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 日本の景気はどうなるのか? 経済政策「アベノミクス」の成否はどうなのか? 論説委員が各分野の専門家に迫り、旬のテーマをやさしく解説します。

円安で輸出が増えるかもって言ったの、誰?

vol.3

ゲスト:嶌峰義清・第一生命経済研究所首席エコノミスト 聞き手:小陳勇一・朝日新聞論説委員

【動画】朝デジけいざい入門「円安で輸出が増えるかもって言ったの、誰?」=戸田拓・瀬戸口翼撮影
写真 嶌峰義清
(しまみね・よしきよ)
 第一生命経済研究所・首席エコノミスト
1966年生まれ 48歳。90年、岡三証券入社。岡三経済研究所、日本総合研究所を経て、98年、第一生命経済研究所入社。金融市場全般を担当。

「輸出が増えた」へは2段階ある

 小陳 円安が進んでいるのに、なぜ日本の輸出は増えないのか。第一生命経済研究所の嶌峰義清さんにお話を伺います。

 一般に、円安になると日本は輸出が増えると言われます。これはどういうことでしょうか?

 嶌峰 輸出が増えるといっても、二つの段階があります。

 まず円安になると、ドルで売っていた商品の円に替えたときの手取りの収入が変わります。アメリカで100ドルで売っていた商品は、1ドル=80円の時代ですと8000円です。ところが円安が進んで1ドル=100円になったとすると、売り上げは円換算で1万円になります。円建てでの輸出金額を増やす効果になります。一昨年の1ドル=80円前後の時代から1ドル=100円台の円安の過程で、日本の円建てでの輸出の金額は増えました。

写真「輸出が増えた」へは2段階ある

 ところが、輸出が増える第2段階、輸出の数量を増やすという効果があります。例えば、1ドル=80円の時代から100円の時代になって、1万円で売れるようになりました。企業は1ドル=80円の時代、8000円で売れていた時代でもそこそこ利益を確保していたとするなら、1ドル=100円になって、売り上げが1万円になるとかなり利益はふくらみます。でも、それよりももっと数量を売ろうと考えるなら、ドル建ての金額を値下げしてしまうんです。

 仮に今まで100ドルで売っていた物を80ドルで売るようになったとしましょう。同じ1ドル=100円でも、日本円での売り上げは8000円になります。もとの8000円に戻るだけです。他の国の企業は90ドルで売っていたとすれば、価格競争力がつき、その分日本製品を選んでくれる人が増えるはずです。ドル建てでの金額を値下げした段階で、日本製品を買ってくれる人が増えるので、輸出の数量が増えます。この段階にくると「円安によって輸出が増えました」という認識になります。

 小陳 昨年からの円安と輸出のグラフを見ると、安倍さんが自民党の総裁選で「デフレを脱却する、大胆な金融緩和をする」と主張して総裁になり、政権交代した時点で円安が進みます。円安が進んでいく過程でちょっと輸出が増え、ここで第1弾の上昇があった。ところが横ばいになって第2段階になっていないようなんですが、どうしてなんでしょうか?

輸出が増えない要因は

 嶌峰 実は円ベースの金額を見ると一時的には大きく膨らんだ。ところが金額が伸び悩んだ背景は、ひとつは円安がとまったためです。1ドル=100円を超えた水準で、さらなる円安がなかった。一方で輸出の数量がまったく増えなかった。これによって一時的に輸出の金額が膨らんだものの、その後横ばいが続いてしまうという結果に終わってしまっています。

写真円安でも輸出は増えない

 小陳 かつてだと円安になれば日本企業はどんどん輸出するというイメージがあるんですが、なぜ数量が増えなかったのでしょうか。

 嶌峰 よく指摘をされているんですが、1980年代以降円高が進み、日本企業は海外に進出して現地生産するようになった。日本から輸出するものが、海外に生産拠点が移っているので、その結果、円安になっても輸出の数量が膨らみにくいという構造が指摘されています。しかし、今回の場合はそれ以上に海外の景気自体がそれほどよくなっていないため、値下げをしても買ってくれません。

