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競い合う 中国人選手参入、実現へ新ルール――第6部〈融合競演〉

2009年7月7日16時41分

写真大学生との練習試合をベンチで観戦する趙希選手=名古屋市東区、恵原弘太郎撮影

写真台湾のメディアに囲まれる張栩五冠(右)と謝依旻二冠=6月、東京都千代田区、井上写す

写真日本でプロ棋士をめざす呉柏毅君(右)と母の邱鳳梅さん=井上写す

 一人の中国人選手がきっかけで、外国人選手を締め出していたバスケットボール女子日本リーグ(Wリーグ)のルールが今年、変わった。

 「日本国籍を申請中であれば、2010年度からプレーを認める」。トヨタ自動車に昨春入社した趙希(チャオ・シー)選手(24)の機会を奪わないようにするためだ。

 6月、名古屋市のトヨタ自動車葵体育館。趙選手はコートわきのベンチに座り、練習試合を見ていた。まだ公式試合でプレーできないため、練習試合に出ることも少ない。背の高い選手たちの中でもひときわ大きい。190センチ、78キロの体格は日本人選手にはない大きな武器だ。

 天津市出身。中学卒業後、スカウトされて岐阜女高に留学、拓殖大に進んだ。しかし日本のトップレベルでプレーするには、壁があった。

 女子日本リーグはかつて、有力な米国人選手を集めた。だが人件費が高騰してチーム予算が圧迫されたため、93年度から外国人選手を締め出した。それ以来、外国籍だとコートに立つことはできなかった。

 趙選手は日本国籍の取得を決心した。「国籍は人の名前と同じようなもの。私であることに変わりはない」

 トヨタに紹介された弁護士とともに、大学4年の秋から国籍取得の手続きを進めた。入社までに日本人になるつもりだった。だが、申請は昨年6月に却下された。「社会人を3年程度経験しないと、日本への帰属意識があるとは見なされない」と説明された。

 国籍を取ってからやっとプレーできるのでは、やる気を持ち続けるのが難しく、つぶれてしまうかもしれない。チームはリーグに救済措置を訴えた。

 効いたのは「五輪代表チームの主力になれる逸材」という説得だった。女子日本代表は96年のアトランタ大会の7位入賞以来、シドニーは予選敗退、アテネ10位、北京は予選敗退。外国人選手の締め出しで、リーグ、ひいては日本代表の力が落ちたと指摘する声は多い。他チーム監督らの反発を抑えて、今年2月にルール変更が正式に決まった。

 「日本のために能力を生かしてくれるのなら、認めるということだ」と日本協会幹部。「欧米やアフリカ出身者は日本人と実力が違いすぎるし、そもそも日本国籍を取ろうとは考えない」と別の関係者は言う。

 中国人の場合、欧米選手に比べて人件費ははるかに安く、チーム運営が困難になることは避けられる。事実上、日本の大学に多い中国人留学生を中心とするアジア勢獲得を想定したルールといえる。

 「北京五輪の予選を見たが、日本代表はリバウンドで相手に負けている。力になれるはず。まずWリーグで活躍したい」。趙選手はデビューの日が待ち遠しい。

 新ルールを受け、優勝を競い合う富士通にも今春、中国人留学生の選手が入団した。

 サッカーはブラジルからの選手、相撲はモンゴルからの力士が目立つ。プロ野球では台湾からの選手が存在感を見せる。中国人選手は卓球で活躍し、韓陽、吉田海偉両選手のように日本国籍をとる例も多い。趙選手は、中国の女子バスケットボール選手が日本トップのリーグに流入する道を広げた。(阿久津篤史)

■囲碁界 台湾勢が躍進

 同じ勝負の世界でも、いっそう融合が進んでいるのが、日本と台湾の囲碁界だ。

 6月中旬、東京都内のホテルであった囲碁のタイトル戦合同就位式。若い男女を台湾のメディアが取り囲んだ。張栩五冠(29)と謝依旻二冠(19)。日本棋院が主催する男女の主な10タイトルのうち、台湾出身のこの2人が七つを持つ。

 日本棋院の大竹英雄理事長(67)はあいさつで「日本の棋士は何をしているんだ、とのおしかりの声もあると思います」と漏らした。台湾勢の躍進は際だつ。

 張五冠は「台湾は生みの親、日本は育ての親だと思っている」。謝二冠は「日本でプロになった。今は日本の一員として世界戦で活躍したい」と話す。

 台湾出身棋士の活躍は、大陸生まれで台湾育ちの林海峰名誉天元(67)が65年、名人位を獲得したのが始まりだ。当時は世界最強だった日本での活躍を夢みた少年が、続々と来日した。

 現在、台湾出身棋士は日本棋院、関西棋院合わせて21人。約450人のプロ棋士の中ではそう多くはないが、主要タイトル経験者は5人おり、獲得率は日本人棋士を上回る。

 台湾は囲碁が盛んだ。この10年ほど、プロ組織を整備してきたが、それでも若い人は日本へ向かう。

 今春、日本の東西に台湾の有望な若者がやって来た。

 関西棋院に入った余正麒初段(14)は、台湾棋院の二段というプロ棋士。台湾のトップ棋士に勝ったこともある有望株だ。

 一方、日本棋院の院生(プロ候補生)になった呉柏毅君(13)は、張五冠の活躍を知って囲碁を始めた。「世界チャンピオンになりたい」との夢に向け、10月のプロ試験に挑む。

 実力で見れば、いまは韓国や中国が日本より優勢だといわれる。韓国や中国で修業する台湾の少年も多い。呉君も北京で3年間修業した経験がある。それでも日本に来るのはなぜなのか。

 3カ月ごとに日本と台湾を往来し、呉君を見守る母親の邱鳳梅さんは言う。「韓国や中国では、朝から晩まで囲碁をしている。機械みたいに思えた。日本の囲碁は文化、芸術の要素がある。棋士は品格があり、社会で尊敬されている」。子供には楽しんで碁を打ってほしい、とも思う。

 やはり中韓で計2年学んだ経験がある謝二冠は「日本には、プロで活躍する台湾の先輩たちがたくさんいる」と人のつながりを強調する。

 社会環境や囲碁に対する考え方の特別な近さが、日台囲碁界の融合を加速する。(井上秀樹)

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「在日華人」は日本で発行されている中国語の週刊新聞「中文導報」の紙面とホームページ(http://www.chubun.com/)に転載されます。

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