２４日の米独立調査委員会で証言するクラーク前大統領特別顧問＝ＡＰ

　同時多発テロをめぐる米政府の対応を検証している独立調査委員会の２４日の公聴会で、クラーク前大統領特別顧問は「テロ対策は緊急の課題」とブッシュ政権に訴え続けたのに聞き入れられなかった、と証言した。具体例を挙げてライス大統領補佐官らを痛烈に批判。同じ日に公聴会に臨んだテネット中央情報局（ＣＩＡ）長官の証言と真っ向から対立した。

　一方、ホワイトハウスは同日、クラーク氏が現職当時にブッシュ大統領を擁護した発言を引いて「二枚舌」ぶりを指摘。激しい非難の応酬が繰り広げられた。

　クラーク氏は公聴会の冒頭、詰めかけた同時多発テロの犠牲者の遺族たちに謝罪した。

　「あなた方を守るべき政府はしくじった。私もだ。私たちは頑張ったけれど、そんなことは関係ない。失敗したのだから。許してほしい」

　感情を押し殺し、絞り出すようにして言い終えると、ブッシュ政権への批判を始めた。

　「ブッシュ政権は発足から（同時多発テロが発生するまで）８カ月間、テロは重要な問題だと認識していたが、緊急の課題ではないと見なしていた」「大統領もインタビューで『緊急という意識はなかった』と話しているではないか」

　クリントン前政権当時からホワイトハウスでテロ対策を担当してきた経験を踏まえ、前政権はオサマ・ビンラディン氏が指導する国際テロ組織アルカイダとの戦いに「並はずれて高い優先順位をつけていた」と評価し、ブッシュ政権の対応の遅さを批判した。

　傍聴席の遺族らから何度か拍手があがった。

　クラーク氏はテロ発生の１週間前、ライス大統領補佐官に「テロ攻撃で米国人の遺体が数百も並ぶ日を想像してほしい」と記した手紙を書いたという。しかし、「テロ対策は緊急の課題だ」という訴えは受け入れられなかった、と主張している。

　最近、ブッシュ政権のテロ対策を批判する著書「すべての敵に向かって」を出版したクラーク氏に対して、独立委の委員のひとりはブッシュ政権批判が大統領選を意識したものではないか、と疑いの目を向けた。クラーク氏は「（民主党の）ケリー政権ができても、いかなるポストにもつかないと誓う」と反論。前回の大統領選では共和党の予備選で投票し、「党への忠誠を示した」とも付け加えた。

　クラーク氏に先立って証言したテネットＣＩＡ長官は、クラーク氏と同様にブッシュ、クリントンの新旧政権に仕えてきた。ただし、いまも現職だ。「両政権ともテロ対策に不備はなかった」と証言した。さらに「テロリストたちは、いまも狙っている」と述べ、将来の危機に目を向ける必要を訴えた。

　クラーク氏の批判に対し、マクレラン大統領報道官は２４日、クラーク氏が同時多発テロ後、ブッシュ政権のテロ対策を批判した米誌の記者に上司の命令で接触、テロ対策に問題はなかったと説明したことを挙げ、発言の変節を攻撃した。

　〈リチャード・クラーク氏〉　７３年、国防総省の核兵器担当分析官。レーガン元政権で国務次官補代理、ブッシュ元政権で国務次官補を歴任。９８年にクリントン前政権のテロ対策担当の大統領特別顧問に就任、ブッシュ政権でも同じ地位にとどまった。０３年１月に辞表を提出した。

(03/25 11:12)