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ことば談話室

豚丼~「ぶた」か「とん」か、それが問題だ 1

中原 光一

◇早朝の牛丼店で始まった

 それは、いつものように朝方まで痛飲したあとの「シメ」だか「メシ」だか分からないものを腹に収めるべく、某牛丼チェーン店に突入したときに発生した。

 牛よりは鶏や豚を愛食(?)する私は、豚丼を頼むために、
「“ぶたどん”ちょうだい」
と店員に告げようとした。

 しかし、隣に座っていた先客の女性(20代前半か)がこちらの機先を制するが如く、
「兄ちゃん、“とんどん”」
と言ったのだ。

 あぁ?「とんどん」? 何やそりゃ。「ぶたどん」ちゃうんか。
 しかし店員はニコニコと応対している。
 ……この流れで「ぶたどん」と言うのはKYか?
 ……ていうか、「とんどん」と言った方がイケてるのか?

 色んな思いが駆けめぐったあげく、意を決して私は告げた。
 「朝定食……一つ……」
  何という根性なし。(涙)

◇調査スタート

 言葉を生業とする職場にいる以上、この恥辱(?)を晴らさねば、今後「豚丼」を頼むことが出来ない!
 というわけで、まず同僚の本社校閲センター員にアンケートしてみた。43人が回答を寄せてくれた。なかには、ご家族に尋ねてくれた人もおり、回答総数は53件。

 その結果は……
 ・ぶたどん=48
 ・とんどん=4
 ・分からない=1

 どうだ!圧勝じゃないか!

 ただし「食べたことがないので、『強いて読むとすれば』」の回答もいくつかあった。年齢や出身もあわせて尋ねたのだが、はっきり“とんどん”派だと答えた4人は
 ・20代男性/東京出身
 ・46歳男性/福岡出身
 ・47歳女性/兵庫出身
 ・30歳女性/大阪出身

……一貫性がない。強いて言えば西日本が多い、てところか。

 ちなみに同様に発音が揺れる「豚汁」に関しては、NHKがかつて調査しており、それによれば
 ・ぶたじる=46% 主に東日本
 ・とんじる=54% 主に西日本

とのこと。ちなみに私は大阪出身だが、“ぶたじる”派! おかしい!!

◇「ぶた」へのこだわり

 ではなぜ、「ぶた」丼(あるいは「汁」)と私が読むのか。それには一応こだわり、というか理屈がある。

 皆さんも学校で習われたと思うが、日本語の熟語の読みは、本来「音+音」「訓+訓」がスタンダード。「音+訓」「訓+音」となるものは「重箱読み」や「湯桶読み」として例外扱いしている。
 その理屈で言えば、「汁(しる)」は訓読みだし、さらに「丼(どんぶり)」は国字(より正確には国訓)。上につく言葉は訓読みの方が自然じゃないか!

 それに関西では豚は「ぶた」。(肉まんだって「ぶたまん」やねん)

 しかし、ここで反論が来た。
 ・牛は「ぎゅうどん」。「うしどん」ではない。「牛丼」からの対比で音読みがいいのでは。
 ・「とんかつ」と言い、「ぶたかつ」ではない。
 後者は外来語(カツレツ=cutlet)にくっついているので、反証としては少し厳しいとしても、前者には一定の説得力がある。

◇「丼」への波及

 さらには、そもそも「丼」の字には「どん」という読みはない。あくまで「どんぶり」と読むのが本来で、「どん」はいわば省略形。2音節単位で発音しやすい形に縮めてしまっているわけだ。例えば、
 ・天丼(てんどん)=てんぷらどんぶり
 ・カツ丼(かつどん)=カツどんぶり
 ・鰻丼(うなどん)=うなぎどんぶり
 鰻丼なんて、「鰻」の読みさえ省略している。そうすると、この「どん」の読みを、いわば「音読み的」に捉えてしまって「とん+どん」とするのも一つの解釈か、とも言える。

 ……うぅ。段々弱気になってきた。

 実際「豚丼」を提供しているところに白黒つけてもらわなければなるまい。

(つづく)

(中原光一)