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世界に広がる仮想歌姫「初音ミク」 新進クリエーターに迫る

2009年3月21日2時21分

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写真バーチャル歌姫・初音ミクの素顔に迫る=Tripshots提供

 まるで人のように歌うパソコンソフト「初音ミク」が、現実の音楽業界に進出し始めた。ソニーが4日発売したアルバムは、いきなりオリコン週間チャートで4位に。ビクターが昨夏出したCD「リ・パッケージ」も10万枚近いヒットを記録した。朝日新聞のニュースサイト「アサヒ・コム」と連動し、「電子の歌姫」の実像を追う。(丹治吉順、竹原大祐)


【YouTube「Channel ASAHI」で「世界に広がる初音ミク」動画を公開中】

■無数の人々が集う創作の小宇宙

 「聞いて鳥肌が立った。演奏はもちろんだが、歌詞が本当にすばらしい」

 ソニー・ミュージックの清水一光エグゼクティブ・プロデューサー(57)はいう。4日発売のアルバム「supercell(スーパーセル)」の収録曲「メルト」を初めて聞いた時の感想だ。東京パフォーマンスドールをマネジメントし、篠原涼子さんらのソロ活動なども統括、レーベル「ネオサイト」を立ち上げてライムスターらを育てた。

 「思い切って前髪を切った/『どうしたの?』って聞かれたくて」という「メルト」の歌詞に、「16歳の女の子の何げない可愛らしさを、こんなふうにさらりと書くのは本当に難しい。多くのアーティストと仕事をしたが、みな詞で苦労していた。こんな才能がネットから現れるのは、今の時代らしくて楽しい」。

 「メルト」の作者ryoさんは07年秋、パソコンソフト売り場で、「初音ミク」を手にした。ヤマハの音声合成技術「ボーカロイド2」をもとに音響ソフト会社クリプトン・フューチャー・メディア(札幌市)が制作。16歳の少女という設定で、音程と詞を入力すると、その通り歌う。

 すでに動画投稿サイト「ニコニコ動画」では、初音ミクを使った曲が人気だった。ニコニコ動画は視聴者が画面上にコメントを字幕風に書き込め、作品の反響が手に取るようにわかる。

 「楽しそうだったので、何となくカバー曲を歌わせるうち、まじめに曲を作りたくなった」とryoさん。自作の投稿を始め、2曲目「メルト」を同年12月に発表。みずみずしい詞と旋律、圧倒的な演奏が注目され、約400万回も再生された。

 小学生でピアノを始め、高校1年から作曲も学ぶ。「メルト」発表後に曲の依頼が増え、複数のレーベルに誘われたが、「意見を一番尊重してくれた」ソニーに。「初音ミクは(オタク向けなどと)色物扱いされやすい。ちゃんとした音楽が作れることを示したかった」。タレントの中川翔子さんに曲を提供することも決まった。

 ネットでアルバムを予約した人の男女比は55対45。「ネット系商品は男性9割以上というのも珍しくないが、女性の支持が大変強い」と清水さん。

 津久井箇人(かずひと)さん(26)は愛内里菜さんらに曲を提供する作曲家。「そそそP」の名でボーカロイド曲を発表している。音楽市場が低迷する中、活動のあり方を模索していたころ、初音ミクとニコニコ動画を知った。従来の音楽制作の現場では、作曲家と聴き手の間に何人も人が入り、受け手との距離を感じることが多かった。「ニコニコ動画は出来た作品の感想をすぐに聞ける。こんなライブ感は今まで味わえなかった」

 距離が縮まったのは国内だけではない。クリプトン社は昨年末、音楽配信サービスiTunesストア(iTS)で、ボーカロイド作品の配信を開始。津久井さんのアルバム「NEXT(ver.i)」は第1弾として22カ国に配信された。「アメリカのiTSで英語の感想が書き込まれているのをみると、可能性の大きさを感じます」

■広がる仲間の輪

 東海地方の映像プロダクション勤務のTripshotsさんは、初音ミクで作った曲をもとに、約5カ月間、プライベートの時間の大半を充ててCG動画「Nebula(ネビュラ)」を制作。抜群の完成度でたちまち20万回の再生を記録した。「仕事で作る映像は顧客第一。やりたいことや表現したいものは自分の時間で実現するしかなかった」と語る。

 「ニコニコ動画ではプロの肩書は関係なく、作品の出来がすべて。期待してくれる人の声が励みになります」。07年秋に作品づくりを始め、「本業では絶対出会えない人とたくさん知り合えた」と喜ぶ。

 実際、このムーブメントを支えるのは、一握りの「スター」ではない。作品に魅了された人々がネット上に集まり、個々の技術や能力を生かして支え合う広大なすそ野を形作っている。

 作り手やファン約7千人が集まるコミュニティーサイト「ボーカロイドにゃっぽん」の管理人「わーいのひと」さんは「自分が貢献できるのは何かと考えたら、サーバー管理だった」と話す。「若い人たちが作品を作る楽しさを伝え合える場にできれば」と、システム開発会社に勤める友人らと運営。資金は寄付でまかない、安心して利用できる環境づくりに努める。

 20代の設計技術者sippotanさんは07年秋から毎週、再生回数やコメント数などをもとに、週間ランキングを動画にして投稿している。「曲が多いので、実際の音楽シーン同様、ランキングが必要と思った」という。「一般の人が歌声付きの音楽作品を完全な形で発表できるようになったのはたぶん史上初で、そこに魅力を感じます」

 ランキング動画を毎日投稿するのはrankingloidさん。情報系大学院生で、専門を生かして独自のプログラムを作成、集計から動画編集、投稿まで完全自動化した。自動集計ツールは公開され、他のランキング投稿者も利用する。

 プログラム作りが趣味の樋口優さんは、初音ミクを動かす動画作成ソフト「MikuMikuDance」を無償公開。扱いやすさと自然な動きが人気で、数千の動画が作られた。

 「電子の歌姫」の創作の小宇宙は、数多くの人々を呼び込みながら、広がり続けている。

(2009年3月21日付 朝日新聞土曜「be」から)

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