現在位置:
  1. 朝日新聞デジタル
  2. 足元の活断層
  3. 記事
2012年9月1日1時40分
このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

学校・県庁・新幹線・高速道路も…直下に活断層

図:活断層をめぐる主な動き活断層をめぐる主な動き

 実態の把握が難しい活断層の上には、学校や役所が立ち並ぶ。物流を支える新幹線や高速道路と交わる活断層帯もあり、いったん地面がずれ動けば被害は計り知れない。「見えないリスク」にどう対応するか。自治体は苦慮している。

【特集】足元の活断層 災害大国迫る危機

■移転や補強、自治体苦慮

 「防災に必要な施設だけでも活断層から離したほうがいい。だが、県が予算を出せないのに『移転してください』とは言えない」。静岡県危機政策課の藤田和久・危機専門監は、活断層対策が難しい現状をこう説明する。

 東海道新幹線と東名、新東名高速道路を抱える静岡県。東西の交通・物流の大動脈の下を北から南にさえぎるようにして「富士川河口断層帯」が横たわる。断層帯は富士宮市、富士市、静岡市清水区にまたがり、全長26キロ以上に及ぶ。

 国の地震調査研究推進本部(地震本部)によると、海溝型地震と連動して地震が起きた場合の規模は最大マグニチュード(M)8.0程度、発生確率は30年以内に最大18%で、ほかの断層帯より高い。地面がずれ動いて物流網が寸断されると、日本経済が深刻な打撃を受ける可能性がある。

 県は昨年、関係する自治体に断層帯の中央部に沿ってどの程度の公共施設があるか調べるよう要請。学校や消防団の詰め所、水道施設など44にのぼることが分かったが、大半が地元の自治体の管理下にあり、県の権限で動かせない。移転費用をすぐに出せるほど財政が潤沢でない現状もある。

 活断層の位置がよく分からないことも対策を難しくしている。自治体は地震本部や国土地理院が作る活断層図を参考にしているが、図に線で記された活断層の実際の幅は数十メートル。住宅や施設が活断層の真上にあるかどうかは対策を講じるうえで重要なため、県は昨年12月、活断層法をもつ米カリフォルニア州の事例を挙げ、国に詳細調査や対策方針の確立を求める要望書を出した。

 独自に動き出した自治体もある。「中央構造線断層帯」が県北部を横断する徳島県は2月、活断層周辺での学校や病院の建設時に地質調査を求め、活断層上であれば建築を禁じる条例の素案を作成。年内の条例化を目指している。強制力はないが、活断層対策で建築制限に踏み込むのは国内初とみられる。

 活断層の調査区域内に入った土地を売買する際の説明義務も盛り込んだ。県南海地震防災課の楠本正博課長は「東日本大震災で災害への意識が高まっている。条例化できるのは、今しかない」と話す。

 これに対し、徳島県鳴門市の不動産業者は「活断層のことはよく分からない。客にどう説明したらよいのか」。東日本大震災後、津波の浸水予想範囲が拡大し、浸水域の土地は売れにくくなっている。「条例化されたら、ますます売れなくならないか」と心配する。

■立地調査難しい

 活断層が抱える問題の大きさを認識しつつ、いつ起きるか分からない地震のリスクへの対応に戸惑う自治体は多い。

 朝日新聞が7〜8月に47都道府県と20政令指定都市を対象に実施したアンケートでは、60自治体が活断層による被害を「想定している」と答えた。このうち27自治体は地震本部が調査対象とする約100の「主要活断層帯」のほか、より規模が小さい活断層帯についての被害も想定している状況が明らかになった。

 活断層帯周辺に県庁、市役所、駅、学校、保育園、病院などの公共施設が「ある」と答えた自治体は19。だが、実態の調査については、全体の6割にあたる40自治体が「活断層の上にある施設の数が多すぎる」などの理由で調べていなかった。

 国土地理院の活断層図によると、都市の下を活断層が走ることは珍しくない。県庁舎の真下に活断層がある長野県は耐震や免震で対応しているが、「(地表のずれの)規模にもよるが、『耐えることができる』と言うのは難しい」。県庁が被災時は県内の合同庁舎に対策本部を設ける。2003年ごろに県本庁舎から約100メートルの距離に活断層帯があるとわかった大分県は「直下ではないので15年度までに耐震補強する」と冷静だ。

 鉄道、高速道路を横切る活断層がずれ動くと、影響は広がる。04年10月に起きた新潟県中越地震では、上越新幹線のトンネル内で線路の路盤が数十センチ盛り上がるなどしたため、越後湯沢―長岡間が2カ月以上にわたって不通になった。

 学校をめぐる対策も難しい。整備指針で「新設時に地質や地盤に十分配慮する」としている文部科学省防災推進室は、「日本では活断層を避けると場所がない。何千年に一度ずれるものより、大きな揺れに見舞われた時のことを考えて建物を造るほうが現実的」とする。

 大阪府庁や府警本部のほか、住宅やマンションも立ち並ぶ「上町断層帯」の上では、拘置所の建て替え工事が進む。断層は刑務所がある堺市にも及ぶ。

 中央防災会議の専門調査会の報告書によると、1948年の福井地震では福井刑務所が倒壊。一時釈放した受刑者のうち59人が戻らなかったとの記録もある。法務省は「活断層のデータベースを参考に最大震度でも耐えられる耐震工事をした」としている。(太田泉生、井田香奈子)

     ◇

 〈活断層法〉 活断層ゾーンの設置や土地開発時の地質調査、一定範囲内での小規模住宅以外の新規建築禁止などを定めた法律。米カリフォルニア州は1971年の地震を機に翌72年に制定した。ニュージーランド政府は2004年に活断層対策の指針を出し、危険度や建物の重要度に応じて土地利用を規制することを自治体に求めた。地中に多くの活断層が延びる日本では、こうした法令はない。

     ◇

■断層上は建築回避を

 《活断層と土地利用規制に詳しい山形大の村山良之教授(地理学)の話》 地震による振動への対策は耐震建築や補強が有効だが、活断層対策は断層上での建築を避けることしかない。ただ、市街地でカリフォルニアのような厳しい規制を導入することは難しい。規制するだけではなく、断層上の建築を避けるよう自治体が建築主と交渉したり、耐震強度の基準を強化したりするなど、幅広い選択肢を自治体に示しているニュージーランドの手法は日本でも参考になるかもしれない。

PR情報
検索フォーム

9月1日の朝日新聞デジタル朝刊にはこんな記事も…

足元の活断層

列島走る活断層

原発・電力

就活 2分で差がつく


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内事業・サービス紹介

朝日新聞社会部 公式ツイッター