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「見立てに合わぬ供述通じない」 特捜捜査、経験者語る

2010年9月30日9時3分

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 大阪地検特捜部が押収したフロッピーディスク(FD)のデータが改ざんされたとされる事件を受け、描いた事件のシナリオ「筋読み」に固執して調べを進める特捜部の捜査のあり方が問われている。検察内部では重要な供述を引き出す「割り屋」が評価されてきたが、別の事件で取り調べを受けた人たちは「覚えのない調書に署名を迫られた」などとして批判している。特捜OBは組織の劣化を憂えた。

■官製談合事件

 「談合を承知のうえで、市長に指示されて工事情報を流したんだろ」

 大阪府枚方市の清掃工場建設をめぐる官製談合事件で、2007年5月に大阪地検特捜部に逮捕され、裁判で無罪が確定した小堀隆恒・元副市長(64)は大阪拘置所で21日に及んだ取り調べの間、検事から言われ続けたという。

 逮捕容疑に覚えはなく、否認を続けた。すると、検事は立ち上がり、自分が座っていたキャスター付きのいすをけった。「お前の親類に脱税がないか調べるぞ」「娘も息子も今の会社にいられるかわからないぞ」。介護施設に入所している90歳の義母まで調べると言われた。

 「入札金額などの情報を漏らしました」と書かれた供述調書に、サインするよう何度か迫られた。断ると、「特捜が組織をあげてやっているのに、不起訴なんて絶対にないぞ」。起訴の前日には、6〜7時間かけて無実を訴えたが、「聞かれてみれば入札金額を言ったかもしれない」という調書ができあがった。最後まで否認を通すと、「お前の顔は一生忘れない」と言われた。「検察には自ら描くシナリオがすべて。『違う』『こうなんや』と言っても通じなかった」と振り返った。

 証拠隠滅容疑で逮捕された大阪地検特捜部主任検事の前田恒彦容疑者(43)も、「割り屋」の一人だった。

 今回の事件について、市の顧問に復帰した小堀氏は「上司が求める通りの供述を引き出せば手柄になるといわれる。そんな成果主義の弊害ではないか」と語った。

■工事収賄事件

 福島県発注のダム工事をめぐる収賄罪で、東京地検特捜部に逮捕、起訴され、一、二審で有罪判決を受け、無罪を主張して上告中の同県前知事、佐藤栄佐久被告(71)も「特捜部は事実と離れたところで作文し、自分たちの見立てに合わない供述は認めてくれなかった」と言った。この事件では、前田検事も関係者の取り調べにあたっていた。

 特捜部は佐藤前知事がゼネコンから受け取ったわいろを1億7千万円と主張。これは、ゼネコンが買い取った前知事の親族会社の土地の価格と、時価の差額だ。しかし、佐藤前知事は「土地売買があったという認識すらなかった」と主張している。

 一審判決で、わいろ額は7千万円に減った。二審判決では時価との差額はゼロとされ、佐藤前知事は土地を買い取らせることで会社再建の資金を調達する「換金の利益」を得るという認識はあったが、差益を得ることまで認識していたとは認めがたい、とされた。特捜部が描いた「差額=わいろ」という構図が退けられた形だ。

 佐藤前知事によると、容疑を否認すると、検事から「今は単純収賄でも、否認していると(法定刑が重い)受託収賄になるよ」などと言われた。支持者らが次々に取り調べを受けるなか、検事から「早く認めないと、周りの親しい人たちが大変だ」と言われたという。

 逮捕前、取り調べを受けた関係者2人が自殺を図っていた。佐藤前知事は不本意ながら容疑を認める自白調書に署名したという。「私が否認を続けたら、取り調べで苦しむ人がもっと出ていたと思う。支持者は私にとって命そのものだった」と語った。

     ◇

 東京、大阪の両地検で特捜部にいた元検事の堀田力弁護士(76)は、検察が「真実を追い求める」という使命を以前ほど重く考えなくなったことが、FDのデータ書き換えの背景とみている。

 証拠集めや分析、関係者の聴取、アリバイの確認……捜査はこれらを延々と繰り返す作業だ。安易に結論を急ぐことはタブーだと教えられ、「筋読み」と呼ばれる当初の事件の見立てが違えば、ゼロからやり直した。

 東京地検特捜部時代に捜査に携わったロッキード事件では、特捜部副部長が事件のチェック役で、顔も見たくなくなるほど厳しく細かく指摘された。それだけに、村木厚子氏の事件で、前田検事の上司が、証拠や供述のチェックを十分にしていたのかどうかが疑問だという。

 堀田氏は今回の事件で、検察に対し、「証拠を改ざんしてまで有罪にしようとする組織」というイメージがついたとみている。「原点に返り、間違えるかもしれないという怖さをかみしめながら捜査するしかない」と言った。

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