メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

ことば談話室

「コンビニ」が生まれたのは?

 5月29日付朝日新聞夕刊の「昭和史再訪」で、セブン-イレブンの国内第1号・豊洲店のオープンが取り上げられた。当日の天候は雨。最初のお客はジャンパー姿の男性で、サングラスを買っていった。初日の来店者は約800人だったという。
 日本初のコンビニエンスストアが「いつ・どこで」誕生したのかは、立場や解釈によって諸説がある。それでも、1974(昭和49)年5月15日に開店したこの店が、わが国でコンビニエンスストアという事業が本格的に展開され始めた例のひとつなのは間違いない。

◇英語はいつから◇

 「20世紀クロノペディア‐新英単語で読む100年‐」(John Ayto著、江藤秀一、隈元貞広訳者代表、2001年、ゆまに書房。"The Oxford Dictionary of Twentieth Century Words"<1999,Oxford University Press>の翻訳)で、「convenience」ということばには、1961年の年号が与えられ、英大衆紙デーリー・エクスプレスに掲載された記事から"The 'convenience store' is always open in America"(1965年)という用例が引いてある。1961年が示すのは、「OED(オックスフォード英語辞典)あるいはその資料の中で、印刷された記録、あるいは書かれた記録として最も古いとされている年号」(著者まえがきから)だ。
 英語でのコンビニエンス(ストア)は、1960年代にすでにある程度、書きことばとして通用するようになっていたと思われる。

◇日本語は?◇

 では、日本語ではどうだったのか?
 1970年8月7日付の朝日新聞夕刊の「経済気象台」という欄に、そのものずばり「コンビニエンス・ストア」という見出しが載っていた。このときは「コンビニエンス(便利)ストア」と丸かっこで注釈を入れてあった。米国のコンビニエンスストアの業態を紹介し、「関心がわが国でも急速に高まっている」としている。
 この欄は朝日新聞社外の経済人や研究者が執筆している。では、朝日新聞記者による記事を探してみよう。1971年6月1日付経済面に「来るかミニ・スーパー時代 住宅地で少数管理 営業時間長く手軽な買物」があった。見出しの「ミニ・スーパー」の脇に振り仮名のように「コンビニエンス・ストア」と添えてある。書き出しは、「米国で爆発的にふえているコンビニエンス・ストアが日本でも普及するきざしが出てきた」。
 このことば自体も、ようやく「普及するきざし」が見えてきた時代だったようだ。

 続いて「現代用語の基礎知識」(自由国民社)を見てみる。1973年版の「家政育児用語の解説」と別編「マスコミに出る外来語・略語総解説」の2カ所にコンビニエンスストアが登場し、「消費者が手軽で便利な買物ができる」「便宜性が特長」などと解説している。
 代表的な中型辞典のひとつ、岩波書店の「広辞苑」はどうだろう。1969年の第2版はもちろん、1976年の第2版補訂版にもこのことばは見当たらない。1983年の第3版で初めて、「便利。簡便」の語釈で「コンビニエンス【convenience】」の見出し語が立ち、その下に「-・ストア」が採録された。そして「無休で深夜営業をするなど便利さの提供を特徴とする店」と説明している。

◇4文字に◇

 現在、日常の話しことばでは、「コンビニエンスストア」と長ったらしく言わず、「コンビニ」と略していう人がほとんどだろう。
 朝日新聞では、1986年3月5日付の「経済気象台」に「コンビニ店」との記述がある。また1988年5月15日付の「ウイークエンド経済」というページには「コンビニ育ちヒット中 都市の夜変え、商品も変える」という記事が掲載された。
 時として新語を作ってしまうことはあるものの、俗語・口語に保守的な新聞の特性を考えると、話しことばや俗用として、もう少し前から通用し始めていたとみていいだろう。

 辞書では、ユニークな語釈で知られる「新明解国語辞典」(三省堂)が、1997年の第5版から「コンビニ」を見出し語として採用している。
 講談社の「日本語大辞典」は1995年の第2版で、「コンビニエンス‐ストア」の項目の末尾に「コンビニ」と記している。1989年の初版では「コンビニ」の記述はない。
 「広辞苑」は1998年の第5版に至って、「コンビニ」を見出し語として採用している。

◇派生語も◇

 こうして4文字と短くなって定着したせいか、新しい言葉も派生している。

 例えば「コンビニ受診」。コトバンクの「デジタル大辞泉」では「夜間や休日など一般診療時間外に軽症患者などが救急外来を受診すること。急病ではない患者が、仕事など自分の都合を優先させて、日中の一般診療と同じような感覚で救急外来を利用すること」と語釈している。「現代用語の基礎知識」には、2009年版から収録された。

 朝日新聞2005年8月20日付栃木版には、自治医大の桃井真里子教授のインタビューが掲載され、その中で「コンビニ診療」が出てくる。キーワードで、「コンビニエンスストアのように、平日でも夜間でも休日でも24時間、軽症・重症にかかわらず治療を受けられることを指す」と説明し、「軽症の患者が気軽に専門医のいる大病院に集中し、医療構造の崩壊につながる」と警告している。特に小児医療で「コンビニ化」が著しいとの指摘もある。

 「便利」という意味の「コンビニエンス」。だが「コンビニ受診」となると、患者にとっては「便利」だが、医師の過労の原因となり、救急医療現場の荒廃を招くという問題を含んだことばになっている。

 (宮田彰彦)