辻村深月さん辻村深月さん

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■夢中な「何か」見つけて

大好きで夢中になれる「何か」を見つけてほしい。それはきっと、海に投げ出された時にしがみつけるブイのように、つらい現実に溺(おぼ)れそうな自分を救ってくれる。

小中学校のころ、友だちとうまく付き合えなかった。教室で数人ずつの班(はん)を作る時、自分だけ余ってしまうこともよくあった。学校は楽しい場所では全くなく、周囲から「友だちがいない」と見られていると思うたび、自分が恥(は)ずかしく、心配する親にも申し訳なかった。

そんな私を救ってくれたのはフィクションの世界だった。当時の自分を振り返ってみて、そう悪い少女時代でもなかったと思うのは、ゲームやアニメ、ライトノベルにのめり込み、それらの世界を、教室の現実と並行して楽しんでいたからだと思う。

読書やゲーム、アニメのような1人でできる楽しみは、しばしば「暗い」「オタク」だとバカにされる。実際、私もそれでつらい思いをした。でも、それは現実逃避(げんじつとうひ)なんて言葉が似合わないほど、まぎれもなく私の現実の一部だった。

今月、直木賞の受賞が決まった。小説を書くって、すごいことのように思われているけれど、かつて好きだったフィクションの世界の延長(えんちょう)線上でやっているだけのこと。ゲームやアニメは、小説と同等(どうとう)の価値があると思っている。私が好きだったもののことは、誰にももうバカにはさせない。

悲しいけれど、いじめって絶対になくならない。

アイドルでも、スポーツでも、何でもいい。つらい状況に追い込まれる前に、夢中になれるものを見つけて、自分の心を豊かに強く、保ってほしい。(つじむら・みづき=作家)