「図書館総合展」のセレモニーに出席した国立国会図書館の長尾真館長(左端)=昨年11月、横浜市西区、坂田写す
国立国会図書館の長尾真館長(74)は情報工学の専門家で、「電子図書館」などの著書がある。京都大総長などを歴任し、2007年、官僚OB以外で初めて館長に就いた。
翌年、電子化した蔵書を有料で公開し、ダウンロードして借りられるようにする私案を明らかにした。「長尾構想」と呼ばれる。
最寄りの図書館へ行く交通費程度で――という内容だったため、出版社を中心に「民業圧迫だ」と反発も起きた。関係者は「出版社の利益を損なわず、図書館の無料原則にも反しない方法という趣旨だったが、50円から数百円まで金額が独り歩きした」と話す。
昨秋、横浜市であった「図書館総合展」で、長尾館長はあらためて考え方を説明した。
出版社は本を国会図書館のデータベースに預ける。同館は電子化された本を電子出版物流通センター(仮称)に無料で貸し、利用者はセンターを通して買ったり、借りたりできる。センターは非営利団体が基本で、いくつあってもいい。出版社が集まってセンターを作り、自ら設定した利用料を著者や出版社で分配する――。
長尾館長は「ベストと主張するつもりはない。いろんな可能性を追求する時代だ」とし、「国会図書館は文化活動のすべてを何百年と保存し、提供する任務がある」と話した。
構想の背景にはグーグルのビジネスモデルがある。本の電子化を進め、検索して一部を無料閲覧できるサービスや、全文を販売するビジネスを展開する。日本の書籍の電子化を一私企業に委ねることへの懸念だ。長尾館長は「電子出版物流通センターは、組織を維持できるコスト以外は出版社に渡すモデル」と話した。
現在、全国で電子書籍を貸し出す図書館はほとんどない。長尾館長は、公共図書館で電子書籍を利用する場合、公共図書館か、公的な機関が出版社などにお金を払えば、国会図書館から公共図書館に電子書籍を渡し、活用してもらうことはあり得ると述べた。
国会図書館は2〜3月、全文テキスト検索の実験をする。明治〜昭和の蔵書約2万冊の画像データと、出版社などの新しいデータを一緒に検索するための課題を検証。出版社などがこれまでに約400冊分のデータを提供した。
出版社や著者には、全文テキスト検索は将来の配信につながるという警戒感もある。国会図書館の田中久徳企画課長は「テキスト検索は電子書籍の利用にメリットは大きいが、検索の結果、紙の本で利用したいと考える人も多いはず。検索の必要性については出版社などの理解は進んできた」と話す。(坂田達郎)