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抑制ホルモンの投与も 先進地カナダ(子どもを守る 性犯罪から:2)

2006年03月13日14時57分

 子どもへの性犯罪を防止するプログラムを日本よりも先に本格的に進めてきたカナダでは――。

 首都オタワから西へ約300キロのワークワース刑務所。性犯罪で服役する者が10〜12人程度のグループをつくり、再犯防止プログラムに取り組んでいた。

 まず「自伝」を書く。なぜ自分が性犯罪で刑務所にいるのか、自分の過ちとは何か、見つめ直す。そして、グループ内で発表する。

 本人がどんな状況で性的興奮を覚えるのか、個別にビデオなどを使い、分析する。興奮した状態から犯罪行動に移らないようにすることを学ぶ。

 「『治療』とはとらえていない。受刑者に自分の抱える危険性を意識させ、自己管理する能力を身につけさせる。それが社会の危機管理にもつながる」。連邦矯正局でプログラム担当の副責任者、ブルース・マルコム博士はそう話す。

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 なかでも、被害者の身になって考える項目が自己管理への力を発揮する、と現場の責任者は話す。被害者の声を集めた資料を読む。出すことのない手紙を被害者あてに書く。グループの中で被害者役を決め、手紙を読んで被害者がどう感じるかを話し合う。「被害者の気持ちについて初めて考えた」。そう感想を書き残す受刑者が多い。

 プログラムは月曜から金曜まで週5日、午前中に実施され、平均4カ月半、続く。仮釈放の条件なので希望者は多い。同刑務所でプログラムの待機リストは60人近い。

 それでも効果がないと、別の方法がある。

 男性ホルモンのテストステロンの分泌が多く暴力的傾向が収まらない場合、本人の了解を得て抑制ホルモンを投与する。2年以上の刑に服す性犯罪による受刑者の10%程度が対象になっている。

 一時期は、攻撃的な傾向が改善されない受刑者には、視覚で性的興奮を起こさせ、同時に嫌悪感を催すアンモニア臭の刺激を与え、興奮が起きないように覚えさせていた。米国で始められた措置だ。しかし、プログラムの効果が出てこない受刑者にはこの措置も効果がないということがわかり、中止された。

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 カナダで04年、報告された性犯罪は約2万6000件。10年前に比べ9000件近く減った。00年の政府調査では、性暴力の被害者のうち2割が12歳未満の子どもだった。単純比較はできないが、件数は日本よりも多い。

 連邦矯正局の性犯罪者社会復帰プログラムの責任者パメラ・イェーツ博士は「プログラムは刑務所でおしまい、ではなく、フォローアップも大切だ」と強調する。

 トロント市から車で南西に1時間程度のハミルトン市。94年、子どもに繰り返し性的暴力をふるって収監された男性が刑期を満了して釈放された。警察がそれを通知すると、男性の家を地域住民が監視するなど、反対運動が起きた。

 しかし、食事の世話や悩みを聞くなどして、排除せずにグループに取り込むことで、逆に地域を安全にする試みが地元の教会メンバーを中心に始まった。

 サークル・オブ・サポート・アンド・アカウンタビリティー。この運動はやがてカナダ都市部に広がり、組織は60にもなったという。英国などにも組織ができた。

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 それから12年。ハミルトン市の元性犯罪者は再犯していないという。

 カナダ政府の3万人の追跡調査では、釈放して5年後の再犯率はプログラムを実施しない場合の14%に比べ、実施した場合は約9%に減った。

 〈キーワード:米とカナダの性犯罪対応〉 子どもが被害者となる凶悪な事件をきっかけに、両国とも80年代後半から性犯罪への対応を強化した。カナダは性犯罪者の更生、社会復帰プログラムに力を注ぐ。刑務所に1人を収監する費用は年間約870万円。仮釈放後、監督する費用は年間約200万円になる。米国は性犯罪の重罰化、出所後の監視強化によって社会を守ろうと動く。カナダも今年、保守政権が誕生し、厳罰化の動きが出ている。

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