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いま子どもたちは

目の前の生徒、助けたい 上を向いて―8

2011年3月11日9時35分

写真拡大無料の勉強会に来る子どもたちは背景や事情も様々。教える学生スタッフにとっても勉強の場だ=東京都江戸川区、西畑志朗撮影

 困窮家庭の子向けの無料塾のスタッフには大学生が多い。子どもたちと付き合うことで、学生たちも学ぶことがある。

 東京のNPO法人「キッズドア」が運営する無料塾「タダゼミ」のスタッフで、慶応大法学部1年の市川敏樹さん(19)は、昨夏から中学3年生を教えている。

 市川さんは、小学3年と高校1年で、父が営む会社の倒産を2度経験した。一時は「こんな大変なときに大学に行っていいのか」と悩んだ。高校時代はスーパーでアルバイトをして、塾に通う費用の一部を負担していたという。

 だから、家庭の経済力による子どもたちの格差が気になる。

 学校の授業で基礎は身に着いているのに、応用問題や入試問題が苦手な生徒が目立つ。塾や模試のお金が出せないからだと思う。それに、実力より3、4ランク下の高校に出願する子ばかり。「力に見合った高校に挑戦するようにアドバイスしても、『私立は無理』と親に言われているから、絶対に落ちない学校しか狙わない」

 親や先生たちの意識が変わらない限り、子どもたちはどうしても消極的な選択をしてしまう。それでは格差はなくならない。ここに来た当初は「自分が国全体の格差是正に一役買いたい」と考えていたが、今は「まず、目の前の困っている生徒を一人でも多く手助けしたい」と考えるようになった。

 東洋大4年の新妻茂樹さん(22)は、都内の無料塾「江戸川中3勉強会」で教え始めて、生活保護家庭や不登校への先入観を覆された。服装は他の子たちと変わらないし、不登校でも明るく活発な子もいる。しばらくして彼が気づいたのも「意識」の問題だった。

 中3の女子生徒から「夢は、いい人と結婚すること」と打ち明けられたことがある。将来自分の子に付けたい名前を言い合って、はしゃいでいる生徒たちもいる。中学生にしては現実的な夢だと思う。多くは複雑な家庭で育っている子だ。「すぐにでも自分の居場所が欲しい」という気持ちが痛いほど分かり、悲しくなる。

 それでも、最初はじっと座ってもいられなかった子たちが、今では都立高入試の過去問を何とか解いている。その姿を見ると、苦労が報われた気持ちになる。去年の夏に受けた教員採用試験は不合格だったが、この夏また挑戦するつもりでいる。(増谷文生)

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