「紙と電子のコンビネーションで市場を広げたい」と話すCHIグループと丸善の小城武彦社長=東京都品川区
丸善の小城武彦社長(49)は通商産業省(現経済産業省)出身だ。1997年に退官。04年、産業再生機構から派遣されて経営再建中のカネボウ社長に就いた。07年4月に丸善社長。今年2月からは図書館流通センターとの共同持ち株会社「CHIグループ」社長、8月に設立された丸善書店では会長を務める。
書店の世界に入り、変えるべきだと強く感じてきたのが委託販売制。出版取次を経て書籍を仕入れ、売れ残れば仕入れ値で返品できるというシステムだ。
「マーケティングが通用しないやり方。出版文化を育ててきたことは確かだが、人口減少期に入った今、この方法ではだめだ」。まず、書店員に売り切る力を付けるよう求める。
「松丸本舗ができると聞いた時、社長から従業員に対する挑戦状だと思った」。7月に開かれた東京国際ブックフェアの特別講演で、丸善お茶の水店店長は語った。
松丸本舗は昨年10月、丸善丸の内本店にできた。著者やジャンル別の陳列ではなく、書評サイト「千夜千冊」の著者、松岡正剛さん(66)による独創的な選書と陳列で注目を集める。
「確かに松丸本舗は書店員に対する挑戦状。現状は活字離れではなく書籍離れ。欲しいと思ったところに本がない」と小城社長。
電子書籍は出版市場全体を広げるチャンスで、そのためには、親会社の大日本印刷との連携は欠かせないと言う。「紙を刷ってきた印刷会社にはデータがあり、不可欠な存在。書店は細分化されすぎていて企業体力がなく、紙と電子の相乗効果を高めるためにも連携が必要だった」とし、「書店が生き残れることを行動で示す。eコマースの注文ができたり、欲しい本がなければ先にダウンロードしてもらい、後で本を送ったりできる。個別注文に応じるプリント・オン・デマンドも活用したい」と話す。
電子書籍を客足にどうつなげるか。約600店が加盟する東京都書店商業組合は08年10月から電子書籍販売サイト「Booker’s」(ブッカーズ)を運営。文芸書やコミックなど約4万1千点をそろえ、iPad向けの電子雑誌も配信している。
サイト内で企画した特集を店頭でも展開するなど工夫。書店に置いた端末から本の一部を携帯電話にダウンロードし、試し読みできるようにしたり、購入したりできる試みも行った。同組合の小橋琢己常務理事(49)は「書店に人を呼び込むため、書店でも電子書籍を販売できる新たな仕組みを作っていきたい」と話す。(坂田達郎)