 小陳 このあと円安が続いても日本の輸出は増えないということでしょうか。それとも海外の景気がよくなって、輸出は増えていくのでしょうか。

 嶌峰 まさに海外の景気の動向しだいだと思います。海外の景気を見ると、経済規模の大きい米国は2008年のリーマン・ショック以降低迷が続いていたのですが、消費がようやく盛り上がってきています。米国の景気が金利の上昇に耐えられるほど強くなってきています。そうなってくるとアメリカ向けの輸出が今後かなり伸びてくるのではないか。

米利上げ観測、ドル独歩高 円安、一時108円台後半 (2014/9/19)

 東京外国為替市場で18日、円相場が一時1ドル=108円台後半と、約6年ぶりの水準となった。米国で金利を上げる時期が早まるとの観測から、投資資金がドルに集まっている。……… [続きを読む]

 それと米国の景気がよくなってくると、世界中が米国向けの輸出でうるおってくる。なかでも中国を含めた新興国は輸出が主導する形で景気が大きく左右される。米国の景気がよくなれば、新興国の景気もよくなる。日本から新興国へ向けての輸出や新興国を経由して米国への輸出が増えてくると見込まれるので、今後は海外の景気が輸出の数量を押し上げていくという効果は出てくるものと考えています。

 小陳 経済を考えるときに、円安か円高かというのをすごく気にしますし、貿易をすごく気にします。日本経済における為替や貿易の位置づけは変わってきていますか。

写真 船に積み込まれる自動車。円安を背景に自動車の輸出は堅調だが、長期的には国内生産の伸びは期待できない状況だ=広島市南

 嶌峰 大きく変わってきたと思います。以前に比べると、海外で生産している割合は増えてきている。同じ円安が進んでも輸出を押し上げる効果というのは限定になってきます。これまで1円の円安で輸出が1増えたとしても、いまでは1円の円安でも0.8という具合に限定的になってしまう。円安だからといって輸出が大きく押し上げられることはない。

 さらにもう1点、円安は海外からの輸入製品の価格を押し上げます。いまは食品などを含め日本が輸入に依存する割合が高くなってきている。家電製品もそう。そういったものの値段が上がりますので、物価が上昇する、生活が厳しさが出るといったマイナスの面も出てきます。そこらへんの兼ね合いを考えると円安になると何でもよくなるということでもない。

約6年ぶりの円安水準 家計や企業に負の面も (2014/9/6)

 東京外国為替市場で円相場が一時1ドル=105円71銭をつけ、2008年10月以来、約5年11カ月ぶりの円安水準となった。「円安は日本経済にプラス」と強調されてきたが、ガソリン価格を高止まりさせ、輸入食品の値上がりにもつながりかねない。製造業でも負の面が意識されはじめた。……… [続きを読む]

 小陳 円安にもわれわれの生活にプラス面とマイナス面があるということで、あまり過度に反応せずに注視していきたいと思います。

さらなる消費増税、やるの?

 嶌峰 今回の消費増税を受けて、個人消費の落ち込みは避けられません。そこから回復できるかどうかがポイントになると思う。4~6月期のGDP(国内総生産)が大きく落ち込むのは仕方がないとして、これから発表される7~9月期のGDPをどう見るか、重要な問題だと思う。今回は夏場の天候が西日本を中心に悪かった。足を引っ張るこの要素があったので、消費の戻りは鈍いものになる可能性はある。

 4~6月期は、物価変動の影響を除いた実質GDPが、前期比と比べて年率換算で7%台の落ち込みになりました。7~9月期に同3%くらいのプラスに転じてくれれば、まあまあそこそこ順調に持ち直してきている、といえる。これが仮に年率1~2%となると「このまま次の増税をやったらとても耐えられない」という判断になると思う。その場合は政府もかなり厳しい判断を迫られる。

