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連れ帰る 成人後、故郷へ 結婚し再び来日――第12部〈大陸源流〉

2010年4月26日15時41分

写真福建省福清市の郊外には派手なデザインの新築住宅が競うように並ぶ=相場郁朗撮影

写真日本人との結婚を希望する中国人女性のリスト。パソコンには百数十人の写真が保存されていた(画像の一部を修整しています)=福建省福清市、奥寺写す

 黒竜江省方正県中心部に「僑村」と呼ばれる高級住宅地がある。大きな一戸建て約40戸が並ぶ。住民は日本からの帰国者だ。彼らの資金や技術などを地域発展に役立てようと、県政府が財政支援し、格安で住宅を提供する。3年後には400戸に拡大する計画だ。

 ここに住む趙秀蘭(チャオ・シウラン)さん(60)と夫の斉占河(チー・チャンホー)さん(63)を訪ねた。日本の永住権を取ったが、老後は故郷でと、2005年に帰国。210平方メートルの2階建てを日本円にして約800万円で買った。夫婦は「日本に行かなかったら、こんな立派な家には絶対に住めませんでした」。

 趙さんの母親は祖父母とともに1943年、日本から旧満州に渡った。敗戦後、祖父母はソ連兵に殺され、17歳だった母親は中国人農民の妻になった。70年代に日本にいる姉妹と連絡が取れ、2番目の夫の死後、86年に日本へ。趙さんと斉さんも後を追い、89年に2人の子供と埼玉県に移住した。

 趙さんは裁縫工場で、斉さんは鉄工所などで働き、2人で1カ月に二十数万円を稼いだ。方正県の農家の10年分以上を毎月得ていた計算だ。「生活が何もかも変わった」と斉さん。

 趙さんのきょうだい3人とその妻や夫、子供たちも日本に渡った。斉さんの妹の1人は在日華人と、他の2人の妹は日本人と結婚した。夫婦の家系だけで、日本に移住したか、日本で生まれた親類は約30人にのぼる。

 日本へ行った華人の子供や孫の多くは成人後、故郷の方正県を訪れて結婚相手を探し、連れ帰る。言葉や習慣の違い、収入の格差で日本人との結婚は難しいという。方正県の人々が続々と日本に向かう流れができている。

 中には戸籍を偽造し、日本に渡った人の親族になりすまして来日する人もいる。

 ある男性(44)は40万元(約550万円)を仲介業者に払い、妻を残留孤児の娘として、自分はその夫と偽って90年代に日本に入国した。業者は残留孤児の家族に謝礼を、戸籍を管理する警察関係者らにはわいろを渡して戸籍やパスポートを偽造した。

 夫婦は関西の部品工場などで5年間働き、月給40万円のうち30万円を貯金し続けた。帰国後は5階建ての自宅を新築、貯金で始めた毛皮の貿易も順調だ。男性は「ビザ取得が難しく、身分を偽るしかなかった」と話した。

 方正県は、日本人と結婚する女性が多い。日本の国際結婚仲介業者のウェブサイトには、方正県の女性が目立つ。県内では日中の十数業者が営業しているといわれる。

 日系の「青葉堂」は年に10組前後を成立させる。色白で素朴なここの女性は日本人男性に人気があるという。自らも方正県の女性と結婚した吉岡宏幸代表は「都市の女性には日本の魅力は薄れているが、農村部ではまだまだ日本へのあこがれは強い」と語る。

 方正県で知り合った自営業の日本人男性(44)は、ここが出身の妻とネットで出会った。妻は日本で生活した経験があり、メールやビデオチャットで連絡を取り合ううちに「あなたに決めた。方正県に来て」と言われた。女性には2人の子供がいるが、はっきり意思を伝える彼女に魅力を感じた。方正県を訪れ、婚姻手続きをした。「不安もあったが、妻は日本のこともよく知っているし、幸運だった」。3月、家族を連れて日本に戻った。方正県出身者がまた日本に増えた。(西村大輔)

■学歴・コネなく、収入求め海渡る

 「密航は一度、後悔は一生」。福建省福清市にある村役場が密航を思いとどまらせるために壁に書いた標語は、色あせ、文字の上に村の行事案内板が覆いかぶさっている。

 蛇頭に約300万円払って密入国し、07年に強制送還された男性(45)は「最近、日本は取り締まりが厳しい。いくらも稼がないうちに、職務質問されて強制送還されるリスクが高く、密航は割に合わない」。しかも日本で昼夜働いても、年に貯金できるのは200万円前後。「今は中国で成功すれば、けたが一つも二つも違う」と話した。

 建設請負業の男性(45)は、「蛇頭」ボスの1人といわれる。90年代まで密航も請け負った。「中国残留日本人孤児の家族と偽って、ざっと3千人を送り込んだ」と話す。今では、省は好況で、道路やマンションの新設が相次ぎ、「本業」で10億円の年商がある。密航依頼はめっきり減った。

 好況のためか福清市ではどんな田舎町に行っても、4〜6階建て、1フロアが200平方メートル前後もある西欧風豪邸が競うように建てられている。持ち主の多くは、海外などで稼いだお金を元手に、中国内陸部の炭鉱、ガソリンスタンド、不動産などに投資して財をなした人たちだ。

 一方、家に金がなく、学歴や有力なコネがない人々は中国の発展に乗れない。そんな層がより多い収入を求め、留学や結婚を介して海外を目指そうとしている。

 留学あっせん業者の男性(41)に会った。日本留学の仲介料は1年目の学費を含め200万円前後。「密航が盛んだった頃に比べ、留学ビザが出やすくなった」。ただ、高卒以上との条件がある。それに、日本で学校へ行かずに働いてばかりいれば、2年目以降は在留資格を失う。

 結婚だと、学歴や年齢の制限はない。「早ければ3、4年で永住権が申請できる。取得後に離婚すればいい」。事務所の看板は「留学指南」だが、裏で結婚仲介もする。偽装結婚の仲介業者は福清市に数百人はいるという。

 市中心部にある結婚相談所で、日本人男性を望む百数十人の女性の写真を見せてもらった。年齢、身長、体重、結婚歴、子供の有無……。仲介料は、本物の結婚だと約160万円、偽装結婚だと270万円前後。毎年50〜80組が「成婚」し、約3分の2が偽装だという。

 紹介所の男性は若い女性の写真をパソコンに映し出して言った。「福清市では、金持ちは相手の家柄を見る。いくら美人でも、実家にお金がなければ釣り合わず、金持ちと結婚できない。だから日本を目指す人が絶えない」

 郊外に、日本で振り込め詐欺にかかわり、昨年、実刑判決を受けた男(29)の実家があった。ニワトリが家の前を走り回る。男は十数年前、密航船で日本へ渡った。「息子は電話で『まじめにやっている』と言っていたのに」と母親(48)が嘆く。食事の誘いを断ると、祖父が1羽のニワトリを袋に詰め「持っていけ」と差し出した。(奥寺淳、編集委員・緒方健二)

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