イラクの邦人人質の解放から一夜明けた16日、外務省の再三の退避勧告にもかかわらずイラクに入った3人の自己責任を問う声が、政府・与党から相次いだ。急浮上してきたのが、現行の強制力のない退避勧告を強制力のある法律などに格上げすべきだという意見だ。ただ、憲法で保障された移動の自由との兼ね合いから法制化には疑問視する声も強い。
事件発生以来、自民党内には3人の人質に対して、「遊泳禁止の札が立っているのに泳ぎに行ったようなものだ」(島村宜伸・元文相)という厳しい見方がくすぶっていた。こうした見方が、人質の安全が確保されたのを受けて、一気に表面化した。
自民党の額賀福志郎政調会長は、16日の与党対策会議で「渡航禁止について、法制化も含めた検討を行うべきだ」と提言し、公明党からも同調する意見が出た。石破防衛庁長官も記者会見で「憲法には公共の福祉の制限がかかっている。『渡航をやめてください』ということも憲法上可能ではないか」と述べた。
一方、否定的な反応もある。福田官房長官は同日の記者会見で「憲法に海外渡航の自由が保障されている。その前提のうえに、いろいろな観点から考えてもいいが、慎重に考えるべきだと思う」という論を展開した。
自民党総務会では、「渡航禁止という制度を作ると、禁止されていないところで何かあった場合、政府の責任になってしまうのでは」との声も出た。
現在、外務省が出している「危険情報」は「退避勧告」を最高に4段階で危険度を表している。このほか、事件の発生など時々の情勢に応じて出される「スポット情報」や複数国にまたがるテロ情報などについて注意喚起する「広域情報」がある。これらの情報は外務省のホームページに掲載され、報道機関や旅行会社などに伝えられる。
現行の「危険情報」は02年4月、それまでの5段階の「海外危険情報」を衣替えして誕生した。「海外危険情報」では下から2番目の「観光旅行延期勧告」が出た場合、政府が旅行会社にツアーの自粛を求めていた。しかし、01年9月11日の同時多発テロ後、「運用が厳しく、海外旅行激減の一因となった」という批判を浴び、現行制度に変更した経緯がある。
外務省は現在の「危険情報」について、ホームページで「法的な強制力をもって渡航を禁止したり退避を命令したりするものではない。旅行会社の主催する旅行を中止させる効力もない」と説明している。
今回浮上した渡航禁止の強制化は、強制力を薄めてきたこれまでの流れに逆行している。
(04/16 20:52)
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