現在位置:
  1. asahi.com
  2. ニュース
  3. 特集
  4. メディア激変
  5. 記事

〈メディア激変119〉課金、海外の挑戦―1 「マードックの実験」の行方

2010年10月1日17時32分

印刷

ソーシャルブックマーク このエントリをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

写真ワシントンで4月、「ジャーナリズムの将来」について話すルパート・マードック氏=ロイター

 「マードックの実験」。英国の高級紙タイムズと日曜発行の姉妹紙サンデー・タイムズが電子版を全面有料化したことは、そう呼ばれる。

 ルパート・マードック氏はオーストラリア出身の79歳。世界のテレビ、新聞業界で経営のすご腕をふるってきた「メディア王」だ。18世紀に創刊され、伝統を誇るタイムズは、経営難に陥り、1981年にマードック氏の傘下に入った。だが部数はこの1年で1割減り、50万部を切った。広告の落ちこみも甚だしい。

 ネットのニュースは無料という世間の常識に挑まなくては、生き残れない。マードック氏は「質の高いジャーナリズムには金がかかる」と課金制導入に踏み切った。だが一部の経済紙を除けば軌道に乗った例は乏しい。タイムズのダニエル・フィンケルシュタイン編集主幹は「我々の優れた分析やコラムニストを信頼する読者はついてきてくれる」と社内を鼓舞した。

 購読料は1日なら新聞と同じ1ポンド(約133円)。1週間なら2ポンド。6月の「無料お試しキャンペーン」を経て、7月から本格的な課金徴収が始まった。

 ロンドンの法律事務所に勤めるケネス・ウォン氏(29)は香港生まれ。5年前に英国に移り住む前からタイムズ電子版の愛読者だ。「世界的に有名だし、判決などを解説した木曜の『司法のページ』が充実していて仕事に役立つ」

 でも課金に応じる気にはならなかった。「ニュースだけなら、携帯のiPhone(アイフォーン)でほかの無料サイトをのぞけばすむ」。ただ、司法のページだけは読みたい。毎週木曜は、通勤途中に自宅近くの売店でタイムズを買う。印刷された紙面のレイアウトの読みやすさには、「1ポンドの価値がある」と思う。

 タイムズ電子版は無料のころ、1日約120万人を集めていた。課金後のデータは公表されていない。タイムズの元メディア担当部長で社内事情に詳しいジャーナリストのダン・サバフ氏は、「課金に応じた読者は1万5千人」とブログに記した。広告業界には「本当にそんなに減れば、広告主が離れる」との見方もある。

 ライバル紙ガーディアンも電子版充実に力を注ぐが、有料化は考えていない。「多くの読者とつながることがジャーナリズムの基本。課金の壁で少数の読者を囲い込むより大切」とイアン・カッツ編集局次長。とはいえ経営の苦しさはタイムズと同じ。解決の処方箋(せん)がはっきり見えているわけでもない。(ロンドン=橋本聡)

PR情報
検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内事業・サービス紹介