イラクの人質事件で解放された3邦人の様子を伝えるテレビ映像の中に、ひときわ目立つ笑顔があった。武装グループに解放を呼びかけたイスラム宗教者委員会のアブドルサラム・アルクベイシ師だ。同師は、先に相次いだ中国(7人)、ロシア・ウクライナ(8人)、フランス(1人)各国の人質救出でも決定的な役割を果たしたといわれる。
AFP通信によると、同師の肩書は宗教者委員会の広報責任者で、「情報の十字路」にいることは疑いない。現地の宗教人脈、有力部族への影響力も役立っている。
11日に拉致された仏人記者アレクサンドル・ジョルダノフ氏の解放を求めて、パリからアルクベイシ師に連絡を取ったムハマド・バルー記者(レバノン系仏人)によると、イラクの知人を介して同師に電話がつながったのは14日朝。同師は、ジョルダノフ記者が拉致された地域にある全モスク(イスラム教礼拝所)を通じ、犯行グループに「仏人記者は敵ではない」と説いた。
同日正午と午後2時の2回、師から「もうすぐ良い知らせが入る」と電話があった。同3時半、ジョルダノフ記者は宗教者委の拠点モスクの前で解放された。モスクから出てきたのがアルクベイシ師。師は邦人の解放時と同じように、飲み物や食べ物を与え、ねぎらった。
同師は邦人解放後、米軍の攻撃を受けたファルージャの惨状を訴えた。
16日の記者会見では、邦人解放をめぐり小泉首相が直接、宗教者委の名を挙げて評価しなかったことに触れ、「我々の努力を日本人の多くが評価してくれている。しかし、日本政府はそうではないようだ」と不快感を示した。解放が遅れた一因は日本政府の対応にあるとも語り、「善意の仲介者」にとどまらないしたたかさを見せた。
一方、行方が分かっていないフリージャーナリストの安田純平さんと市民団体メンバーの渡辺修孝さんについて「今のところ情報はない。各地の組織を通じ、情報収集に当たっている」と話した。
(04/16 23:56)
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