海トラフ沿いの巨大地震と大津波。東日本大震災の多くの犠牲の上にできた被害想定は、何をしなければいけないかを教えてくれる。

 県内で想定される死者は最悪で11万人。しかし、すべての住宅を耐震化し、地震発生とともに全員が避難するなど最大限の防災対策が取れれば、2万9千人に減る。

 想定では、震度6強以上の揺れで堤防が損壊すると仮定して算出した。つまり、揺れに強く、耐震性を備えた堤防にすれば、さらに被害は抑えられる。

 正しく恐れることの大切さも示してくれている。下田市には33メートル、南伊豆町には26メートルの津波が押し寄せる。ただし、人の暮らす場所の多くは15メートル。大津波が来るまでには10〜20分の時間がある。この時間で命を守るにはどうしたらいいのか、今から具体的に考えておくことができる。

 死者数が最悪のケースとなるのは冬の深夜に地震が発生した時だ。多くの人が寝入っており、避難が遅れることを想定している。例えば懐中電灯を枕元に置く、電灯や夜光塗料などで避難路が分かるようにしておく、夜間の避難訓練を行う、など、何が必要かが分かる。早く逃げられれば、死者は3万人減るとされている。

 「被害想定」を出す目的は、被害を減らすためにどんな行動や計画が有効かを検討するためだ。どの堤防を補強すれば多くの人を救えるのか、どの地域にどのくらいの高さの津波避難ビルが必要なのかが見えてくる。限りある予算の中で、優先順位も決められる。

 全国の3分の1の死者が想定される県内から、国の防災対策へ提言していく。30年以上、東海地震に向き合ってきた防災先進県としての役割でもある。(大久保泰)

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