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自制心育み、再犯断て(子どもを守る 性犯罪から:1)

2006年03月12日11時25分

 性犯罪サイクル表という新聞サイズの紙。そこに自分の感情の起伏や行動が円状にびっしりと書き込まれている。

 「児童ポルノで刺激を得て自暴自棄になる。酒を飲み、妄想が膨らむ」「漠然とわいせつ目的の殺害を計画。凶器、ロープ、粘着テープを購入」「3日目、1人の児童を発見し、実行。騒がれて断念。自首。逮捕されてよかったと思う」

 児童への強制わいせつ未遂で起訴された40代の男性が、2年前に性犯罪専門家の助けを借りて書いた。小さく折りたたみ、いつも持ち歩く。

 10代前半から、子どもにわいせつ行為を繰り返し、数年前に逮捕された。サイクル表作製はそれがきっかけになった。

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 社会復帰したあと、月1回、行動記録を保護司へ届けた。それでも再犯の不安は消えなかった。弁護士から読むように勧められた資料の中に大阪大学大学院の藤岡淳子教授の論文があり、実際に訪ねた。当時、首都圏の少年院で性犯罪の矯正指導にあたっていた。

 欧米などの刑務所で導入されている「認知行動療法」と呼ばれる性犯罪再犯予防プログラムを紹介された。

 性犯罪者自身に感情や行動を詳細に分析させ、図式化させる。それによって思い込みなどのゆがみに気づかせ、どんな経過で性犯罪を起こすかを理解させる。そして、それを断ち切ってもらう。

 「被害者への贖罪(しょくざい)、共感を育てることも、再犯を抑制するポイントになる」と藤岡教授は話す。

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 法務省は、「性犯罪者処遇プログラム」をこの4月から始める。これまで一部の刑務所が独自で取り組んできた対策を統一する。男性が実践中の認知行動療法がプログラムの軸になる。刑務所での取り組みでいかに再犯を防ぐか。この療法をすでに実践するカナダは、性犯罪者の再犯率を低下させている。

 しかし、課題も残る。法務省の同プログラム研究会のメンバーで東京武蔵野病院の針間克己医師が指摘する。

 「中レベルの性犯罪者にはこの療法は効果があるが、それ以上には限りがあるというデータもある。しかし、現状では満期が来れば刑務所から出さざるを得ない」

 そのような受刑者に対し、(1)薬物治療を実施する(2)米国のメーガン法のように、性犯罪の前科者の現住所や顔写真を地域に情報公開する(3)法を改正し、効果が確認できるまで刑期を延ばす――などの対応が考えられるが、実施には慎重な議論が必要という。

 「性暴力被害の心の傷と回復」というインターネットサイトを運営する高野茉莉子さんは小1のとき、性暴力の被害を受けた。性犯罪者は許せないが、「社会に出す前に再犯防止の治療を徹底してほしい」と話す。

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 サイクル表を持ち、プログラムに取り組んでいる男性は「まだ途上で苦しい時もあるが、だんだんと感情や行動をコントロールできるようになってきた」と話す。

 一部の被害者には謝罪したうえ、ふだんから通学路など子どものいる場所を避けている。再犯防止のため、今もカウンセリングを受けながら、小児性愛などに悩む仲間と自助グループをつくり、活動している。

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 子どもを性の対象とした暴力が後を絶たない。警察庁によると、20歳未満に対する強姦(ごうかん)、強制わいせつの認知件数は05年で5846件。96年(3130件)と比べると、87%増えた。13歳未満の子どもへの暴力的性犯罪は1484件に上る。04年、子どもを狙い、検挙された性犯罪者は466人。4人に1人は性犯罪の前歴があった。

 〈キーワード:性犯罪者処遇プログラム〉 法務省が、特性などを調査し、性犯罪による受刑者約500人と、仮釈放中および保護観察つき執行猶予中の約1200人を対象者として選ぶ。必要なプログラムを判定した上で、受講内容や期間などの計画を立てる。犯行までの行動を自己分析させる「性犯罪プロセス」「認知のゆがみ」「被害者への共感」など5科目がある。期間は3〜16カ月、1回100分の講座を週1〜2回実施する。

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