 一方で、ここにきて円安が急速に進み、アメリカの景気の動向を考えるとこのまま円安基調が続くと思う。そうすると日本の株価も今の水準からもう一段繰り上がってくると思うので、景況感自体押し上げ効果が出ますし、消費者のマインドにプラスの効果をもたらすと思います。

 経済の多少の落ち込みがあっても、「7~9月期は天候要因ですよ」と言い訳も可能です。政府は10%への消費増税に踏み切ると思います。場合によっては、奥の手として「もう半年様子を見ます」ということもあるかもしれません。半年様子を見ると、増税時期は2015年10月ではなくて16年4月。その間、海外の景気のよさが強まっていくのであれば、日本の輸出が押し上げられる。また、来年の春闘に向けもう一段賃金が上がるので、「増税をしてもあとでカバーできますよ」という雰囲気をつくることもできる。

消費増税、GDP2次速報値見て判断 菅官房長官 (2014/9/20)

  菅義偉官房長官は20日、来年10月に消費税率を10%に引き上げるかどうかについて、12月8日に発表される7~9月期の国内総生産(GDP)2次速報値を見た上で判断する考えを示した。……… [続きを読む]

 小陳 増税とセットで景気対策が考えられると思うんですが、追加緩和や財政出動に効果はあるんでしょうか?

 嶌峰 公共投資はいまや短期的な効果しかない。その期のGDPのマイナス幅を多少縮小させるだけの効果しかない。さらに、人手不足で、公共投資をやれと言ってもすぐにできない。勤労者は景気が良くなって春闘で賃上げされれば、増税の悪影響をカバーできる。一方で、高齢の年金生活者らは、物価が上がった分と増税分の両方で、生活に直接、打撃がある。だから、政府が財政出動するにしても、資産を含めて所得が低い人を中心にカバーしていくような、そういう方にお金を回した方が合理的ではないでしょうか。

企業優先の政策が並んでいますが

 小陳 さらなる消費増税を前に、米国経済が良くなって、円安基調も続いて輸出も増える、政権としては幸運な経済環境がやってくるということですね。日本経済は、第3の矢、つまり成長戦略を進められるかどうかに、かかってきているような感じがします。

 嶌峰 デフレから脱却するために何をやったらいいかというと、インフレの土壌を作るしかない。資金を大量に供給する、お金の価値を減らす意味でインフレにプラス。円安になることもプラス。本来はそれに対応して給料も増えないと景気が悪くなるんですが、順番から言えば企業業績が良くならないとどうしようもない。そのギャップを埋めるためには株高にする。株高がどうしても安倍政権の命運を握っている。株式市場の期待を裏切らないために、法人税減税など、矢継ぎ早に「市場が喜びそうな」政策を出していく。増税という重荷も背負っているので、ますますそこに頼る力は大きくなっていく。企業優先の政策が軒並み並ぶのは、デフレ脱却をインフレからやっていこう、インフレ期待を高めることからやっていこうという政策なんで、宿命です。

 もう一つ重要なのは、インフレという雰囲気を作り出すことで消費者が「仕方がない、値下げはしない」というあきらめを同時に植え付けることも大事だと思うんです。企業が安心して価格転嫁できる。今は輸入が先に突っ走っちゃったんで、たとえば中小企業はまだ価格転嫁できていない。大企業が価格転嫁できるようになれば、中小企業も価格転嫁できるようになりますから。値段を上げても売れる、という環境がないといけない。期待に働きかけるというよりは、強制的にそっちへ動かす。ずるいやり方だが、やり方はこれしかない。必要悪だがこれしかない。

 小陳 株価が上がる政策ならなんでもいいとも見え、アベノミクスは体系だった政策なのかという感じがするんですが、そこにはちゃんと理屈があるんですね。

 嶌峰 実質所得がプラスになるまでの間を株高で埋める。株高によってマインドを改善させて財布のひもをゆるめる。こういう政策です。当然、貯蓄のほうが問題になるが、それは後で考えようということです。

