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〈メディア激変137〉韓国から―15 地域からの発信、世界へ

2010年10月22日17時57分

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写真「理事長」の肩書が不似合いなほどに気さくな鄭秀敬さん=韓国・大邱市の城西コミュニティーFM、隈元写す

 韓国南部の大邱(テグ)市に、ちっぽけなラジオ局がある。城西(ソンソ)コミュニティーFM。電波の出力は1ワットで、半径5キロにも届かない。だが、この地域でとても大きな存在だ。

 理事長の鄭秀敬(チョン・スギョン)さん(45)の名刺に「移住労働者と地域住民の自治放送」とある。周辺は工業団地で、労働者5万人の1割は外国人。困りごともあろうし、娯楽も少ないだろう。鄭さんたちがそう思っていたところに、政府がコミュニティーFMを進める話が飛び込んできた。

 「やる?」「やろうか」。未婚女性4人の20分の会議で決まった。労働団体で映像を担当していた鄭さんは「メディアと市民の出会いをどうつくるかに関心があった」とも言う。

 開局は05年8月。費用の1億5千万ウォン(約1130万円)は国の放送委員会から6千万ウォン支援を受け、残りは市民の募金でまかなった。ボランティア60人が番組を作り、DJもこなす。夜の2時間は外国人向けで、曜日ごとにモンゴル、中国、インドネシア、バングラデシュ、パキスタン、ネパール。各国の労働者が母国語で話をし、ニュースや音楽も母国語だ。

 番組はネットでも流す。「祖国の家族や帰国者が聴いてくれる。ネット環境が悪くて動画は無理な国もラジオなら国境はありません」と鄭さん。外国人が韓国語で話す番組もある。

 地域住民に話を聞く番組でこんなこともあった。放送を録音したCDを自宅に届けると、出演したおじいさんは急逝していた。おばあさんは足が悪く、四つんばいで食膳(しょくぜん)を押してくるのが常だった。「その姿が一番きれいだった」。無口だった夫がラジオで最期に語った思い。おばあさんは何度も聴き直しているという。

 「音声の力は映像よりすごい。経営は大変だけど、やめられない」と鄭さんは笑う。出力1ワットでは広告はとれないから、自治体の支援や市民の寄付が頼りだ。

 大邱でもう一つ、訪れたい所があった。大邱映像メディアセンター。07年4月、国と市が10億ウォンずつ出して設立され、市民に撮影法などを教え、作った番組を流す場も提供する。

 韓国は市民が作った番組の放送をKBSに義務づけるなど、市民参加に熱心だ。このセンターでも事務局長の李忠熙(イ・チュンヒ)さん(41)によれば、市民が作った番組が地元のCATVで年間20本以上放送され、そのつど国から支援金が出る。

 李さんは言う。「新しいメディアが次々に出てくる中で、生産者と消費者が別だった時代は終わり、市民が作る側に転じ、発信する時代になりました」。近く3D専門の講座も始めるそうだ。(編集委員・隈元信一)

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