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ことば談話室

「1丁目1番地」前編 どこを指すのか?

三原 紀子

鳩山前首相拡大鳩山前首相
 「いのちを、守りたい。いのちを守りたいと、願うのです」――。6月2日に突然辞任表明した鳩山由紀夫前首相。その鳩山前首相が1月下旬にした施政方針演説は、情感に訴えるような、この一文で始まりました。その演説中にこんな一節がありました。「地域主権の実現は――鳩山内閣の改革の1丁目1番地です」。「1丁目1番地」。どういう意味だろうと思われた方もいらっしゃったのではないでしょうか。私もその一人でした。

 ◇いつから使われた◇

 社内にある辞書や新語辞典などで調べてみましたが、「1丁目1番地」を載せているものは見当たりません。ようやく見つけたのは、更新が容易なウェブの利点を生かし、最新の言葉を採用している小学館の「デジタル大辞泉」だけ。そこには「1丁目1番地」は「最初に実施すべき最重要な事柄を例えていう。最優先課題」とありました。なるほど、これなら意味が分かります。小学館のコミュニケーション編集局・板倉俊さんによると、鳩山政権になってから頻繁に新聞などで取り上げられ始めたので、2009年10月に社内のデータベースに登録し、12月にはデータ提供先のサイトや携帯電話から順次見られるようにしたそうです。

 では、いつから使われていたのでしょうか。

 朝日新聞の過去の記事を探してみると、この言葉を使っているのはほぼ政治家や官僚に限られているようです。そこで国会会議録を見てみると、1985年2月15日、衆院予算委員会で当時の村田敬次郎通産相が「――技術開発問題が一番重要だと思っております。これは通産省の1丁目1番地だということで――」と言っているのが最初の用例だと、確認できます。同年2月22日にも村田通産相は「情報化への対応ということが言うなれば1丁目1番地である、これが一番大事である」と発言していて、「1丁目1番地」イコール「最重要課題」という認識で使っているのが、わかります。このような言い方が省内で当時、一般的だったのかどうかを知りたいと思って、関係者に取材を試みたのですが、20年以上前の話で、多くの方が退官されており、話を聞くことができませんでした。

 ◇どんな意味?◇

前首相の鳩山氏と首相の菅直人氏拡大前首相の鳩山氏と首相の菅直人氏
 今回、「1丁目1番地」を調べるにあたり、マスコミ以外の民間企業勤務、主婦、学生、の肩書を持つ友人や家族計17人に「この語を知っているか」と尋ねたところ、政治家が使っているような意味を答えたのは0人でした。しかし、取材をした各省庁の方々に尋ねると8人中7人が、この「最優先課題」の意味を認識していました。私がハマっていたNHKの土曜ドラマ「チェイス」でも、国税査察官役の俳優が、東京地検のことを、所在地である「霞が関1丁目」と呼んでおり、現場の人はそう呼ぶこともあるのかなとニヤリとしてしまいました。「1丁目1番地」はまだまだ政界やお役所の業界用語の域を脱していないのかもしれません。

 でも、国会会議録で見る限り、1985年の初出から鳩山政権前までの登場件数は96件。それが鳩山政権以降の9か月だけで100件を超えています。閣僚や国会議員の発言は誰に対して発せられているのでしょうか。「じゃあ『最優先課題』って言えばいいのにね」。種明かしをした時の家族の反応が至極真っ当に思えてなりませんでした。

(つづく)

(三原紀子)

(次回は7月1日の予定です)