065人で戦う

第1回 プロの証し

しょうがいしゃスポーツに、どれほどの価値があるのか

2014~15年シーズン、欧州チャンピオンズリーグ、ドイツリーグ、ドイツ杯の3冠を達成したドイツ車いすバスケットボールリーグ1部ブンデスリーガの人気チーム「ラン・ディル」の実績は、一つの指標になる。

トップ選手の月収3000ユーロ(約37万円)
年間予算70万ユーロ(約8600万円)
ホーム試合平均入場者数1100人
ホーム試合最多入場者数3900人
スポンサー数125

ビジネスとして

世界のプロスポーツのトップリーグにはまだ及ばない数字ではある。とはいえ、8ユーロの有料チケットを買ってしょうがいしゃスポーツ選手のプレーを見に行くことを楽しみにする人が増えている。リーグ戦がビジネスとして成り立つという、以前は考えられなかったことが実現しつつある。 今年2月のラン・ディルのホーム試合では、選手は、ビール会社の広告でもあるゲートをくぐって入場してきた。スポットライト、音楽、派手なアナウンスによる演出。サポーター集団は太鼓やチアホーンを鳴らして騒ぎ、チアリーダーやマスコットキャラクターも観客を楽しませた。

(左から)ふじもとれお、こうざいひろあき、ちわきちわきみつぐ

3人の挑戦

このしょうがいしゃスポーツの可能性を切り開くブンデスリーガで、3人の日本人選手もプレーしている。 こうざいひろあき27歳ふじもとれお32歳ちわきちわきみつぐ34歳。3人が所属するのは「BGハンブルク」。ドイツ北部の商業都市ハンブルクを本拠地とし、サッカーの元日本代表のたかはら なおひろが所属したスポーツクラブ「ハンブルガーSV」の車いすバスケットボールチームだ。 こうざいは3季目、ふじもとは2季目、ちわきは1季目のシーズンを終えた。中でもハンブルクの年俸と日本のスポンサー企業との契約金だけで生活する純粋なプロ選手のこうざいは、サッカーに例えるなら77年から旧西ドイツの名門1FCケルンなどで9年間活躍した奥寺康彦か、三浦知良か中田英寿といったところだろう。

ブンデスリーガでプレーする日本人選手たち

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クラスを超えて

車いすバスケは、しょうがいの重い選手も出られるように持ち点という制度がある。ひざ下切断など、足の筋力も十分に残っている選手の持ち点は4.5点。下半身に力が入らない、腹筋や背筋に力が入らないなど、重くなると0.5点ずつ持ち点が減り、腹筋と背筋の力がほとんど力が入らない選手の1.0点まである。 しょうがいの軽い選手ほど車いすを足やたいかんの力を使って制御でき、上体を倒したり起こしたりできるため、有利になる。だが、コート上の選手の持ち点の合計は14点以内でなければならない。そのため、持ち点の少ないしょうがいのより重い選手が、軽い選手とどれだけ渡り合うかということも勝敗のカギを握る。

車いすバスケのルール解説の動画

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こうざいひろあき

こうざいは、しょうがいの重さは中程度。腹筋や背筋はあるが、生まれつき両足がないため、3.5点という持ち点になる。何でもこなせるオールラウンダーで、俊敏性があり、ボールを運んで試合を組み立て、決定的なパスで得点を演出する。自らの得点力もあり、3点シュートも得意。守備では、大きな選手にパワー負けせず、相手の進路を妨害してゴールから遠ざける。 今季のブンデスリーガ1部では、リーグ15位の220得点。3点シュートの成功13本はリーグ5位。アシスト数72はリーグ9位だった。 世界トップクラスの選手が集まるリーグでプレーし、一つひとつのプレーが進化している。こうざいは「結果を出さないと、試合に出られないという環境がそうさせている」。ブンデスリーガ1シーズン目だった3季前はチーム内競争が激しいとは言えず、40分間の試合にほぼ出ずっぱりだった。今季は、1試合の出場時間が20分前後になり、「一つひとつのプレーを大切にしている」。40分だと、どうしてもペース配分をしてしまう。今は、「もっと長く出たい」という思いが、プレーの質を高める要因になっている。

こうざいひろあき

ふじもとれお

ポイントゲッターのふじもとは、ひざ下切断。しょうがいが最も軽い部類の選手で、持ち点は4.5点。足の筋肉があり、片側の車輪を持ち上げて高いボールに手を伸ばすこともできる。最高到達点は、2.3メートルになる。 「得点が自分の重大な使命。そこを伸ばせれば、日本が苦しい状況でもふじもとに渡せば確実に点を決め、リズムは崩れないという信頼を得られる。日本の軸となるシューターとして成長していきたい」。今季はこうざいよりも多いリーグ13位の243得点を積み重ねた。ディフェンスリバウンド95はリーグ8位。スチール13は10位タイだった。 環境や自分の調子が悪かろうが、シュートを決めることにこだわっている。ブンデスリーガには、忍耐力を磨く最高の環境がある。ホーム・アンド・アウェーを戦うリーグ戦で、片道6時間かけてアウェーのナイトゲームを戦い、試合終了後にバスに飛び乗って午前4時に帰宅。その11時間後にホームでの試合に臨むというハードスケジュールも体験した。 「日本でプレーしただけじゃ得られない経験。そういう状況で、高いパフォーマンスを見に来てくれるお客さんに見せていくプロ意識が養われる。やっぱり勝つところを見に来ているし、『しょうがいしゃが頑張っている』という(同情的な)見方はしていない。勝つか負けるかや、スーパープレーを楽しみにしているお客さんたち。次のシーズンもチームに呼ばれるためのパフォーマンスも見せていかないといけない。その辺りは厳しい」

ふじもとれお

ちわきちわきみつぐ

しょうがいが重く、2.5点のちわきは、体の大きさを生かし、守備で相手選手をゴール下に近づかせないことが大切な仕事になる。「まだ、速い選手を止めきれない。日本では何となくできてしまった部分があるが、こっちではできない」とブンデスリーガの選手のレベルの高さを口にし、守備の課題を強く意識していた。個々のレベルを上げる以上に大切だと改めてわかったのは、チームプレーに磨きをかけることだ。「バスケットは1たい1でやるものではない。自分の弱い部分を助けてもらいながら、他のみんなができない所を自分が助けたい」

還元する

日本代表男子は、パラリンピックでも世界選手権でも7位が過去最高だ。リオパラリンピックで6位入賞を目標としている日本にとって、中心選手3人の海外での挑戦は、日本代表のレベルアップに直結する。3人とも同じチームでプレーし、強い相手と競り合いながら磨かれた連係プレーをそのまま代表に持ち込むことができる。 高度な戦術が要求される車いすバスケ。相手や味方の動きを読み、一瞬で最善の判断をしなければ勝てない。自分たちより強い相手としのぎを削りながら、味方との連係プレーを成功させようとする経験は日本では得がたい。日本では、3人とも別のチームに所属しているから、なおさらだ。

「自分たち(ハンブルク)は、機動力で戦う。オフェンスとディフェンスの切り替えを速くして、高い位置で守っていく。戦うためのコンセプトは(日本代表と)似ている。代表でも主力の3人がここで自分たちのカラーをどう表現するか。日本代表のほうに還元できる」とふじもとは言う。 体格や体力で海外の強豪に劣る日本。リオデジャネイロパラリンピックでは、戦術と連係を成熟させることが、上位進出のカギになる。ごとう たいすけ

=敬称略