変わる製造業

 米ワシントンに駐在していた2005年6月、ケンタッキー州にあるトヨタ自動車の工場を取材したことがある。北米市場で日本車メーカーが売り上げを伸ばしているのに、日米間に貿易摩擦が起きそうもない事情を探りに行ったのだ。

 印象に残ったのが、地域社会に対するトヨタの気配りだった。

 ケンタッキーはバーボンウイスキーと競走馬の産地として知られる。人と馬との関わりを示す公園「ケンタッキー・ホース・パーク」の近くの町ジョージタウンに、トヨタが北米初の完全自社工場を建設すると決めたのは1980年代半ば。今でも人口3万という田舎町の人たちは、多くの日本人が来ることに懸念を示したという。そこでトヨタは、日本人社員が同じ地区に固まって住まないように配慮していた。地元住民がトヨタをどう受け止めているかという2年に1度の世論調査は、私が訪れた時も続けられていた。

 ケンタッキー州内の教育関係の費用として、トヨタは年400万ドル近くを支出。効率のよい経営を目指すトヨタ生産方式のカギとなる「カイゼン」という言葉はそのまま、教育現場にも浸透していた。ジョージタウンがあるスコット郡では02年に、「生徒による品質管理(QC)活動」をテーマに国際会議を開いたほどだ。

写真プラザ合意を報じる1985年9月24日の夕刊

 トヨタが慎重に北米進出を始めた80年代半ばは、「空洞化」をめぐって日米が交差した時代だ。

 80年代前半、米国のレーガン政権は「強いドル」を掲げた。それも一因となって製造業の空洞化が進む一方、日本からの輸入は急増し、激しい日米貿易摩擦が起きた。  85年9月、ニューヨークのプラザホテルで、先進5カ国(日、米、英、仏、西独)の蔵相らが緊急会議を開き、ドル高是正で協調することに合意。時代の歯車が回り始め、1ドル=230円ほどだった外国為替市場では円高ドル安が進み、1年後には1ドル=150円ほどになった。

 そのころ日本では、貿易摩擦を和らげるために、日本企業の海外進出を進める必要があるという議論が盛んになった。「内需拡大」を唱えたことで知られる「前川リポート」も、日本企業による海外への投資を「積極的に促進すべきだ」と指摘した。

 トヨタのケンタッキー工場は、こうした時代に建設された。それは、日本の製造業の空洞化の始まりだったとも言える。

 90年代半ば、そしてリーマン・ショック、東日本大震災後と、日本企業は円高の波に襲われる度に海外進出のアクセルを踏み込んだ。

日本の稼ぎ方に変調 車・電機、海外生産を加速 (2014/9/19)

 輸出や投資の稼ぎで海外からお金が入ってくる経常黒字が減り、2013年度は初めて1兆円を割った。日本メーカーが海外の生産を増やし、円安でも日本からの輸出が伸びにくくなっている。「海外で稼ぐ」構造の定着を見越し、各社は研究開発に注力する。……… [続きを読む]

写真「稼ぎ方」が変わった

 今年7月のトヨタの国内生産は30万7356台。対して海外生産は47万2467台だ。

 日本企業の海外展開が進んだのは、円高だけが原因ではない。

 20世紀、日本企業の主戦場は長く日米欧など先進国の市場だった。しかし21世紀に入り、中国など新興国が台頭。リーマン・ショック後は、経済成長の重心は新興国に大きく傾いた。

 ホンダは2012年、「グローバルオペレーション改革」を打ち出した。世界を日本、中国、北米など6地域に分け、それぞれの地域で現地のニーズにあった小型のセダンやスポーツ用多目的車(SUV)などを同時に開発・生産する。

 ホンダは02年には、国内で1年間に138万6379台を生産し、47万5796台を輸出した。それが13年は国内生産が84万0650台、輸出は12万5478台にとどまった。海外生産は02年の151万4408台が13年には345万7740台と、2倍以上に増えている。

 この30年、日本企業の生産体制はすっかり変わったのだ。

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