第4回 個として集う

車いすバスケットボール男子の日本代表は、リオデジャネイロ・パラリンピックで二つのことにチャレンジする。 一つは、記録の上でのチャレンジ。過去最高の6位を目指すことだ。もう一つは、より高いレベルを目指す上で必要な心構えを育てるチャレンジ。「デシジョン・メイキング(意思決定)」ができ、自立した選手の集団になることを掲げている。

アジア・オセアニア選手権の3位決定戦で韓国に勝ち、リオ・パラリンピック出場を決めて涙ぐむ藤本れお選手(右)とつちこ だいすけ選手=2015年10月

「世界の中で取り残されている」 おいかわしんぺいヘッドコーチは今年5月、東京都内であったリオ大会の日本代表選手の発表会見でこう口にした。パラリンピックの花形競技で、メディア露出もスポンサーも急増してきていた。そのことに感謝しつつ、リップサービスはせずに現実を見据えた。 これまでの日本男子はパラリンピック11大会に出場。1988年ソウル大会と08年北京大会の7位が最高だ。4年前のロンドン大会では、12カ国中9位に沈んだ。このことをふまえれば、6位も簡単ではない。ただ、上位チームは、どこも勝ったり負けたりする団子状態だ。6位に入る実力をつけることは、メダル争いに加わることを意味する。

車いすバスケ日本チーム リオへ

判断する意思

及川ヘッドコーチは、選手時代に北米でプレー。カナダ人のマイク・フログリーコーチに師事した。フログリーコーチは、シドニー、アテネで、カナダ代表を2大会連続で金メダルに導き、世界のトッププレーヤーを指導した経験を持つ。 多様なバスケットを学んだ経験を買われ、及川は4年前のロンドン大会で日本代表のアシスタントコーチに就任。世界で主流の戦術を導入した。それが、攻めに転じたときに、守りに戻ろうとする相手の進路を妨害して、短時間でも数的優位を作るバックピックだ。

アジア・オセアニア選手権の3位決定戦で韓国に勝ち、リオ・パラリンピック出場を決めて抱き合うおいかわしんぺい監督(右)とこうざいひろあき選手=2015年10月

「選手がデシジョン・メイキングできるコーチングをしてきた。選手が自分たちで学んで自ら試合を操っていくようになると、ぐっとチーム力が上がる」。及川ヘッドコーチはそう話す。 選手がミスをしたとき、判断を迷ったとき、「こうだ」とは指示しない。まず「どうすればいいのか?」と問いかけ、選手自身が選択肢を生み出すことを促す。教えるときも「A、B、Cという選択肢がある」と、複数の選択肢を示すようにしている。 フィールド上で自由に動き、敵味方が入り乱れて戦う団体スポーツでは、選手自身の判断力と決断力がチーム力を高めるカギを握る。コート上で起きていて、刻々と変わることに対して、コーチが全てを指示できない。選手自身が瞬時に状況を判断してプレーを選ばなければ、世界各国が競い合ってレベルが高まっているチームスポーツで勝つことは難しい。

日本人の壁

個の自立は、日本人にとって苦手な分野だ。日本の教育が、集団行動や習ったことを再現することに重きを置いてきたからか。スポーツでも、指示に反しないように無難なプレーをする選手が目立つと、多くの指導者が口にする。 サッカーの日本代表でも、ハリルホジッチ監督が「選手の意見が欲しい。積極性、野心を持って欲しい」と選手に求め続けている。イングランド1部のプレミアリーグで初優勝して世界を驚かせたレスターのFW岡崎慎司も「型にはまったプレーでは勝てない。一人ひとりが本来持っている力を出しきり、それが共鳴したとき、チームの力になる」。チームプレーは必要だが、周りに合わせすぎると、個人の力が十分発揮できず、結果的にチーム力を落としてしまうということに気づいたという。

リオデジャネイロ・パラリンピック代表に内定した選手たち=2016年5月22日午後8時、東京都港区、恵原弘太郎撮影

しょうがいがあっても高い意欲と自立心を持って生きてきた車椅子バスケットボールのアスリートが、日本の教育やスポーツ指導が抱える課題を乗り越えられるか。日本代表の主将を務めるふじもと れおは「今までで一番強い日本代表になる。自信がある。結果を見せる年だ」。強い自信を持って、9月7日に開幕するリオデジャネイロ・パラリンピックに臨む。ごとう たいすけ

=敬称略