広島市と栃木県今市市で下校中の小学生が殺害された事件で、通学の安全のためにスクールバスの導入を求める声が強まっている。スクールバスは本来、過疎地の遠距離通学用。徒歩圏内の通学者向けにはバスの購入補助は国から出ない。しかし、自主財源を投じて実現した市や福祉バスと併用する工夫で壁を乗り越えた自治体もある。
文部科学省によると、スクールバスは昨年5月現在、全国の954市町村で3333台が導入されている。大半は、学校の統廃合などに伴って長距離通学をすることになった子どもの足を確保するためだ。バスの購入費は、定員数にもよるが1台500万円前後という。
バス1台を新規購入する場合、国庫補助(2分の1)は304万円を上限にしている。しかし、へき地校の指定や、公共交通機関の路線廃止などの厳しい要件がある。市街地の学校でバスを購入するには、自治体の自主財源を使うほかに手はない。文科省幹部は「国の補助金が削減されていく中で、安全のためのバスで新たな補助事業を設けるのは難しい」と話す。多くの自治体も、多額の経費がかかるため消極的だ。
■新潟・加茂市
そうした中、新潟県加茂市は子どもの安全のために、この春からスクールバスを15台から24台に増やした。
前夜からの雪で一面銀世界となった16日午前8時前。加茂南小学校から約3キロ離れた猿毛地区の児童が、ほおを赤くして元気に乗り込んできた。昨年度まで歩いて通ったという5年生の男児(10)は、「バスは楽。寄り道ができなくなったのはちょっとつまらないけど」。
小池清彦市長(68)は「下校時は安全面で手薄になりがちだし、家がない所もあって十分ではない」とバス通学の範囲を広げた理由を語る。
昨年の奈良市で起きた女児殺害事件を機に、今春から、人通りが少ない所もバスを走らせることにした。利用者は約800人に倍増。市内全小中学生の3割が利用する。バスの購入費は国庫補助の対象外で自治体負担になる。1台あたりの年間維持費は人件費や燃料費などによって異なるが、加茂市の場合は約620万円。うち約580万円は地方交付税でまかなえると、市は説明している。
■兵庫・旧養父町
限られた自治体財政の中で、安全と福祉の「一石二鳥」を実現した取り組みもある。
兵庫県中部の旧養父(やぶ)町(現・養父市)は02年4月に、新田保次・大阪大学大学院教授(都市・地域計画)と提携し、小学校のスクールバス2台と福祉バス1台の統合を実現した。統合前は福祉バスの利用者が振るわず、スクールバスと両方の運行が人口約9000人の町財政を圧迫していた。
新田教授が提案したのは、登下校時も含めてお年寄りたちが子どもに交じってバスを利用する仕組みだった。
統合で、バスは3台とも通学・福祉兼用に。従来、福祉バスとしては週原則6往復だったのが統合後は3台で週18往復に改善された。平日は毎日運行になり、徒歩圏内でスクールバスが来なかった集落の児童も子ども料金を支払えば通学の足に使えるようになった。
中米地(なかめいじ)地区に住む小2の宮本喬君(7)はこのバスで帰宅する。学校から山道を約2キロ、歩けば30分ほどかかる。中1の姉、万由美さん(12)が小学生時代に「通学路が暗いので、バスを利用した方がいい」と学校長から勧められたのがきっかけだった。祖母の信子さん(79)は「怖い事件ばかりなので、本当にありがたいです」。
新田教授は「停留所で待つ間も大人が一緒。地域の人たちが子どもの顔を覚えることも防犯効果がある」と話す。純粋にかかる経費を国の補助などを考えずに試算すると、年間2160万円の維持費が統合で約130万円節約できたことになるという。
「都市部で福祉バスを走らせているところは多い。スクールバス機能を持たせることは十分可能だ」