姜尚中さん姜尚中さん

今いる世界、脱出しよう

家出をしよう。

つらいとき、「ドラえもんのタイムマシンにでも乗って違う世界に行きたい」と思ったことはないかい。

それは無理でも、空間を劇的(げきてき)に変えることはできる。自分を苦しめている世界から脱出(だっしゅつ)してみよう。そうすれば必ず、今いる世界がちっぽけに思えてくる。

僕(ぼく)は中学時代の夏休み、同級生と2人で1カ月間、家出した。真夜中に家を抜け出し、熊本から夜行(やこう)列車で東京に向かった。カバンに数日分の下着と、親の財布(さいふ)からこっそり「前借り」したお金を持ってね。前年に東京五輪もあり、東京がどんな世界なのか、どうしても見てみたかったんだ。

新聞販売所(はんばいじょ)に住み込みで働きながら、新宿、上野、銀座といろいろ回った。初めて食べたカツ丼の味に感動した。東京タワーから街を見下ろすと、すべてがちっぽけに見えた。

家に帰って、母親からすごく怒られたけれど、もう以前の自分ではなかった。ひとまわり大人になったのが、自分でも分かった。

君にも「今いる世界がすべてじゃない」と気づいてほしい。そのために家出をしよう。遠くへ。最低でも1カ月。どこへ行ってもコンビニはあるし、夏なら野宿もできる。保護(ほご)されそうになったら、そこはうまく切り抜けて。

1カ月も君が行方(ゆくえ)をくらませば、学校も親も級友も大騒(おおさわ)ぎする。そして君がいなくなった原因を考えるはずだ。帰ってきたら、きっと何かが変わっている。君自身も「家出の原因はいじめだった」と堂々と言えるようになっているはずだ。君にはどうしても生き延(の)びてほしい。人生最初の大人になるいい機会(きかい)だと思って、家出をしよう。(カン・サンジュン=政治学者)