空模様が毎日気になる梅雨の季節。ならばいっそ、家のなかでも思い切り雨を楽しんでみてはいかが?梅雨どきにぴったりの、雨の名場面が印象的な映画、雨にちなんだ映画を紹介します。まずは洋画編から。
雨のシーンがあまりにも有名な作品といえば、ミュージカル映画「雨に唄えば」(52年、米)でしょう。無声映画からトーキーへと移り変わる20年代のハリウッドを舞台に、華やかなショービジネスの世界に生きる人々の恋と人間模様が生き生きとつづられます。
白眉(はくび)はジーン・ケリー扮する人気ボードビリアンのドンが、雨降る夜の街角で歌い踊るシーン。恋人キャシー(デビー・レイノルズ)を家まで送ったドンは、すっかり上機嫌で車を帰してしまうと、主題歌「雨に唄えば」をくちずさみ、ひとり軽やかに踊りはじめます。街灯にひょいと飛び乗ったり、傘を振り回しながらタップを踏んだり、水たまりの上で子供のように飛びはねたり……。共同監督も兼ねた主役ジーン・ケリーの最大の見せ場とあって、恋の喜びであふれんばかりのダンスは、見ているだけで幸せな気分になってきます。
「雨に唄えば」をはじめ、ロマンチックな雨は名曲との相性がよいようです。
19世紀末に実在した銀行強盗コンビの逃避行を描いた「明日に向って撃て」(69年、米)では、ブッチ(ポール・ニューマン)が相棒サンダンス(ロバート・レッドフォード)の恋人エッタ(キャサリン・ロス)と自転車で戯れるシーンに、バート・バカラックの「雨にぬれても」が流れます。木漏れ日のさす原っぱで、追われる身とは思えぬほどリラックスした表情で無邪気に遊ぶブッチとエッタ。これまでの西部劇とは一線を画した詩的な情景を名曲で彩ったバカラックは、「雨にぬれても」でアカデミー歌曲賞、映画全体の楽曲でアカデミー作曲賞をダブル受賞。ジョージ・ロイ・ヒル監督はオスカー監督賞に輝きました。いまもCMソングなどに使われることの多い「雨にぬれても」ですが、雨とは直接関係のないこの映画のシーンがやはり一番印象的です。
フランスを代表するジャズ作曲家、ミシェル・ルグランの音楽を全編に配した「シェルブールの雨傘」(64年、仏)は、せりふを一切使わずに歌で物語を進めるという、しゃれた趣向の作品です。石畳の上を色とりどりの傘の花が行きかう様子を真上から撮影した冒頭の場面は、美しくもの悲しいテーマ曲とあいまって、雨傘屋の娘と工員の青年がすれ違いの悲恋を繰り広げる北フランスの港町へと観客を誘います。雨傘屋の娘を演じるのは、若き日のカトリーヌ・ドヌーブ。ジャック・ドゥミ監督はこの作品でカンヌ映画祭のパルムドールを獲得し、名匠への道を確かなものにしました。
同じフランス人のルネ・クレマン監督は、地中海に面した南フランスの避暑地を舞台に「雨の訪問者」(70年、仏)を撮りました。こちらはフランシス・レイの音楽が印象的な大人のサスペンス。主役の謎めいた男を米国人俳優チャールズ・ブロンソンが男の魅力いっぱいに演じています。地中海のまばゆい陽光の下、若き美男のアラン・ドロンが主演した「太陽がいっぱい」(60年、仏)も合わせて見ると、梅雨明け気分も味わえるうえ、巨匠クレマンの巧みなサスペンス演出の手腕も2倍楽しめます。
最後に一風変わった作品を。米国の鬼才ポール・トーマス・アンダーソン監督の「マグノリア」(99年、米)は、ロサンゼルス郊外に住む十数人の男女のある1日を重層的に描いた3時間余の大作です。トム・クルーズやジュリアン・ムーアらが演じる年齢も暮らしぶりもさまざまな市井の人々の日常が次第にからまりあい、予期せぬ展開へと観客をいざないます。ご存じの方も多いと思いますが、この映画のクライマックスでは空から雨ではない「あるもの」が降ってきます。といっても、雨とは決して無縁ではない「あるもの」です。衝撃的なのにどこか不思議な感動を呼ぶこの場面のせいか、あるいは物語の伏線として巧みに織りこまれた天気予報のせいか、梅雨どきになるたびにふと思い出してしまう1本です。